第百七十話 報告と個別報酬

「いてぇ……手がまだひりひりする」

「僕もだよ」

「リンもです」


 最後に物理攻撃を与えた俺とケイロン、そしてリンは正体不明のアイアン・スパイダーの死骸しがいを前に手を横に振りしびれる手から痛みをやわらげようと必死になっていた。

 しかしその努力も無駄なようで、まだまだ痛い。


「それにしてもかなり硬かったな」

「ええ。アイアン・スパイダーは簡単につらぬけたのですが」

「ならジャイアントかマザーってこと? それとも突然変異? 」

「リンは突然変異に一票いっぴょうです。マザーが現れたらそれこそ大騒おおさわぎなので」


 魔虫まちゅう型、特に蜘蛛くも型モンスターの生態系の頂点ちょうてんするマザー。

 これはまれにしか――それこそ百年に一回くらいにしか出没しないモンスターである。

 現れれば国に甚大じんだいな被害を与え、倒せないといくつもの国が滅ぶらしい。

 自然発生するジャイアントやスモールと言ったモンスターとは違い、マザーはその下位種を生み出せるまれなモンスターだ。

 よってマザーではないだろう。これがマザーならすでにカルボ王国はなくなっている。


「この糸は素材なのか? 」


 エルベルが倒れた木に近寄り糸に触っていた。

 不用心ぶようじんすぎる、と思ったが何ともないようだ。


「回収できるなら回収してギルドに売り出せばいいんじゃないか? 」

「そうだな。それにしても硬いな……」


 倒れた木と立っている木の間にある糸をピン! ピン! とはねながら触った感触を。


「アイアン・スパイダーの糸はその硬度と軽さから重宝ちょうほうされます。回収しましょう」

「なぁこれいくつかもらってもいいか? 」

「構わないとは思うが……どうするんだ? 」

「何、これだけあるんだ。武具にでもならねぇかなってな」

「なるほど、ね。なら……回収しようか」


 そう言い遠く向こう側まである糸を回収し、ジャイアント・スパイダーを大袋アイテムバックに入れてギルドへと戻るのであった。


「依頼のオーク討伐、並びにジャイアント・アイアン・スパイダーの討伐を確認しました。こちらが報酬となります」


 いつものアルビナとは違う受付嬢に素材を渡し、討伐完了の報告とイレギュラーの発生を伝えた。


 討伐証明とその巨体を解体所で出すと鑑定士が鑑定。

 種類が判明すると俺達は完了報告と報酬を受けた。


 冒険者ギルドから出て屋敷やしきに戻るといつものように使用人が出迎えてくれる。

 夕方も近かったので特に腹に物を入れることもなく明日の作戦会議を。


「明日はどうする? 」

「やっぱ冒険者ギルドの依頼? 」

「リンはお姉ちゃん達にしたがうのです」

「ワタクシは、王城へ行きたいです」

「「「王城??? 」」」


 全員が一斉いっせいにセレスの方を向いた。

 はて、王城に何の用が?


「以前にもらった個人報酬を受け取ろうかと」


 そう言うと少し気まずいような顔をしながらもじもじするセレス。

 あ~あったな、個人報酬。

 俺は昇爵しょうしゃくと金銭そしてリンがとついできたわけだが各々に個人報酬が渡されていた。

 何せ賊の討伐は俺だけが行ったわけではないからだ。


 エルベルとスミナは金銭だった。

 最初エルベルが「精霊様! 」と言った時は彼女をすぐに取り押さえたのだがそれを笑い飛ばした陛下には頭が下がる思いである。

 しかし流石に精霊を与えることなんてできない。だが何も与えないわけにはいかない。そう言うことで金銭ということに落ち着いたのだ。 

 スミナは恐縮きょうしゅくしまくってほしい物が頭に浮かばず金銭に。

 多分後の落ち込み様を考えると希少金属とかを言ってたらよかった、と思っていたに違いない。


 ケイロンは魔境探索権という怪しげなものを要求していた。

 カルボ三世の顔が引きったのを思い出すと、あまり良い物ではないのだろう。


 そしてセレスである。

 彼女は王城にある図書館の閲覧えつらん許可を求めた。

 無論、普通の閲覧許可ではない。流石に禁書庫は無理であったが行けるギリギリのラインまで譲歩じょうほを引き出し最上級の閲覧えつらん許可を手にしていた。


 知識欲の権化ごんげと言えど、ここまで王家に食いつく貴族家はあまりないだろう。


「いつかは行くんだし、いいんじゃないか? 」

「ワタシもいいぜ? 」

「行こう! 」

「ではついて行くですよ」

「うん。みんなで行こう! 」

「ありがとうございます! 」


 そう言い使用人達に明日の予定を伝えて俺達は睡眠をとった。


 ★


 翌日朝王城内。


 堅牢けんろうな王城にある一室で俺達はくつろいでいた。

 流石に何回も来たら緊張はうすれるというものでケイロン達にならい紅茶を一杯。

 以前だと紅茶を口にする余裕もなかったが成長するものである。


「そう言えば……どうしてDやCランクモンスターの種類が多いんだ? 」


 ふと気になったことをセレスやケイロンに聞いてみた。

 するとティーカップを音を鳴らさずに置いてこちらを向く。


「モンスターは本当に多種多様だけどそのほとんどがCランク止まりになるから、かな? 合ってる? ティナ」

「ええ、大体は。例えば昨日の依頼で討伐した『オーク』は単体ではEランクになります。しかし冒険者ギルドに依頼が出されるとDランクへと上がりますがこれは集団を形成することに起因きいんします」

「確かに一体相手すんのと、いっぺんに相手すんのでは厄介やっかいさがちげぇな」


 セレスの解説にスミナがうなずく。


「個人でも複数体相手できる冒険者はそれなりにいますが何事も『もしも』がありますのでランクが一つ上に設定されております」


「この法則とは別にもう一つあるんだ」

「それが上位種の存在です」

「そうそう。ゴブリンならソルジャーのような個体がいたりリーダーのような存在がいたりね」

「全部吹き飛ばせば問題ないじゃないのか? 」


 それが出来ればみんな苦労しないよ、エルベル。

 脳筋のうきん発想はっそうにリン以外が苦笑している。


「まぁそれが出来るなら構わないんだけど、予測不可能なことってあるからね」

「……話を戻しますと上位種が確認された場合でも討伐ランクが一つから二つ上がります。それはその上位種の種類によりますが」

「で、上がるのにも限度があるってこと」

「その比較的下位のモンスターで食い込めるのがCランクまで、ということなります。そしてBランクからは個体の強さが強調されていき、数を急激に減らしますので」

「少ないってこと。因みにヒュージ・スケルトンのような異常個体は別だからね。ヒュージ・スケルトンは突然変異の一種だから」


 なるほどね、ようするにCランクまでは種類の多さと上位種の上限ってことかが原因でその数が多いってことか。で、B以上は個としての強さが求められるモンスターがカテゴライズされていくと。異常個体は別だけど。


 などと考えているととびらからノックの音がしてくる。

 返事をして入室を許可すると一人の青年が入って来た。


「さ、行こう。ボクが案内するよ」


 おい、なんでここに王子がいるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る