第百六十五話 王都のドタバタな日常 九 使用人とアンデリック

「他の大陸から来た食材、ですか? 」

「ええ、ここより北方ほくほうにある国『スノウウェル』の先にある大陸からわたった食材のようです」


 俺達は冒険者ギルドでリンをひろい帰宅していた。


 どうやらリンの初心者講習も終わりをげたようだ。

 と、言うのもそもそも教えることがなく武術をやったら笑いながら講師を殴り飛ばし恐怖を叩きこんだとか。


 流石武闘会三位。

 そう言うことで講師陣からさじを投げされたリンは明日から普通に依頼を受けれる。

 そんなな中どのような依頼だったか説明しているのだ。


「とてもいい匂いがして、こう、パリッとしてて美味おいしかったよ」

「食べたのですか! うらやましいです! 」

「そんなに美味うまいのか!? 」

「……」


 ケイロンが手で食べる様子を表現するとリンとエルベルはうらやましがる。

 しかしスミナの様子が変だ。食いついてこない。


「……ワタシの話も聞いてくれよ」

「大体わかるから割愛かつあい!!! 」

「少しくらい聞いてくれてもいいだろ!? 」


 俺の横腹よこばらつかみ激しくさぶる。

 聞きたくない! 絶対に厄介事やっかいごとだ!

 スミナは懇願こんがんするように下からのぞいてくる。

 うう“う”……。


「分かった、分かったからさぶるな」

「エルベルがよぉ……」


 貴族街の道の途中、かたられる苦労話くろうばなし

 うん、いつもの事だ。

 いやこれが普通になったらいけないのだが、この面子めんつなら仕方ない気がしてきた。


 ケイロン達の話が興味深いのかウキウキした顔のエルベルとは対照的にしずんだスミナを引き連れて俺達は子爵邸へと帰って行った。


 ★


「「お帰りなさいませ」」

「「「ただいまー!!! 」」」


 屋敷やしきに着くと武装ぶそうした門番が二人。


 彼らは一本角を持つ魔族の騎士『ガスト』さんと一対の羽根はねをもつ獣人族の『ハルプ』さん。

 ガストさんは少々黒めな肌をしている筋肉質な男性で、ハルプさんは白く綺麗きれい羽根はねを持ち華奢きゃしゃな体つきをしている女性だ。

 ガストさんは元アクアディア子爵家の騎士で元々ガイさんの部下だったらしく俺の事をおぼえていてくれた。

 すみません。俺はおぼえてなかったです。

 それでハルプさんは元ドラグ伯爵家の騎士で索敵さくてきを得意とするらしい。


 二人に挨拶あいさつを返すと門を開け中に入れてくれた。


 少し行くと丁度ちょうど交代の時間だったのか屋敷やしきの方から帯剣した騎士がこっちに向かってくるのが見えた。


「お疲れ様です! 」

「ご苦労様です」


「おう、お疲れさん! 」

「ダ、ダメですよ。御主人にそんな話方はなしかたをし、し、したら。お仕事お疲れさまです」


 俺達が二人に声をかけると大きな態度で返す獅子しし獣人の男性と、おどおどしながらそれをいさめつつ俺達に挨拶あいさつをする狐獣人の女性が。


 言わずもがなこの大柄おおがら獅子しし獣人はガイさんであるがもう一人のおどおどとした小柄こがらな狐獣人の女性はユピさんだ。

 ガイさんは元アクアディア子爵家の人で、ユピさんは元ドラグ伯爵家の騎士だ。


 このユピさん、実は尻尾しっぽが三本ある。

 最初は驚いたが狐獣人は魔族の角のように尻尾しっぽの数でその潜在的せんざいてきな魔力量がことなるらしい。通常は一本ということだということもあり魔力感知を行うとかなりの魔力量を持っていることが分かる。


「ギルドの方は終わりか? 」

「ええ、終わりました」

「かっー! 話方はなしかた、もう少しくだけてもいんだぜ? 」

「はは、慣れれるまでに時間がかかりそうです」

「ま、仕方ねぇか」


 俺とガイさんが話している後ろでユピさんが他の面々にひたすら頭を下げているようだ。


「ガイのあれは今に始まったことではないのでお気になさらず」

「い、いえ、し、しかし私公しこう分別ぶんべつすべきかと」

「まぁ本人も気にしてない様子だし」

「そうだぜ、あまり気にしていると禿るぞ? 尻尾しっぽが」

「ひぃぃぃえぇぇ」


 後ろで不穏ふおんな声が聞こえてきた。

 尻尾しっぽがはげるって……頭もそうだが、恐怖だな。

 後ろを振り向くとユピさんが恐怖で顔を青くしていた。


「じゃ、俺達は仕事に行くわ」

「よろしくお願いします! 」


 任せとけ、と言いながらユピさんを連れて門の方へ向かって行った。

 可哀かわいそうなことにユピさんは俺達がとびらの方へ向くまでずっと頭を下げては上げ、下げては上げをしていた。


 屋敷やしきとびらに立つと勝手にとびらが開く。


「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」


 ただいま、とだけ言い中に入る。

 まだこの呼ばれ方に慣れれない。


 とびらを開けたのは無駄むだにスペックの高い執事こと水龍人のレストさんだ。

 どうやら内側から探知し、開けているようだ。

 どのようにして人を判別はんべつしているのか気になるが、聞かないでおこう。

 胃が更に痛くなりそうだから。


「ただいま」

「ただいまなのです」

「帰ってきたよ」

「帰りました」

「ハハハ、我は――帰ってきたぞ! 」

「た、ただいま。おい馬鹿ばかエルフ、わきまえろ! 」


 俺達はそれぞれ返事をして足を進める。

 尊大そんだいな態度をとるエルベルに注意をする常識人スミナ。

 俺達は気にしなくても使用人達の方が気にするかもしれない。

 スミナ様にはお世話になります!


「お昼になさいますか? 」

「軽いもので」

承知しょうちいたしました」


 そう言いペコリと一礼して厨房ちゅうぼうの方へ向かうサディスティック猫耳ねこみみメイドルータリアさん。


 いつのにか、いや役職分担ぶんたんを決める中でルータリアさんがメイド長に収まった。

 ルータリアさんが来た時に丁度ちょうど役職を決めていた所、是非ぜひやりたいと申し出た。この人を長にするのにはかなり抵抗があったが押し切られ、メイド長に任命にんめい

 副メイド長にはドラグ伯爵家から来た大人おとなしい感じを受ける人族——アリスさんがついたのだが可能ならば上司の暴走を止めて欲しい。

 もう一人メイドがいるのだがビルーナさんと言って年齢不詳ふしょうのエルフだ。しかしエルベルとは違い普通のエルフでエルベルが『タウの森』の出身だと聞いて一番恐怖におののいていたのは他でもない彼女である。


 料理人がそろうまではサドメイドが料理担当だ。

 もっとも、彼女が一番食事をとっているらしいのだがそれをじかで見たことは無い。


 彼女を見送った俺達は一旦いったん自室へ戻ることにした。


 ★


『ねぇ私達の部屋はまだ? 』

「この前用意するって言ったばかりじゃないか。少し我慢してくれ」

『『『ええー』』』


 俺の自室で不満を上げているのは精霊四人しゅう

 仕事もあるんだ。気持ちは分からんでもないが少しは我慢してくれ。


「後で立ち入り禁止の部屋を作るからそこで過ごすのはどうだ? 」

『……それでいいわよ』


 なんで不満気ふまんげなんだ。

 エルベルが入れないように立ち入り禁止区域を作るだけでも良しとしてくれ。

 そんなやりとりをしているとノックの音が。


「ご主人様、食事の用意が出来ました」


 ルータリアさんの声を聞き俺は一階へ下りていくのであった。

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