第百六十九話 討伐依頼

「よし、じゃぁ行くぞ! 」

「はい」


 薄暗い森の奥。ひさしぶりに討伐依頼を受けた俺達は全員で目の前の敵に注目していた。

 相手は蜘蛛くも型モンスター『アイアン・スパイダー』に似たモンスターである。

 自分達よりも討伐ランクの高いモンスターなのだがこれには理由があった。


 事は討伐依頼を探していた時までさかのぼる。


「オークの討伐依頼? 」

「へぇ、ここ最近見かけるんだ」

「ランクもDです。丁度ちょうどいいですね。受けて見ませんか? 」

「構わないが……」


 ちらりとリンの方を見る。

 リンは最近入ったばかりで連携れんけいをうまく取れないかもしれないな。

 一回他の依頼でならした方がいいのか?

 俺の視線に気が付いたのかこちらを見上げにこりと笑った。


「お気遣きずかいは無用むようですよ。オークなら幾度いくどとなく倒したことがありますので」

「なら決定だね」

「持っていこう! 」


 そう言いながらエルベルが早速アルビナの所へ依頼書を持っていく。

 オークを幾度いくどとなく倒すって……かりにも王女様だよな?

 流石武闘派王女様。


 感心しながら、頼りにしながらも俺達は南の森へ向かうのであった。


 結果から言うと一番討伐数が多かったのはリンであった。

 だが……。


「前に出過ですぎかな」

「後は素材として持っていけないものも結構出ましたわ。もう少し加減していただけるとありがたいのですが」

「まぁまぁいいじゃねぇか。証明部位はとれたんだからよ」


 辛辣しんらつな言葉を並べて少し注意をうながすケイロンとセレス。

 そしてそれをフォローするスミナ。

 注意とフォローをしている中、エルベルは周りを探知している。

 俺はそれを聞きながらオーク達の惨殺ざんさつ死体を燃やしていた。


「オークは耳が証明になります」

「だけど素材となるのは上にり立つそのきば

「今回は大きなきばが取れたはずなのですが」

「ちょっとやり過ぎたね」

「うう……」


 確かにやり過ぎている。

 彼女の巨大なクロー——獅子王の爪クロー・オブ・ライオネルはあまりにも威力が強すぎた。

 どのくらい強すぎたかと言うとオークの頭部を縦に切りくくらいだ。

 元々もともとの実力に合わせてクローの威力。当初ねらっていた前衛の充実じゅうじつは確かにたせたがそれ以上に素材の損失は痛い。


 ちなみに獣王国から持ってきた武器や武具はこれだけじゃない。

 いつも着ている服はどうやら防具だったらしく獅子王のマントマント・オブ・ライオネルというらしい。どうも意志によりその形状を変化させることが出来るようで、いつものメルヘンチックな姿から今の軽戦士のような露出ろしゅつ度の高い姿に変化した時は全員が驚いた。


 ま、最初だしそこまで怒ることは無いだろう。


「お、なんか来るぞ? 」

「え、オークは倒したはずですが」

「集団で来ている。しかも多い」


 それを聞き全員が戦闘態勢に入る。

 俺は長剣ロングソードを、ケイロンは細剣レイピアをセレスは魔導書、エルベルは精霊弓を前に構えてスミナは最前線に立ち盾を構えてハンマーを手に取った。


「大きな奴もいる。最初にぶち込もうか? 」

「それじゃ小さな奴が周りにらばらないか? 」

「ワタシが注意を引きつけてやるよ」

「ではエルベルさんに合わせてワタクシも大きなものを放ちましょう」

「僕とデリクは片付けだね」

「それで行こう」


 そう言うと共にエルベルとセレスが集中し始めた。

 そして相手の姿が見えようとした瞬間彼女達は魔法を放つ。


「——」

多重氷槍アイシクル・ランス


 巨大な空気の塊が体長三メルほどの蜘蛛くも四体にぶつかった。

 一体は圧縮された空気を直に受け後ろに大きくき飛ぶ。

 しかし強打したせいか一撃で沈黙した。

 後の三体は氷の槍で串刺しにされて動きを止め、体の内部から凍り付いて行く。


 出会った瞬間攻撃を受けると思ってなかったのだろう。

 蜘蛛くも型モンスターは吹き飛び串刺しにされた仲間に驚き足を止めた。

 その瞬間を狙い俺とケイロンがさばいていく。


「剛撃!!! 」

「蹴撃!! 」


 相手を見た瞬間アイアン・スパイダーということが分かり斬撃系でなく殴打系の剛撃でダメージを与えていく。

 ケイロンも細剣レイピアでは無理だと思ったのか相手を武技でって、吹き飛ばす。


「おっとそっちじゃねぇぜ」


 スミナが挑発を使い周囲にろうとする小型のアイアン・スパイダーを集めた。

 八つの眼光が複数スミナに向く。

 その気味悪さに少しひるむも大槌ハンマーを使い、潰していく。

 加えて近くに待機していたリンがクローを振りかざして一メル未満の小物を次々に切り刻んでいた。


 その背後からなく風の精霊魔法と氷の魔法がアイアン・スパイダーを潰していき全滅させたかと思ったのだが……。


 メキメキメキ。


 木々を薙倒なぎたおしながらそのモンスターは出現した。


「アイアン・スパイダー? 」

「にしては大きすぎますね。ならばジャイアント・アイアン・スパイダーでしょうか」

「マザーもありるけど……」

「それにしては小さいと、リンは思います」


「何だっていい。倒せばむことだ! 」

「本来なら戦闘は避けるべきなんだろうけど」

「これは逃げれないね」


 正体不明のアイアン・スパイダーの八つの赤い眼光がキラリと光る。

 俺達の五倍以上の巨体に加えにらんだ相手を不快ふかいにさせる瞳を持っているようだ。


 先手必勝。


「ケイロン! ヒュージ・スケルトンの時と同じだ。関節を狙う! 」

「オーケー! 」


 俺とケイロンが一斉いっせいに飛び出す。

 一瞬で距離を詰めた俺達は足の関節を狙って縦に剣を振りかざすが――


「「なっ! 」」


 一瞬にして他の木に飛び移ってしまった。


「あの巨体でこの速さはダメだろ! 」

「動きを止めます! 加重グラビティ! 」


 後ろからセレスが魔法を放つとメキメキメキと木が音を立てながら折れていく。

 かなりの重さがかかっていることが分かるが、その重さをものともせずに他の木に飛び回る。


「え?! 」


 木に飛び移ると周囲の木々にキラキラ輝く糸を吐き、新たな足場を作っていた。


「ならば直接遅くされるのは如何いかが? 移動速度減少スピード・ダウン

「オレから逃げようなんて無駄だ! 狙撃!!! 」


 直接弱体化魔法を受けたモンスターは動きをにぶらせながらも未だに飛び跳ねようとしていた。 

 その地点にエルベルが精霊魔法を打ち込みちゅうを移動しようとしていたアイアン・スパイダーを打ち落とす。


「重撃・かさね! 」

「重刺突撃! 」

「重爪撃! 」


 そして俺達が一気にたたみかけ機動きどいう力を奪い絶命させた。

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