第百六十六話 王都のドタバタな日常 十 来客とパーティー 一

 遅めの昼食を終え俺達は午後の眠気に誘われながら俺が口を開いた。


みんな、ちょっといいか? 」


 エルベルをのぞいた全員がいぶかしめな顔をしてこちらを向く。


「二階の客室の内一つを立ち入り禁止にしようと思うんだ」

「え? なんで? 」

「立ち入り禁止、ですか」

「これはまたな……あぁ~」


 スミナが何かに気が付いたようだ。

 不思議な顔をしている他の面々めんめんの中、心当たりがあると言った表情をする。

 なるほどな、と言いながらも右に左に何かを感知しようとしているエルベルの方を向いた。

 他のメンバーもそちらの方を向くと気付いたのだろう。これをさっして、何も追及ついきゅうしなかった。


「いいと思うよ」

「ええ、最善さいぜんですね」

「一番の、方法ですねぇ」

「悪いが……アリスさん」

「は、はい! 」


 俺は広間ひろまとびら付近に待機たいきしていたアリスさんに声をかけた。

 声をかけられるとは思っていなかったのだろう。少しビクッとなりながら返事をする。

 俺のすぐ後ろまで来るのを確認して、伝えた。


「さっき言ってたように二階の客室を一室立ち入り禁止にしようと思うんだ。だから悪いんだけど、他の使用人達と話し合ってどこがいいか決めてくれないかな? 」

承知しょうちいたしました。後程のちほどまり次第しだいご連絡いたします」


 アリスさんはそう言い、元の位置まで戻ってとびらの向こう側へ連絡した。


「後は次からの依頼だけどどうする? 」

「今討伐系は少ないから採取系? 」

「もしくは雑務系」

「しかしリンに雑務をさせるのは……」

「リンは大丈夫なのですよ、セレスティナお姉ちゃん」

「リンが大丈夫なら反対しませんわ」

「なら雑務系をこなしつつ、採取系か」


 リンにさせるのは心苦しいがリンが大丈夫ならいいだろう。

 もとより冒険者ならば雑務であろうと何であろうとやるべきだ。

 そこに地位ははさまないのはリンの美点だろう。


「そうそう、いつごろ王都を離れる? 」


 ケイロンが聞いてくるがこれも難題なんだいだ。

 一先ひとまずコックを採用さいようしてからじゃないと使用人達に申し訳ない。

 一時的に誰か雇ってフェルーナさんの返事を聞いてから継続けいぞく雇用にするか考えるのもありか。


「まずは……そうだな。ガルムさんに直接話に行って呼んでくるか」

「ならバジルへの護衛依頼を受けつつ行くのはどう? 」

「ああ、それいいなケイ」


 予想以上に早くリンが講習こうしゅうを終えてしまったことにより若干じゃっかん予定がずれた。


 給料の事だ。

 ある程度の期間ならば国営銀行のお金と年金で給金が出せるだろ。

 しかしこの状態はあまり長くは続かない、とケイロン達と話した。

 現在十二人も雇わないといけなくなっているので、一先ひとまずは今まで通り冒険者として依頼をバンバン受けないとまずいだろう。


 粗方あらかた話し終え俺達がそろそろ席から離れようとしていたらとびらからノックの音が聞こえた。

 返事をするとルータリアさんが入ってきてこちらに三通の手紙を渡してきた。


「こちらアース公爵閣下、ドラグ伯爵閣下及びアクアディア子爵閣下の使者殿よりあずかった書簡しょかんになります。ご確認を」


 嫌な予感しかない。


 ★


 三階執務室しつむしつでセレスとケイロン、そしてリンの立ち合いのもと中身を開けると嫌な予感は的中てきちゅうしていた。


 溜息ためいきをつきながらも再度一階に下りて全員集合。

 十二名の使用人達の前で俺は彼らにげた。


「……近日中にジルコニフ・アース公爵閣下、ピーター・ドラグ伯爵閣下そしてコウ・ドラゴニル・アクアディア子爵閣下がご家族を連れてお見えになる」


 俺の重い口調とは反対に彼らはどこか「やっぱりか」という雰囲気ふんいきを出していた。

 あ、あれ? 思ってた反応と違う。

 もしかしてこれを予想していた?

 逆に俺が戸惑とまどった。


「アンデリック、派閥はばつの問題ですわ」

「そうそう。僕とティナはアース公爵の派閥はばつ——『穏健おんけん派』と呼ばれている派閥はばつになるからね」

「各貴族家からの後ろ盾がある以上、このセグ子爵家は自動的に『穏健おんけん派』に入ることになりますね」

「マジか……」


 三人の言葉を聞き、項垂うなだれる。

 派閥はばつなんて入りたくなかったし、派閥はばつ争いなんてしたくない。

 が、それもかなわぬ夢だったようだ。


「加えてセグ子爵家が新興しんこうである以上他の派閥はばつがちょっかいを出してくるかもしれません」

「だから最初に穏健おんけん派が「俺達が後ろ盾してるんだー! 」って他の貴族家を牽制けんせいするためのパーティーだと思うよ」


 ケイロンがつめを立ててまるで威嚇いかくする猫のように「しやぁー! 」っとうなる。

 それを苦笑いを浮かべながら使用人達の方を再度見た。

 しかし、思った以上に驚いてないな。


みんないつごろからわかってた? 」

「失礼ながら最初からでございます」

「「「……はい」」」

「予想してなかったのは俺だけかよ! 」


 聞いてみると全員がこの事態を予測していたようだ。

 ちょっとショックだ。

 だがそうなると俺とスミナ、エルベルのような一般人枠以外は心の準備ができているわけだな。

 仕事は任せてもいいだろう。


「お任せください。全力でおもしろいほ……いえ、取り組ませていただきます」


 今さっき「面白い方向に」って言おうとしてたよね、ルータリアさん!

 エルベルの次にルータリアさんが不安だよ。

 セレスは知的欲求ちてきよっきゅうを刺激しないと暴走しないからまだ大丈夫だけどルータリアさんは確信犯だからな。

 注意しないと。


「じゃぁこれからもてなす準備をしようか」


 こうして穏健おんけん派三家をまねき入れる準備を始めるのであった。


 ★


 当日屋敷やしき応接室おうせつしつ

 事前に来ると連絡があった三家、『アース公爵家』『ドラグ伯爵家』『アクアディア子爵家』の方々に加えてある一団を目の前にしていた。


 なんでだろうな、なんでだろう。

 おかしいな、俺の目には一人おかしな人がいるぞ?

 物凄い手を振って、そして護衛にかこまれた人がいるぞ……。


「出迎えてやんな、アン」

「おかしいな……一人、おかしいな……」

「現実を見ろ、受け入れろ。もうどうしようもないんだ」

「なんというか……」

「これは……」


 ほら俺だけじゃなくてみんなも困惑している!

 なんでスミナは平然へいぜんとしているんだ?!


「今日はおまねきありがとうございます、セグ子爵」


 付き人の一人が口を開いた。

 まねいてない! だんじてまねいてない! が、ここはまねいたことにしないとだめだろう、な。


「い、いえ。殿下をお迎えできるなど至極恐悦しごくきょうえつきわみでございます! ハイ! 」

「殿下もさぞお喜びになっているでしょう」


 喜んでるよ! そりゃぁもう。

 いたずらが成功した子供のような顔をして物凄い手を振ってるんだもの。

 でもいかんでしょう!

 いかんでしょう! 単なる派閥はばつパーティーに王子が来たら!


 それを横で見ている本来の来客らいきゃくも苦笑いしてる。

 誰だ、呼んだのは!


 周りを見渡す。

 そこであることに気が付いた。

 この中でただ一人、まるで事態を予想していたかのような顔をして平然へいぜんとしている存在に。

 アース公ではない、ドラグ伯でもなく、アクアディア子爵でもない。


「……ふっ」


 ルータリア! 貴様はかったなぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 面白くするとはこういうことかぁぁぁぁぁ!!!

 お客人が帰ったら、説教だ!!!


「さ、みな様。ご案内します」


 その合図あいずもと、俺達はパーティー会場へ行くのであった。

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