第百八十三話 ギルマスに報告しよう!

「わしは冒険者ギルド王都本部ギルドマスター『ロビンソン』と申す者じゃ。よろしくの、アンデリック殿、そして種族の輪サークル方々かたがた

「い、いえ。こちらこそ」


 ギルドの二階に上がり一際ひときわ目立めだつ部屋に連れて行かれたと思えばそこに一人の老いた魔族がいた。

 恐らくこの人がギルドマスターなのだろうと思いながらも言われるがままにソファーに座る。ロビンソンさんも座るがその横にケリーさんが立った。


 ちなみに今ここにいるのは俺とスミナそしてエルベルとエリシャだ。

 彼女達からロビンソンさんに目を移すと真っ先に目に入ったのはその角だった。

 二本の立派で太く鋭利えいりな角がそそり立っている。


「今回は吸血鬼族を保護してもらい感謝にえませぬ」

「いえ、我々はその場に居合いあわせただけなのでお気になさらず」


 感謝の言葉を言うと涙もろいのか少しきらりと光る物が。

 しかし本当に居合いあわせただけである。

 感謝されてうれしいが、こそばゆい。


 エリシャを見ると思っていたよりも緊張してない。

 高価なソファーにはしゃぐかと思ったがそうでもないらしい。

 エルベルは少しエリシャを見習みならったらどうだ?


「『クレア―テ様に創られた者はみな平等』と言われても、我々魔族のような誤解を受けやすい種族はそうもいかず、エリシャ殿のように差別さべつされることも多々あるのです。そのような中彼女をかばってくださったことに感謝を」


 頭を下げながら感謝を伝えられて困惑する俺達。

 本当に大したことをしていないので目線でケリーさんに救いを求めたが、口を動かして『無理』と伝えてきた。

 昔に何かあったのは分かるが……収まるまで待つか。


 閑話休題かんわきゅうだい


 ギルマスの感謝の嵐も収まり次の話へと入ることに。


「さて、エリシャ殿なのですがこの国の方ですかな? 」


 彼が口を開くと全員がエリシャの方を向いた。

 一斉いっせいに見られたせいか少し顔を赤らめもじもじしている。

 前の言動げんどうの方が注目ちゅうもくびると思ったのだが口には出さない。


「そう言えばあまり見ない服装だな」

駄乳エルフエルベル、リンがこれに似たやつ着てたから獣王国じゃねぇか? 」

わらわは獣王国とやらの出身ではないぞ? 」


 そう見上げながらスミナの言葉を否定する。

 その状態で周りを見渡し自分がここに来た目的を伝えた。


「なんと……邪神教団が」

「それで王様にこっちに来るようにと? 」

「そうじゃ。じゃが、あやつも国の名前までは知らなかったようだからの。空を飛んで移動し、着地ちゃくちしたら攻撃されて吃驚びっくりしたわい」

「最悪のタイミングだな」


 どうもはる西方せいほうにある国から山を平原を森等様々な物の上空を飛んできたらしい。

 ものすごい機動力だ。


 途中休み休みだろうが、それでもその距離を数日で詰めるなんて聞いたことない。

 国と国をまたぐだけでもかなりの時間がかかるが名前も聞いたことのないような国——つまりケイロン達に教えてもらった国交こっこうのある国以外の国を数日で詰めるなんて信じがたいものだ。


 ギルマスのロビンソンさんも聞いたことのない国のようだ。

 多分ギルド加盟国の調査範囲外はんいがいにあるのだろう。

 

 しかし恐らく本当なのだと思う。どこか嘘を言っているような感じではないし嘘を言ってもメリットにならない。


「ふむ、雲の上を飛んできたのですか」

「直接日光にっこうをその距離でびても移動できるとは……。かなり高位の吸血鬼族の方と御見受おみうけする」


 真剣しんけん眼差まなざしでロビンソンさんとケリーさんが見つめた。

 強面こわもてのケリーさんがにらんだせいか若干委縮いしゅくしてしまっている。

 前までの強きな雰囲気ふんいきはどこへ行ったんだ?


「上位、いや最上位の方でしょうか? 」


 今度はロビンソンさんがおずおずといった感じでエリシャをうっすら見た。

 そして相手よりも自分の方が上位であることを認識したのか少し自慢げな顔をして口を開き、発達はったつした八重歯やえばを見せながら口を開いた。


わらわ真祖しんそ真祖しんその吸血鬼族じゃ」

「「真祖しんそ?! 」」

左様さよう、恐れおおのけ! 」


 急に立ち上がりドヤァと胸を張るエリシャ。

 それを聞いた魔族二人組は固まり、動かない。

 恐れすぎだろ。


 俺は受付嬢が出してくれた紅茶を一口飲みゆっくりして固まった空気が溶けるのを待っていると、ロビンソンさんは慌てて何をしたらいいのかわからないような動きをしている。

 ケリーさんは途轍とてつもない迫力はくりょくで俺をつかみ部屋のすみへ連れていかれた。

 何々何々!

 俺にそんな趣味は無いですよ、ケリーさん。


「おい、アンデリック。何巨大爆弾かかえてきてんだよ」

「どういうことですか? 単に保護しただけなのですが」

馬鹿ばか! ちげぇ。そこは良い。むしろファインプレーだ。だからこそあの野郎ばか共がやべぇんだよ」

「??? 」

「いいか、お前さんもここら辺よくわかってないようだから説明しとくとな。魔族全体にとって真祖しんそってのは王族と一緒なんだ。ただ国を作らないだけで王族なんだ」

「なるほ、ど? 」

「エリシャ様を目覚めざめさせた王とやらは後釜あとがまとして玉座に着かせたかったんだろうけどよ。国を作らなくても彼女の地位は確定してる! そこに、あのバカ共が攻撃した?! 普通の国なら王族に攻撃なんてした奴ら、どうなる! 」


 ひそひそ声で俺に説明してくれたおかげでさっした。

 つまりかばったのはいいけれど真祖しんそは王族のようなものだからヴァンパイアと間違えて行動した奴らがまずいことになると。


本来ほんらいなら厳罰げんばつますところだったんだ。あれでもCランク集団だ。この周辺である程度活躍かつやくしてる。馬鹿ばかだがな。だがよ。今回は無知むちじゃまされねぇんだ」

「……ちなみにどんな処罰に変更になるのですか? 」

「エリシャ様次第しだしだ。しかし、追放されてその後牢獄ろうごく行は普通にできる。牢獄ろうごく行きをまぬがれてもこれから一生いっしょう魔族の連中から白い目で見られるのは覚悟かくごしねぇといけねぇが。本当にエリシャ様次第しだいなんだ。頼む。頼むよ。何とか説得してくれよぉ……人手ひとでが足りなくなるんだよぉ」


 あのケリーさんが泣きそうな顔で懇願こんがんしてくる。

 鼻水はなみずれてる、汚っ!


 肩をつかんで何とか説得しようとしているが俺も負けずと抵抗する。

 ケリーさんしにエリシャを見たら彼女が思っていた反応とは違ったようだ。

 何か立った状態でキョロキョロしている。

 すこし恥ずかしかったのだろう。赤くなり座ってしまった。


「わ、わかりました。何とか言ってみますから、言ってみますから離れてください! 」

「頼むぜ、本当によぉ」


 やっと肩から手が離れて俺はエリシャの方へ向かう。

 俺が向かうとこっちを見上げてもじもじしている。


 彼女の所へ行くと俺も座り今もわたわたしているロビンソンさんを横目よこめに、彼女に目線を合わせて口をひら――こうとしたらエリシャが先に口を開いた。


「お、お花をみに行きたいのじゃが……」


 気付かなくて本当にすみません。

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