第百六十三話 王都のドタバタな日常 八 冒険者ギルドの依頼を受けよう 二

 俺とセレス、そしてケイロンの三人は冒険者ギルドから少し外れ商業区の方へ足を向けた。

 商業区と冒険者ギルドがある区画くかくの中間ほどに、この前エカやこの二人と行った店がある。

 この一帯いったいは冒険者をはじめとした労働者が食事に行くようで、前に来た時は屈強な獣人族や魔族、龍人族が食事を食べに足を運んでいた。

 労働者とおぼしき人の姿がちらほら見えるが食事に向かう人は少ないようだ。


「すみません」


 目的地の大衆食堂に着くが閉まっている。

 大衆食堂の扉をノックし冒険者ギルドの依頼で来たのを伝えるも返事がない。


「いないのでしょうか? 」

「返事がないね」

「もう一回やるか」

「すみません! 」


 少し大きめに声を出してノックをすると中から音が聞こえてきた。

 扉が軽く開き、男性が顔を出す。


「悪いな、まだ開店時間じゃないんだ」

「あ、違います。冒険者ギルドの依頼で来ました」

「冒険者ギルド?! 給仕きゅうじのやつか! 」


 かなり驚いている。

 自分で出しておいてその驚きようは無いだろう。

 もしかしてこないと思ってたのだろうか。


「ええ、その給仕きゅうじのやつです」

「「「よろしくお願いします! 」」」


 俺達が肯定こうていするとすぐさま取りつくろい店の中に入れてくれた。


「ははは、さっきは主人がすまないね」


 中に入ると豪快ごうかいに笑っていながら恰幅かっぷくの良い女性が謝ってくる。

 依頼書を見せて確認してもらった後、詳細を聞くことに。

 話を聞くところによるとどうやらこの人はさっきの人の奥さんのようだ。


「受けてくれてありがとな」

「来てくれるか正直不安だったくせに」

「まぁそうだが……」


 どうやら雑務系の仕事が不人気なのはどこも同じなようだ。

 どこかバジルと親近感がわくな。


「さて仕事だが……」

「新しくやろうとしていることの宣伝せんでんみたいなもんだよ」

「新しい事、ですか? 」

「ああ。王都があまり産業が無いのは知ってるな? 」


 それは耳が痛いほどに聞いた。

 確かに誕生祭たんじょうさいが終わった後とくらべると活気かっきがない。

 当たり前と言えば当たり前なんだが極端きょくたんすぎる。


「そこで! 私達が王都をり上げるために、そしてこの大衆食堂の売り上げの為にがんばろってことさ」

「実の所周りの食堂とはこのままじゃいけねぇってことで何かやることは話はついてんだ」


 奥さん――テルナさんが意気込いきごみ立ち上がる。

 そしてケイロンとセレスの方を見て目を光らせた。


「接客はこの二人に任せることにしたよ。あんた、そっちは任せたよ」

「おう! 」

「え? ちょっと」

「どうしたのですか?! 」


 ケイロンとセレスは少し強引ながらもテルナさんに奥のとびらに連れて行かれてしまった。

 それを見送った俺と店主——ポルテさんは顔を見合わせる。


「さ、坊主はこっちだ」

「はい」


 俺も仕事をり振られ厨房ちゅうぼうの方へ向かった。


「もし個人で来た場合はどっちか一つやってもう一回依頼をかけようと思ってたんだが、厨房ちゅうぼうかかりと接客せっきゃくかかり両方来てくれて好都合こうつごうだった」

「一体何をするんですか? 」


 ポルテさんは話ながら俺に服を渡してくる。

 俺は食材をあつかうようで渡された白い前掛まえかけのような服を着た。


「ま、詳しい事は後だ。一先ひとま手本てほんをするからそれをまねてくれ」

「了解しました」


 手本てほんをすると言ったポルテさんはかごいっぱいの茶色くごつごつした手のひら大の食材を手に取った。クレア―テ様への感謝の言葉を述べてから作業に移る。

 そして包丁ほうちょうをもち、青い部分をくりぬいて行った。


「まずこうしてこの野菜——ポテル―ノの青い部分をくりぬく」

「何ですかこれ? 」


 見たことのない食材だ。

 俺は一つ手に取りながめる。


「殿下の誕生祭たんじょうさいに売り出しに来た北方ほくほうの商人から買ったもんだ」

「へぇ。北の国、ですか」

「ああ。ま、くわしい事は仕事が終わってからだな」


 どうやら取り終わったようだ。青い部分が無くなり所々ところどころくぼみが出来た不思議な形と変形へんけいした。

 これ、どう使うんだ?


「次は皮をむく」


 そう言いながら薄くポテル―ノを回しながら外側をいていった。

 なるほど。これは皮だったのか。

 クルクル回しながら皮をいていくと綺麗きれいになったポテルーノが出来上がる。


一先ひとまずこれで完成だ。いくつか同じように皮をくところまでやってくれ。その間俺は他の料理の仕込みにはいるからよ」

「了解しました」


 仕込みをするといったポルテさんは調理器具をもって作業に入った。

 それを見届けながら俺は指定された量のポテルーノに目を移す。

 まずは青い部分をくりぬくんだったか。


 さっきの作業を思い出しながら取り掛かる。

 くりぬき作業は終わったが皮をく作業が意外と難しい。

 しかし何回もやっていくうちにコツをつかみ最後には綺麗きれいに出来るようになっていた。


「おう、出来たか? 」


 いい匂いをただよわせながらやってきたのはポルテさんだった。

 集中して時間を忘れていたようだ。向こうの仕込しこみも一段落している。


「終わりました。ですがいくつか失敗してしまい……」

「最初だからな、かまわないぞ。俺なんか綺麗きれいにできるまで何日かかったやら」


 苦笑いを浮かべながら俺のポテルーノを見てうんうんとうなずいていた。

 ポルテさんはだいに近寄り一つ手に取り持ち上げる。


「じゃ次だな。これを出来るだけ細く切る」

「細く、ですか」


 ああ、とうなずきながらまな板にそれを置いて包丁ほうちょうを縦に入れる。

 次々と切っていくがかなりの薄さだ。

 タンタンタンとリズミカルにどんどんと細く切って、最後の一切れを切り終わる。


「こんな感じだ。出来そうか? 」


 出来上がったものをこちらに見せて聞いて来た。

 ムムム、出来るとは思うが……ここまで薄くできるだろうか?


「やってみないとわかりません」

「そりゃそうだな、はは。とりあえずやってみてくれ」


 そう言われ俺も一つ手に取り切っていく。

 さっきの皮をくのとはまた違う難しさだ。

 タンタンと切っていく。横においてあるポルテさんの見本を見るが少し太い。

 もっと細く、か。

 タンタンタンと切っていく。

 これでどうだ? と思い見るがまだ太い。

 作業を何回もり返し、何個もポテルーノを使いながら練習していくとやっとポルテさんが満足するくらいの細さに出来た。


「よし、出来た」

上々じょうじょう上々じょうじょう。ならここまでの作業は任せていいか? 」

「ええ、出来ると思います」

一先ひとまずここにある分をやってくれ」


 ポルテさんの指示を受けて俺は作業に入いる。

 昼時ひるどきせまる中作業が一段落した俺はポルテさんとテルナさんに呼ばれた。


「お、終わったか? 」

「どうしましたか? 」

「先にお披露目ひろめだよ」

「お披露目ひろめ? 」

「まぁまぁいいからこっちにおいで」


 呼ばれるがまま白い前掛まえかけをかけたまま食堂の方へ向かう。

 どこかテルナさんはどこかニヤニヤしていたが一体何だろうか。

 不思議に思いながらもついて行くとそこには――


 執事服を着たセレスと、白黒メイド服に黒いハイソックスを着て極端きょくたんに短いフリフリスカートを手で押さえてながらもじもじしているケイロンがそこにいた。

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