第百六十二話 王都のドタバタな日常 八 冒険者ギルドの依頼を受けよう 一

「ル、ルゥ! 奥様だなんて! 」

「いやぁルータリアさん、いやいやぁ~」

「リンは奥様なの」

「ワタシもなのか?! 」

「奥さんって、何だ? 」

「ちょ、全員に受けるな! これは罠だ! 」


 朝からおちょくる気満々まんまんのルータリアさんの方へむいた。 

 物凄くいい顔をしている。

 なんだろ、この屋敷やしきに来てから彼女の猫耳ねこみみ尻尾しっぽつやがかなり良くなっている気がする。


「くっ! このサディストめっ! 」

「何をおっしゃいますかご主人様。単なるおちゃめじゃありませんか、ご主人様。ハーレムじゃないですか、ご主人様」


 ねらって言っているのがまるわかりである。

 が、女性陣にはその言葉が覿面てきめんだったようである。

 ハーレム、という言葉に即座そくざに食いついた。


「まさかデリク、ルータリアさんまで」

「ルゥを?! 」

「ふしだらな主従しゅじゅうの関係ですぅ」

「ま、まて、誤解だ、何もしていない! 」


 叫びをあげて否定するが目の色を変えた彼女達が収まることは無い。

 そんな中スミナが小さな体を椅子から降ろして俺の方へやってきて上を向いた。

 このパーティーの常識人わく。流石スミナ、わかってくれたのか!


「アン。憲兵団の詰め所はあっちだぜ? 」

「だからちがーう!!! 」


 スミナまでも誤解をして玄関げんかんの方をす。


「さて、冗談じょうだんもここまでにしましょう。アクアディア子爵家、およびドラグ伯爵家の方々かたがたがお見えでございます。如何いかがいたしましょうか? 」


 流石にこれ以上はダメだと思ったのだろう。

 相変あいかわらず引きぎわ熟知じゅくちしている。

 くちびるみ、くやしい想いをしながらも俺は広間ひろまに通すようルータリアさんに指示を出した。


「本日からお世話になります、セグ子爵閣下」

「よ、よろしく……」


 目の前には多種多様な人種で構成された使用人達がいた。

 彼らはケイロンのドラグ伯爵家とセレスのアクアディア子爵家から二人が連れてきた人材だ。

 もちろんこのむねを手紙に書き、許可をてから引き抜いている。

 ドラグ家は分からないが、ルータリアさんいわくアクアディア子爵家は意気揚々いきようようと彼らを送り出したようだ。


「二家を合わせて総勢十二名になります」

「まずはそれぞれ配置を――」


 途中からケイロンとセレスがしきりだして最初に決めていた役割を当てていく。

 雇用条件の再確認などもその場で行った。


 それを後ろでひっそりとみていると彼女達がルータリアさんが言っていた『奥様』と言うのはあながち間違っていないようにも思えてきたのは秘密である。


 ★


「じゃ、今日の所はよろしくお願いします」

「「「お任せください」」」


 使用人達に見送られながら俺達全員は冒険者ギルドへ向かった。

 ひさしく依頼を受けてなかったケイロンとセレスは一層いっそうり切っており少々心配だ。

 俺達の装備はいつも通りであるがリンは軽装である。


 貴族街を抜け中央通りを行き南にずれるとギルドに着いた。

 そして中に入り、リンの初心者講習の事を受付に話す。

 アルビナのつくろった顔が少しくずれかけていたが何も言わないのが吉だろう。


「では、申し訳ありませんが私はここで」

「ああ、頑張ってな」

「はい! 」


 エールを送るとリンはそれに笑顔でこたえてアルビナと共に二階へ行った。

 リンは気付いてないだろう。

 エールはこっちに泣きそうな顔をしているアルビナにもおくっていたことを。


 それはともかく依頼ボードへ。


「討伐依頼が少ないね」

「そうだな。まああれだければな」

「でも一パーティーが出来る範囲はんいなんて限られているよ」


 そう言われても少なくなった現状は仕方ない。

 だがしかし俺達が直接的な原因ではないだろう。

 実際高ランクモンスターは高位冒険者がって行ってたようだし。

 出会ったモンスターをサーチ・アンド・デストロイの精神でつぶしていったが、出てきたモンスターだけである。

 俺達は無罪だ。


「お、この依頼なんていいんじゃないか? 」

「……給仕きゅうじ、ですか」

大衆食堂たいしゅうしょくどうのってこれこの前行ったところじゃないか」

「まえ? アン、ここに行ったことがあるのか? 」


 スミナが依頼を手に取ると俺達はそれを確認した。

 セレスとケイロンと一緒にのぞき込むと俺は見知った場所であることに気が付く。 

 これ、エカと行った場所だ。

 俺が少し驚いているのにスミナがジト目で「ワタシが知らないあいだに遊びに行ったな」と訴えてきた。

 故意こいではないのだが罪悪感が。


「セ、セレスがランクを上げるには丁度ちょうどいいんじゃないのか? 」

「確かにね。討伐系以外も受けないといけないし」

「よく見ると給仕きゅうじだけじゃないな。厨房ちゅうぼうの方もあるみたいだぞ? 」

「行ってみればわかる! 」

「エルベルの言う通りだな」


 そう言い一回頭をひねる。

 さて、どうしたものか。

 全員で分散ぶんさんして受けるか?

 雑務系か採取系なら別れた方が良いだろう。その方が依頼数をこなせる。


「もう一個、選ぶか? 」

はんに分けるの? 」

「ああ。その方が効率がいいだろ? 少しでも受けないとな」


 そう言いながらスミナの手にある食堂の依頼を受け取った。

 そしてもう一つ依頼を見繕みつくろうためボードを見る。


「お金はいっぱいあるじゃないか」

「何を言っているエルベル。一銭貨をないがしろにする者は一銭貨に泣くんだ」

「お、おう」


 なんてことを言うんだ、エルベル。

 いざと言う時の為に――そして俺は仕送しおくりの為にお金は必要なんだ。めておく必要もあるんだ。

 流石に自分でかせいだお金以外を仕送しおくりに出す勇気はない。精々せいぜい商業ギルドにあずけているぶんを出すくらいだ。

 商業ギルドにあずけている金額は国営銀行のそれに遠くおよばない。なのでかせぐ必要がある。

 まぁ国営銀行の方の貯蓄ちょちくが大変になったら商業ギルドのほうから降ろすが。


「討伐系は少ないから今日は雑務か、採取か」

「オレは採取行きたい! 」

「……確かにエルベルは、そっちの方が良いかもだな。大衆食堂たいしゅうしょくどうは……昼のあいだだけか」

いそがしい時だけだね」

「そのようですね。では私とケイロンが行きますか? 」

「俺も行こう」


 二人が食堂の方の依頼へ行くと申し出たので俺もついて行くと提案ていあんする。

 セレスは雑務系の依頼経験が極端きょくたんに少ない。

 貴族子女と言うのもあるせいか少ない。本人が嫌がっているから受けていないのではなく、時間的なことや俺の『大精霊の加護』について調べていたから結果的にこうなっているだけだ。これをいくつか受けてもらおう。

 俺が提案ていあんするととなりからスミナが俺を見上げて抗議こうぎしてくる。


「ちょっと待て。じゃぁワタシとエルベルがまた一緒か?! 」

「やつを抑えれるのはスミナしかいないんだ」


 俺とスミナの二人がボードをいそがしく見ているエルベルを同時に見る。

 別に俺がそっちに行ってもいいのだが今回はスミナに任そう。

 いつも口論こうろんになり取っくみみ合いになっているが最終的にスミナがエルベルを抑えている。

 彼女が適任てきにんだ。


「そう言われても……」

「出来る! スミナなら問題なくエルベルをみちびくことが!!! 」

「ああ、もう。わかったよ、わかった。この馬鹿ばかを抑えておくよ」

「頼んだぞ! 」

「では解散!!! 」


 こうして俺達は依頼を出し、それぞれ目的地へと向かうのであった。

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