第百六十七話 王都のドタバタな日常 十 来客とパーティー 二

 着飾きかざった俺達六人はパーティー会場を往く。

 セレスとケイロンそしてリンは慣れている様子で各貴族家の面々めんめん挨拶あいさつをし、硬直こうちょく状態の俺を補助ほじょしてくれた。

 エルベルは緊張感を感じずいつもは食べれない食事を皿に取り口に放り込む。

 スミナは、可愛かわいそうなことに唯一ゆいいつ一般的な常識を持ったがために空気の餌食くうきとなっていた。

 王侯貴族子女三人娘は言わずもがなエルベルやスミナのドレス姿というのも新鮮しんせんだった。

 美しく、気品きひんあふれている。

 しかしエルベルはその行動のせいで、そしてスミナは緊張で挙動不審きょじょうふしんな行動をとってしまったがためにそれをそこなってしまっていた。


 こうして緊張の中始まったパーティーは意外にも問題なく終わりをげる。


 そして現在応接室。

 本来なら俺が座る場所にエカことエレク第一王子が座りその両脇を騎士と執事と思われる付き人が固めている。

 本来ならアース公爵やドラグ伯爵、アクアディア子爵と今後の話し合いをする為にもうけた席だったのだが王子がいるせいか緊張感がただよっている。

 本当に、何しに来たんだ?


「……何か話そうよ」

「いや無理だろ! 」


 あ、やってしまった。

 しかしエカも悪い。突然来るんだもの。物理的な準備も心の準備もできていない。

 俺がツッコんだせいか少しの緊張が走るも、エカが笑い出して空気が緩んだ。


「ははは、確かにね。でも本当に何か話そうよ、集まった意味がないじゃないか」

「ならば僭越せんえつながら。エレク王子は、なぜここに? 」

「簡単さ! それは……」

「「「それは??? 」」」

「僕とアンデリック君が友達だからさ!!! 」


 ドヤァ、と胸をり言う王子。

 それに反応して各貴族家当主がこっちを一斉いっせいに、見る。

 やめて! 呼んだのは俺じゃない!

 それにエカよ。自分がどれだけ悲しい事を言っているかわかっているか?

 俺までなんか悲しい気持ちになってきたんだが気のせいだろうか。


「ま、そう言うのは置いておいて何か困ったことが無いかなって」

「はぁ、困ったことですか」


 それはもうありますとも。間近まぢかでいうならば目の前に原因がおりますが。

 しかし、分かってないんだろうな。こりゃ。

 少し考えて困ったことを考える。何かあった方が、いいんだろうな。

 そうだな。目の前の王子来訪やエルベルの異常行動、精霊が住み着いたことや獣王国の姫様以外にとなると……あれか。

 思いついた俺は嘆息たんそく気味に、言ってみた。


「そうですね。人手ひとで、でしょうか」

「ん? この前送ったと思うのだが」

「ええ、僕の家も送りましたね」

「え? 私は送ってないのですか」


 俺の言葉を皮切りにそれぞれが顔を合わせ口を開く。

 ケイロンとセレスの実家から送ってもらったからジルコニフ様の所からは呼んでなかったんだよな。

 よくよく考えるとこれって、まずい? 

 しかしこれ以上護衛とか使用人とかの人数を増やすのもそれはそれできついんだが。


目下もっか足りないのはコックやそれをまとめるシェフです」

「確か他の所から呼んでくるとかで保留ほりゅうになっていたはずだね」

「そうですな。俺もそのように聞いております」

「……私、何も聞いてないんですけど」


 少しうつむきかけのジルコニフ様。

 何か、一人だけはぶっているようで罪悪感が半端はんぱない。

 この派閥はばつおさのはずなんだが、なんだこの不遇ふぐうな立ち位置。


「ならわた「王家から人材を出そう! 」……」


 ジルコニフ様が一気に顔を上げここぞと言わんばかりに口を開こうとしたら、エカが王家から出すと行ってしまった。


 ふ、不憫ふびんな。

 これが派閥はばつおさが受ける仕打ちなのか?!

 ちょっと涙目なみだめじゃないか、ジルコニフ様。

 頑張れジルコニフ様。

 負けるなジルコニフ様。

 人はこれ以上雇えないけど心の中で応援してます!

 

「コックにシェフ、料理人か」

「一人くらいでいいので。いや一人くらいが丁度ちょうどいいです」

「給金の問題? 」

「ええ、お恥ずかしながら」

「……了解した! 今度連れてくるよ」

「あ、ありがとうございます」


 少し考えニコリと笑いそう言った。


 そしてある程度話、時間もせまったということでエカは屋敷やしきを出ていった。

 また来る、と言い残して。


「さて、今日はアンデリック少年に話すことがあってきたんだ」

「僕もだよ」

「殿下の来訪で少し狂いましたが、始めましょうか」


 エカが出ていった後再度席に着きなおした俺達は顔を合わせて本題を話し始める。

 コウ様が話始めジルコニフ様が仕切り、ピーター様が追従ついじゅうする。

 何だよ、話したいことって。

 俺がパーティーに出向くのではなくてわざわざ来るんだもの。何か話があるのは予想していたんだけど。こうも派閥はばつの上位者が集まると嫌な予感しかしない。


「……これを」

「……」


 コウ様が少しおごそかな雰囲気を出して一通の封筒ふうとうを渡してくる。しかしニヤニヤした顔が全て台無しだ。

 ピーター様も一通の封筒ふうとうを長机に置き、渡してくる。しかしコウ様とことなり血の涙を出し、少々の殺気を伴いながらこちらに渡してくるのでかなり怖い。

 ジルコニフ様は、特にないようだ。本当に何しに来たんだ、この人。


「これは婚約に関する書類だ」


 確かにコウ様はそう言った。


 ★


「殿下。今回どうしてこのような無理を? 」

「友達だからさ! 」


 貴族街から王城へ向けて一台のきらびやかな馬車が通っている。

 魔法のあかりをともしながら進んでおりその光で前と後ろに護衛の者が見えた。


「本当にそれが通じると? 」

「はぁ仕方ないね、じいは」


 エレク王子は目の前にいるじいと呼んだ執事服の男性に説明を始める。


穏健おんけん派三家の後ろ盾を得ている冒険者としてこうした新興貴族。しかも獣王国ビストの姫がとつぐ予定。他の貴族はきっと嫉妬しっとするだろうね」

「左様ですな。今まで以上に荒れる、とまでは行かなくとも何かしらあってもおかしくないでしょうな」


「しかも、しかも、王都の屋敷やしきはアクアディア子爵家とドラグ伯爵家の使用人ばかり」

「何か良からぬことを考えていると思われても仕方ないでしょう」

「そう言うことだよ。この屋敷やしきに王家からの人材を派遣はけんすることによってある程度監視していることを示さないといけないんだ」


「そこまであの貴族に肩入れする必要が? 」

「いざとなったらアクアディア子爵家が動く、これだけでも十分な脅威きょういだよ。他の貴族にとって。それに……」

「それに? 」

「困っていたら助けに行くのが友達というものでしょう? 」


 笑みを浮かべながらそう言うエレク王子に執事は溜息ためいきをつきながら変わりゆく現状をうれうのであった。

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