第百八十六話 昔々ある所に真祖の一家がおりました

「邪神教団、か」

「うむ。わらわの両親は奴らを倒すべく旅立ったのじゃ」

「それで何かあったらいけないからエリシャを神殿で眠らせた、と」

「そうなのじゃ。ケイロンよ」


 真剣な眼差しでエリシャが昔なにが起こったのか話してくれた。


 今よりはるか前ある真祖しんその一家が町のはしでひっそりと住んでいた。

 人よりも神獣に近い生まれつきの王族は高い戦闘力を持ち何百年も町の平和を護っていた。

 しかし邪神教団の出現でそれはくずれた。

 

 はるか遠くで活動していた彼らはついに真祖しんその家族が住んでいた町へとやってくる。

 その危機に気付いたエリシャの両親は娘の身の安全を考え古代神殿に娘を眠らせ討伐に行った。


 そして時代が変わり古代神殿の近くに出来ていた国の王にエリシャは起こされた、というのが大体の話のようだ。


真祖しんそが住んでいた町、ですか」


 そう言うとリンは頭を手でくりくりしながら考えている。

 何かを思い出そうとしているようだ。


真祖しんその英雄が出てくる英雄だんいくつかあったな」

「ああ、そうです。確か途中で英雄達と合流するやつもありましたね」

「英雄だん? 」

「そう。でもあれってかなり前のものだったと思うよ、エリシャ」

「かなり改変かいへんもされているでしょうし」

「本当の話かはわからないってことだね」

「その話詳しく――」

『ひーちゃん、ひーちゃん! 新しい人がいるわよ』

『ふーちゃん、あの変人は、大丈夫? 』

『大丈夫よ。まだ気づかれていないわ』

「せ、精霊?! 」


 英雄だんを話そうとしたら我が家の精霊達がすり抜けてきた。

 それを見て驚き瞳を丸く開けるエリシャ。


『あれ? この子私達のこと見えてない? 』

『本当だ! ていうかそこにいるじゃん』

『珍しい! 闇の精霊よ』

『ひぅ……』


 ひーちゃんとふーちゃんが何か見つけてエリシャの周りをクルクル回ると、黒いもやのようなものが出てきてその中から一人の精霊が視えてきた。


 闇の精霊? あれがか!

 体が小さく、ふるふると体を小刻こきざみに動かしている。

 どこかはかなげな女の子のような感じを受けるな。

 突然精霊四人にかこまれ興味深く見られておびえているようだ。エリシャの中に隠れようとしている。

 と、言うよりも今さっきどこから出た?!


「ミル、ここでお世話になる人達じゃ。挨拶あいさつをするのじゃ」

『エ、エリシャ。なんか怖いよ』

「大丈夫だ。あの変なエルフにさえ気を付ければ」

『わ、わかったよ。頑張る』


 ミルと呼ばれた闇の精霊は黒いもやを出しながらもちゅうを浮き俺達と四精霊を見て挨拶あいさつを。


『ぼ、僕はミル、と言います。闇の精霊です。よろしくお願いします』


 そう言いペコリ何回もお辞儀じぎをした。


「俺はこの屋敷やしきあるじのアンデリックだ」

「僕はケイロン。よろしく」

「リンはリンなのです」


 俺達が手を振り挨拶あいさつをする。

 その間につっちーとみーちゃんもやってきて我が屋敷やしきの精霊達がそろったようだ。

 二人は俺達の状況をさっしたようだ。

 元素四精霊は何か話し合いそしてミルの方を向く。


『ククク、我は火の精霊、ひーちゃん』

『我が名を知るがいい! 風の精霊ふーちゃんである! 』

『誰が呼んだかいきな人。水の精霊、みーちゃんよ』

『モグモグ土竜もぐらにしてやろうか! 土の精霊、つっちーよ』

『『『我ら四人そろって精霊四姉妹! 』』』


「この前は三姉妹って言ってなかったか? 」

『そこは、ほら。ノリよ、ノリ! 』

『ノリがわからないとはあわれだね、アンデリック』

『大丈夫。大体ノリで何とかできるわ! 』

「ならエルベルもノリで何とかしてくれ」

『『『すみませんでした』』』


 すぐさまちゅうで土下座状態になった四人。

 そここまでエルベルが怖いか。

 いや俺が逆の立場だったら怖いな。


「に、にぎやかじゃの、この屋敷やしきは」

「まぁ変態に変態に精霊が四人いるしな。にぎやかさには慣れた」


 エリシャが精霊達のテンションの変化や動き回る様子を見て驚き身をすくめていた。

 視えない他二人にはわからないだろうが自称じしょうノリで生きている彼女達はとても生き生きとしている。

 今も闇の精霊ことミルもどうしたらいいか右往左往うおうさおうしていた。

 彼女達を始めてみるならその気持ちわからないでもない。


「ミルは他の精霊にあったことは無いのか? 」

『ぼ、僕はあまりエリシャの影から出ないので……』

「影? 」

「うむ。ミルはいつもわらわの陰に隠れておるのじゃ」

『それにぼ、僕達闇の精霊は影から、で、出ないからこうして他の精霊さん達と話すのは……きゃぁ! 』

『遊ぼうぜ、闇のたみよ』

『お姉ちゃん達が手取り足取り教えてやるからよ』

『こっちに来なよ、僕っ娘』

『私し~らない』

『『『あ、卑怯者! 』』』


 芝居しばいをしている元素四精霊を見た後、ちらっとミルの方を見ると余程彼女達が怖かったのか影に隠れてしまった。

 なるほど。エリシャと出会った時に急に精霊の気配がすぐに消えたのはこのせいか。


「ミルの加護のおかげで妾は闇の精霊魔法が使えるのじゃ。これがちと特殊での」

「特殊? 」

「うむ。実際に見た方が良かろう」


 そう言いエリシャはてくてくと扉を出ていってしまった。


「何をするんだろうね」

「特殊って何でしょう。闇属性魔法とは違うのでしょうか? 」

「違うぞ」

「「「うわっ! 」」」


 いきなり後ろエリシャの声が聞こえた。

 驚きビクッとして後ろを振り向く。

 そこにはドッキリに成功したというような顔をしたエリシャがいた。


「ミルの能力を一部使えるのじゃ。しいて魔法に置き換えるなら『影属性魔法』といった所かの」

「す、すごいな」

「いましがたのは……名前はないのじゃが影移動シャドー・ウォークといった所かの。影から影へ移動できる力じゃ」


 ほとんど転移魔法じゃないか!

 俺達は顔を見合わせ少し相談する。


「……これは一回全員で話した方がいいかもね」

「リンもそう思うのです。メンバーの能力の把握はあくは基本なのです」

「だよなぁ。屋敷やしきの人にも言っておくか」

「それはやめておいた方が良いと思うのです」

「何で? 」

「どこから情報がれるかわからないのです。もしこれが他の人に、特に軍関係に知られたら厄介やっかいなのです」

「僕も同感かな。高位吸血鬼族ということで説明はしておくとしてこの魔法は秘匿ひとくしておくべきだね。かこい込みが激しさを増しそう」

「そうでなくてもセレスティナお姉ちゃんが歩く軍事機密きみつ状態なのでここに彼女の魔法がバレると……」

「バレると? 」

「家自体が狙われる可能性があるのです」


 リンがキリッとした表情でものすごく怖いことを言った。

 ならばパーティーメンバー以外には話さない一択いったくか。


「セレスが帰ってきたらその能力について話そうと思うんだが構わないか? 」

「うむ。構わんぞ」


 了解も得てセレスが帰ってくるのを待つのであった。

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