第百七十一話 王城の図書館とハプニング

「エ、エカ?! 」

「そうだよ。アンデリック君のお友達、エカ君だよ」

「「「で、殿下?! 」」」


 いきなり現れたこの国の次代の王に驚き固まってしまった。

 冗談じょうだんを言っているが、俺達はそれどころじゃない。

 なんで王子が図書館の案内に?


「はは、実はセレスティナが申請した閲覧えつらん箇所かしょには王族の許可が必要なところもあってね。それでついて行くことになったってこと」


 一斉いっせいに、セレスを見る。

 彼女は顔を背けたがどこか申請が通ってうれしいようだ。

 角が少し輝いている。


「……まぁ公務こうむをサボれて……ボソ」

「ん? 何かいったか? 」

「い、いや、何でもないよ。さ、行こうか! 」


 そう言われ俺達は王城にある図書館とやらへ向かった。


 この王城は巨大軍事施設を改築かいちくして造られたものである。

 石で出来た堅牢けんろう廊下ろうかは不自然につなぎ目がなかった。

 そして軍事施設の名残なごりなのか所々ところどころに罠があるとの事。

 特に宝物殿でんや図書館のような財宝や情報をあつかう場所はそうらしい。


「危ないな! それ?! 」

「まぁここに来る人なんて研究者か王家の者か……賊か、だからね。僕達は日替わりルートを知りくしているけど賊が入ったら一発さ! 」

「もしかして銀行も? 」

「そりゃぁもちろん。王城の中の銀行を行く時、迎えが来たでしょう? 」

「ああ、来たな。でもあれは俺達が最初だったからじゃ? 」

「毎回つくよ。だって毎日ランダムに罠が変わるんだもの。職員も気を付けないと一発さ! 」

「「一発さ! 」じゃないだろ!? どんだけ危険地帯なんだよ……」

「それだけ厳重げんじゅうってこと。さ、着いたよ」


 エカに先導せんどうされながら右に左に入りんだ道を離れないようについて行き巨大なとびら辿たどり着いた。

 着くまで冷や汗が止まらなかったが。


 ★


 図書館の前に立つ騎士に用事を伝え、中に入ると予想していた通り本でいっぱいだった。

 清潔せいけつな空気に紙の匂い。

 右を見ても左を見ても本棚ほんだながたくさんあり、そこにはびっしりと本がめられている。

 足元を見ると金糸きんしが入った、所々に何か紋様もようのような物が入った赤い絨毯じゅうたんかれており、最奥さいおくを見ると開けた空間がうかがえた。


「読みたい本を持ってきて一番奥の机で読んでて。ボクは机の方にいるから」


 そう言って奥の方まで行ってしまった。

 俺達は周りを見渡す。


「ワタクシは本をあさってきます。みなさんは如何いかがいたしますか? 」

「何もすることがないな……」

「オレは精霊様の本! 」

「ワタシは、適当にぶらつくぜ」

「リンはお昼寝したいのです」


 自由だな、おい。まぁ俺も自由にしようか。


「じゃ、それぞれ解散」


 そう言い全員がバラけた。


「と言っても何もすることは無いんだが」

「何を置いているのかさえ分かんねぇな」


 俺とスミナは二人で図書館内をばらついていた。

 途中までは各個別行動していたのだがスミナと出くわし一緒にぶらついている。

 何故二人一緒なのかというと二人共やることが無いからだ。


 セレスは大量の本を持ち運び長机の上で読みあさり、ケイロンとエルベルはゆっくりと本を読んでいる。

 そしてリンはというと、宣言通りお昼寝タイムだ。

 年齢に似合わず行動が年少なのは御愛嬌ごあいきょう

 よって残った俺達は特に何もすることもなく一緒に歩いているわけだ。


「しっかし変なつくりだな。この図書館」

「そうか? 」

「ああ。なんか変に左右対称たいしょうだしよ」


 そう言われ、一回扉の方へ行く。

 とびらから見ると確かに左右対称たいしょうだ。


「よく気が付いたな」

「むしろ最初に気が付かなかったのかよ」

「全く! 」

「はぁ……色も、ほら」


 そう言われて指さす方向を見ると本があった。

 内側から外側に向けて確かに同じ色の背表紙せびょうしの本が並んでいる。

 なるほど、確かにおかしい。


「けどここは昔軍事施設だったんだろ? 何か仕掛しかけでもあるんじゃないか? 」

「図書館の中にまで仕掛しかけるか? 」

「んん~、本を読んでいる途中に罠が発動したら嫌だな」

「だろ? 普通の人の神経だとまずやらねぇ。だから余計よけいにおかしいんだよ」


 罠かと思ったが違うようだ。

 左右を見て絨毯じゅうたんを見て、更に奥を見る。

 確かにすべてが対称たいしょうである。

 が、それ以上に特にない。特にないのがやたら恐怖をあおるんだが……。


「エカに聞いてみるか」

「聞くのか?! 」

「何か知ってても教えてくれないかもしれないと思うが、むしろ知らなかったら困る事だったら知っておくべきじゃないか? 」

「確かに……」


 少しうつむき考えるスミナを他所目よそめに奥の長机に向かう。

 テクテクテクとその後をスミナがついてきて俺に追いついた。


「エカ、ちょっといいか? 」

「何だい? 」


 まぶしい顔をこちらに向けて見上げてくる。

 それに負けずにこの不自然さについてきてみた。


「いや、知らないな」


 腕を組み、考えるエカ。

 考えていると思うと席を立ち、俺達が見たようにとびらの方へ向かった。

 そしてまた腕を組んで、頭をかたむけている。


「どうしましたか? 」

「ああ、ちょっと気になることがあって」


 そう言うと金色の瞳を輝かせてセレスがこちらを向いた。

 それに触発しょくはつされるように他の面々めんめんも話を聞きに来て事の不自然さを説明する。


「……ならば一度この本を元の位置に戻してみましょう」


 とびらの方で悩めるエカを置いておいて各人かくじん本を戻しに行く。

 足音や気配で起きたのだろう。リンが起き上がり目をこすりながら周りを見渡す。

 俺達は本を読んでいないため待機だ。


「やっぱりわからないね」

「そうか」

「何もないならそれでいいんだが」


 俺達が話していると他のメンバーが本を元の場所に戻し終えたようだ。

 セレス以外はこっちに戻ってきたのだが彼女は何をしてるんだ?


「セレスは何をしてるんだ? 」

「さぁ。だけど完全に考察モードだから何を言っても話は聞こえないと思うよ」


 各本棚ほんだなをウロチョロしているセレス。

 すると上と絨毯じゅうたんを見ながら一冊、また一冊と本を持ってきている。

 合計七冊の本を持ってきたと思うと俺達の前にもってきて床に広げ始めた。


「何してるんだ? 」

「恐らくですが魔法陣のたぐい仕掛しかけではないかと」


 そう言いながら特定の本の特定のページを開き並べていく。

 どれもなんも変哲へんてつもない本だ。ジャンルも違えば色も違う。

 六冊を並び終えたかと思うと最後の一冊を開いてその中央に。


「ちょ、それ危ないんじゃ? 」

「……さぁ? 」

「さぁ? って――」


 彼女が本を開き、中央に置くとそれぞれの本が六色に光り出す。

 線をむすぶかのようにそれぞれの光が魔法陣をかたどり俺達の回りを循環じゅんかんし――


「まずい! 」


 咄嗟とっさにエカをり飛ばして外に追いやり、設置せっちされた最後の本が輝いた。

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