第百八十四話 エリシャとセレスティナ

 俺達は黒いフリフリ服のエリシャと共に冒険者ギルドの訓練場へ来ていた。

 俺達の前には攻撃をしてきた冒険者達が武装解除状態で正座している。


 エリシャを中心に俺達種族の輪サークルが並び皿のその後ろに職員がひかえる形となっている。

 そしてその職員達——特に魔族の職員が彼ら冒険者を見る目はかなり冷ややかだ。


 それも仕方ない。

 魔族の中でも王族と呼ばれる真祖しんそをヴァンパイアと勘違いして攻撃したのだ。

 暴動ぼうどうを起こさず冷ややかな目線だけですんでいるのが流石プロといった所である。


「コホン。ではなんじらの処罰を言い渡す」


 一人、高い台に立ってそう言った。

 全体に緊張が走る。

 エリシャしに冒険者達を見るとどんどんと顔が青くなっているのがわかる。

 

ゆるす! 処罰はギルドに任せるがこれは今後魔族に対して偏見へんけんを持たない事が条件! 」


 そう言い終わると台から下りてきて後ろを向いて俺達の背後にたったったっと回ってきた。

 その瞬間空気がゆるみ冒険者達に顔色が戻っている。

 ギルドの処罰もそうだが社会的な信用も一気に失っているので赦しても彼らには苦難くなんの道しかないだろうが。


「ありがとうございます、殿下。ギルドを代表してお礼申し上げます」

「冒険者ギルド? と国は相互不干渉とのこと。ならば私もその規則きそくに従うまでだ」

「ええ、しかしそれはその地に住む者をがいしていいというものではありません。彼らのような者を放置していたら冒険者ギルドは犯罪者ギルドになってしまうので」


 ギルマスのロビンソンさんが笑えない冗談じょうだんを言う。

 実際問題エリシャは本当の現存げんぞんする国の王族ではないしこの地に住まう者でもない。だが魔族としてはあがめられる存在だ。

 なので事前にこういったやり取りを決めておきスムーズに事が進むように話し合っておいたのだ。

 茶番ちゃばんなのだが、魔族の暴動ぼうどうを抑えるのには有効だったりするので一概いちがいに悪いとは言えない。


 エリシャ自身も最初から何か処罰を与えるようなことは考えていなかったようなのでなおさらだ。

 が、ギルドとして規律きりつやぶった者に処罰を与える必要があるので、見せしめも含め訓練場に集めて全員に言い渡したということである。


 ロビンソンさんは表情を硬くして犯罪者予備軍の方を向いた。


「君達はギルドの規則に従い処罰される。覚悟かくごせよ」


 今までとは違う声音こわねで言い放ちその場を収めたのだった。


 ★


「ふ~ん。僕達がいないあいだにそんなことがあったんだ」

「むむむ、ライバルの登場です」

「いや……。はい、すみません」


 俺達は広間ひろまでケイロンやリンと合流しエリシャを迎え入れた。

 なぜこういうことになったのかと言うとケリーさんとロビンソンさんに頼まれたからだ。


 あの後エリシャは冒険者ギルドに登録してFランク冒険者となった。

 正直身分証代わりである。


 一人でやっていくか、ケリーさん達と働くのかと思いきやケリーさんは俺に押し付けてきた。

 何でも「パーティー名のごとく彼女を入れろ」との事。

 恐らくギルド職員として招き入れた場合問題がおこるのだろう。

 それに一人にしておくには危険すぎる。攻撃される恐れのあるという意味でも、過剰防衛してしまう可能性があるという意味でも。


 ていよく厄介やっかいばらいされたような気もするが、彼女は全然気づかなかったのでしとするしかない。


 まぁ確かに『王族』ならばこっちにもいるし身分差になれていると言えば慣れているのだが、納得できない。


 そんな彼女は今エルベルと仰々ぎょうぎょうしい単語を使いながら会話をしていた。


真祖しんその吸血鬼族、ね」

「リンも初めて見たです」


「これはウォーカー男爵に連絡とった方がいいかな? 」

「いや、どうだろ。僕は、どっちでもという感じかな」

「その男爵さんは吸血鬼族なのです? 」

「ああ、確か血液貯金ブラッド・バンクとかいうお店の店長をしてたな」

「一度彼女がどうしたいか聞いてみたら? 」


 ケイロンの指摘してきももっともだと思いエリシャとエルベルの方を見る。

 こちらの視線に気が付いたのかぴょっと椅子から下りてきて俺の方へ向かってきた。

 横にいるリンを通りしその反対側へと行くと首をかしげてこちらを見る。


「どうしたのじゃ? 」

「これからどうすんだ? 」

「どうするも……一緒に冒険者? とやらをやるんじゃないのか? 」

「いやぁ知り合いの吸血鬼族がバジルにいるんだが会いに行ってみるか? 」

「ほぉ。それは興味深い」


 赤い瞳をギランとさせてこちらを注視ちゅうしした。


丁度ちょうどフェルーナさんやガルムさんを引き抜きに行かないといけないし……あれ? ウォーカー男爵の住所ってどこだっけ」

「基本的には貴族街にいるよ。後はお店か、領都りょうとの支店か」

領都りょうとが支店なんだ? 本店じゃなくて」

「う~ん。品物しなものが手に入りやすいバジルに本店を置いてるみたいなんだ」


 変わってるな、と一言つぶやきケイロンから目を移す。


「バジルに戻るのか! 」

「ん~リンはどうする? 」

「お兄ちゃんいるところリンがいるのです! 」

「なら後は……セレスか」

「出来ましたわ!!! 」


 バン! ととびらを開けて声の主が入って来た。

 音に驚きビクッとなるがセレスとわかり警戒を解く。


 彼女の方を向くと目が血走っている。

 こ、こぇ……。

 隣にいるエリシャが震えているじゃないか。

 振動がつかまれている服から伝わってくる。


「で、出来たのか? 」

「ええ、知識として教えられましたが基礎理論は現在の魔法理論を応用すればなんとかなりました。四元素魔法に光と闇、そして時間と空間指定をしてついとなる――」


 話ながらすごい迫力はくりょくで俺の方へ近寄ってくる。

 エリシャの震えが止まらない。

 気になって横を見るとガクガクと震えているようだ。


「——であるからにして……あれ? その少女は如何いかがいたしましたか? 」

「やっと気が付いたのか。エリシャ、彼女は俺のパーティーメンバーの一人だ。挨拶あいさつしてくれ」

「ぇっ! え、あ……」


 俺がうながすと『パーティーメンバー』と聞いて挨拶あいさつしないとだめだと思ったのだろう。

 挙動不審きょどうふしんになりながらも首をかしげているセレスの方を向いて前まで行く。


「わら……わ、わ、我は永劫えいごうの眠りよりめざめし王! き、きゅ、吸血鬼族の真祖しんそ——エリシャ・アマルディアだ……です」

真祖しんそ!!! 」

「ひぃ! 」

「魔族の王族! 大精霊に続き歴史にあまり出てこないなかば伝説になっているあの真祖しんそぉっ! 」

「やば……」

天啓てんけいです……。これはアンデリックについて行けと言う天啓てんけいです。転移魔法に続いて真祖しんそとはっ! ついてきてよかった……」


 涙を流しながら手を組み天井てんじょうあおぐセレス。

 その迫力はくりょくに負けて今にも泣きそうなエリシャ。

 誰かこの混沌とした状況をどうにかしてくれ。

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