第百六十一話 王都のドタバタな日常 七

 書類整理も一段落し夕食を食べた俺は寝室へ行きかぎをかける。


「今回こそは入られないようにしないと」


 そう思うも何か手段があるわけではない。

 リンが時折ときおりさみしがってか、寝ぼけてかは分からないがこの部屋に入ってくるのだ。

 とびらにはかぎをかけているのだが彼女の不思議なポーチにはかぎを解除する道具があり、簡単に入られてしまった。


「このとびらかぎが悪いのか、リンのテクニックがすごいのか、それとも道具がすごいのか」


 そう独りちながらノブを見る。

 しかし何か対抗策があるわけでもなく仕方なしにベットへ向かい、横たわった。


 今日も大変だった。

 武技も練習しないといけないし、リンは冒険者になったし……。

 明日やる事を頭の中で反復させながらいつの間にか俺は眠りについた。


 ★


 翌朝。冒険者としての習慣が俺を起こして、目覚めた。

 朝と言っても早朝も早朝。まだ日がのぼっていない。

 どうやら今日はリンはベットの中にいないらしい。

 

 ベット回りを確認後に、さて依頼を取りに行かなくては! と、思うも立ち止まる。


「……リンの初心者講習がまだだった」


 まだリンが依頼へいけないことに気付き早すぎた起床きしょうをどうするか考える。

 執務しつむは……補助ほじょなしで出来る気がしないから却下きゃっかだな。

 ならば『かさね』の練習か。


 それもいい、とおもい少し動く格好かっこうをして精霊剣を手にして裏庭うらにわへ出た。


 今は早朝、しかも日がのぼっていないはずだ。

 だがなんだ? 明るい……。

 動いている? 侵入者か!


 俺はけ足で裏庭うらにわへ向かう。

 早く移動するが、慎重しんちょうに。可能な限り物音ものおとを立てずに移動した。

 この前、大金を手に入れたばかりだ。誰かがその情報をて侵入したかもしれない。


 メンバーの事が頭をよぎる。

 良くも悪くも種族の輪サークルのメンバーは全員が女性だ。

 早めに片付けないと!


 移動し光る裏庭うらにわへ行くとそこには――


「瞬歩! 」

「甘いですわ。光電魔球ライトニング・ショット


 大量の光球をひたすらかわし続けるケイロンと、生み出し射出しゃしゅつしているセレスがいた。


「あれ? 侵入者は? 」

「デリク?! 」

「あら……」


 どうやら侵入者じゃなかったようだ。


 ★


「朝練だよ、朝練」

「そうですわ。まさか侵入者と間違われるとは」

「悪かったって」


 庭のはしにある長椅子に腰を下ろした二人を見ながら俺は謝った。

 話に聞くところによるとどうやら最近から朝の練習を始めたようだ。


「デリクだけ先に行ってしまうから」

「全くもって先走さきばしりもいいところですわ。もっと調べたいことがあるんですのに……ジュルリ」


 セレスが何かとても恐ろしい事を言いながら淑女しゅくじょらしくないよだれを出しているが気にしたらだめだ。

 しかし先走さきばしりとはなことを。


「なんやかんやで目の前の事を片付けてたらこうなってしまっただけなんだけどな」

「その時僕達、いた? 」

「そりゃ、流石に誕生たんじょうパーティーを抜け出すわけには行けないだろう? 」

「それもそうですが、なにかやりようがあったのでは? 」

「……最初から俺に選択肢せんたくしがあったとでも? 」

「なんかごめん」

「申し訳ないです」

「謝られるとそれはそれでつらい!!! 」


 たことも多かったが、一大イベントであるエカの十五の誕生祭たんじょうさいを見れなかったことも考えると損失そんしつの方が大きいような気がする。

 

「そうえいばデリクはどうしてここに来たのさ? 」

「いつもと同じように朝起きてギルドに依頼を取りに行こうとしてしまってた」

「ふふふ、習慣しゅうかんとは恐ろしいですね」


「全くだ。にしてもケイロン、物凄く動き速かったな。魔法でも使ってたのか? 」

「いや、ほとんの速さ。後は前から練習していた瞬歩を瞬動にする為の練習」


 ケイロンは長椅子で足を前に伸ばしちゅうに浮かせている。

 そして足をパタパタさせながらほてった体を冷ましていた。


の速さであれか……」

「速さならデリクの方が早いじゃん」

「いやいや、銀狼卿の時は魔法や精霊魔法でりにりまくってあの速さだからな! での速さなら足元あしもとにもおよばない」

「嘘つけー」


 わざとらしい口調で俺の言葉を否定するが本人はうれしいようだ。

 動かしている足が少し速くなっていた。

 伸ばした足は少しばかし汗が湿しめり、わずかにける白いパンツは目のやりどころに困る。

 朝から刺激的だ。

 

「精霊魔法ですか……。若干じゃっかんエルベルさんと使い方が違うようですが」


 セレスが興味深いと言った目線でこっちを見てきた。

 確かにエルベルとは全く違う。

 武器にまとわせるのは同じだが風の小精霊を身にまとわせることはエルベルはしない。


「時の精霊魔法の事があったからな。その感覚で風をまとったんだよ。そんな人が過去にいてもおかしくはないと思うんだが……」

「ええ、確かにいます。伝承でんしょうに残っているのでも『英雄』と呼ばれている人達がそれにあたります」

「多分ほとんどはエルベルみたいに武器にまとわせるのが一般的で体にまとわせる方法が邪道じゃどうなんじゃ? それで出回でまわっていないか、そもそもそんな方法を思いつかないか」

「ありえますね」

「それに風の小精霊をまとうよりも移動速度上昇スピード・アップを使った方が速く動けるし、疲労感もその方が少ない。あの時は必要に迫られて体にかけれる物は何でもかけた結果小精霊を体にまとわせたけど、可能ならもうやりたくないよ」

「なるほど……貴重きちょうな体験談ン! ありがとうございますゥ!!! 」


 俺の話を聞き何か新しい事でもわかったのだろう。

 セレスのテンションが急激に上がり、立ち上がった。


「じゃ、朝ごはんに行こう」

「ええ、行きましょう!!! 」


 長椅子から二人は立ち屋敷やしきの中へ向かった。

 その頃には日はのぼり始めていた。


 ★


 朝食も終え、少しばかしの眠気に襲われているとケイロンとセレスが口を開く。


「時間通りなら恐らく今日使用人達が来るでしょう」

「ボクのとこも」

「え? 本当か? 」


 早すぎるだろ……。性急せいきゅうにもほどがある。

 俺の驚きをさっしてか苦笑にがわらいする二人。


「早いにしたことはありません。比較的上位の新興しんこう貴族ができた、ということで自分を売りにくる貴族家の三男や四男はたまた三女等がいるかもしれません」

「就活だよ、就活」

「……迷惑な。それこそ冒険者になればいいのに」

「ええ、本当にです。剣術や魔法をある程度収めているはずなのでやっていけるとは思うのですが」

「プライドが高いからねぇ~みんな。冒険者になるくらいなら新興しんこうでも上位貴族の所でやとわれた方が良いって考える人が多いんだよ」


 そんな人来てほしくないな。

 どこかの派閥にでも入っていたらややしいことになる事間違いなしだ。

 二人には感謝だな。

 しかし、待てよ?

 

「それまでのあいだ、どうしてるんだ? 家の護衛か? 」

「まぁ……」

「家の護衛、確かに護衛ですね。ものは言いようといいますか」

「家に誰か侵入者が入ってこないか、護衛。つまり……」


 二人が言いにくそうに全員から目をらしている。

 

「「「つまり??? 」」」


「無職!!! 」

「俺よりひどいじゃないか!!! いや俺も無職のようなものだけど! 」

「ご主人様、奥様方。家の者が来ております。如何いかがいたしましょうか? 」


 俺がつっこんだその瞬間にルータリアさんが来客らいきゃくを知らせにきた。

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