とある小国の最後

伝令でんれい! 伝令でんれい! 現在モンスターの集団が王都へ向かっております! 」

「くそっ! 一体どこから! 」


 ここはカルボ王国からはるか離れたとある小国の王城。

 城内の作戦会議室は緊張につつまれながらも伝令でんれいを聞いていた。


 この国は国土面積も狭くカルボ王国の王都を二、三個くらいの面積しかない。

 人口も平均的より少なくこれと言った産業がない国である。

 立地りっちめぐまれているわけでもなく、小国とはいうもののその昔先祖が勝手に『国』としょうしただけで他の国からは見向きもされていない国であった。


「数は、数はどのくらいだ! 」

「各村を襲った数と同程度と思われます! 」

「「思われます」とは何だ! 詳細をいえ! 」

「……索敵さくてきへ行った者は帰っておりません」

「「「なっ!!! 」」」


 恐らくこの伝令でんれい兵は遠方えんぽうからモンスターだけを確認しただけなのだろう。


 彼が命からがら逃げてきた村人から聞いた話によると、村をおおくさんばかりのモンスターの襲撃にあったと聞いている。

 最初は一笑いっしょしたこの国の兵士だったが、これがいくつもの報告が上がってくると笑えなくなった。

 そして重い腰を上げ調査隊を編成へんせいし軍を動かしたが時すでに遅し。

 その軍ですら帰らぬ者になってしまった。なまじ何かしらの功績こうせきを持って帰らないといけないというプライドが全滅ぜんめつみちびいたのだろう。

 いつまで待っても帰ってこない軍に苛立いらだちを見せていると、先ほどの伝令でんれいが飛んできた、ということである。


「ふぅ、どうすべきか」

「何を悠長ゆうちょうな! 敵はすぐそこまで来ているのですぞ?! 」

左様さよう。国を危機ききおとしいれた卿の責任、わせていただきますぞ! 」

「黙れ! 今はそのようなことを言っている場合ではない!!! 」

「「「へ、陛下?! 」」」


 軍服を着た男性が木製の椅子に背をあずけ打開策を考えようとすると他の者達から責任追及せきにんついきゅうがあった。

 そしてそれをさえぎる者が一人作戦会議室へ入ってきて彼を見た。

 彼は王冠おうかんかぶった老齢な魔族だ。

 しかし魔族の特徴である角は見えない。その代わりに発達はったつした八重歯やえばを持つその姿から魔族でも特殊な吸血鬼族である事が分かる。


 しかしどこか顔色が青い。

 日中である事を差し引いても彼の体調の悪さが際立きわだっている。


「どこまで進行している? 」

「……城門のすぐそば、でございます」


 伝令でんれい兵が震えるように、恐怖を抑えるように王へ進言した。

 それを聞くと瞳を軽く閉じて少し考える。

 考えがまとまったのか瞳を開け、言葉をべた。


「全軍に伝令でんれい。これより王都攻防戦に入る。住民は全員家から出ぬよう命令を出せ! 出ればそのものを敵とみなすと伝えよ」

「こ、国民を殺すのですか!? 」

「それはあまりですぞ! 陛下! 」

「黙れ! まだわからぬか! 」


 平和ボケした家臣かしん達に怒鳴どなり、あきれながら説明する。

 説明しなければ動かない事を良く知っているからだ。


「モンスターの突然の出現と消失。考えられるのは二つ」

モンスター暴走スタンピードではないのですか?! 」

「まだその程度と考えていたのか、このおろか者! 」

「ひぃ! 」

「まぁいい。今はそれどころではない。まず真っ先に考えられるのはどこかしらの国がこの地を落としに来ているということだ」

「何と……」

「だがこの可能性は低い」

「何故です? 」

「我が国を落として利益になる国があるか? 」

「「「……」」」


 悲しいが、何もない。

 何もないが故に今まで放置されていたのだが。


「そして有力なのは邪神教団の介入かいにゅうだ」

「邪神教団……」

「聞くところによる暴食系の団員か、幹部クラスなら可能だろう……」

「この国に邪神教団が?! 」

「他から来たやもしれんが。しかし今は有事ゆうじ、発生元は後で考えればいい。相手が暴食系ならば恐らく村は『えさ』にされたのだろう」

「何と非道な」

「非道だからこそ『邪神教団』なのだ。わしも出る。全軍に伝えよ。邪神教団と――全面戦争だ、と」


 そう言い残し、吸血鬼族の王は会議室を出ていってしまった。


 ★


 この国は特殊である。

 り立ちもそうであるが、吸血鬼族が王と言うのも珍しい。

 加えてこの王は老齢で幾度いくどとなく休眠状態を取らなければならないほどに老いていた。


 長命種全般に言えることだが彼らは人族とは違い寿命が近づくと休眠を定期的にとる。

 これは自然なことであり、特殊ではない。

 よって寿命比からみて極端きょくたんに活動時間が限られる彼らが王になることは少ないか、もしくは任期制となるのが普通である。長命種が治める国で任期がきたら後継者にすぐに渡すという仕組みの国は、少ない長命種国の中では主流である。


 が、この国は長らく後継者がいなかった。作れなかった。

 王が休眠を取っているあいだは議会が国を動かしておりほぼ議員の独占状態である。

 王が――短いながらも――玉座に座っているあいだは取りつくろい、休眠に入ると国を好きなように動かす。これがまかり通っていた。


「……後継者が決まった矢先やさきに、これか」


 そう独りちながら王は石造りの王城を行く。

 騎士や使用人達が忙しく移動するもほとど見たことのない顔だ。


皮肉ひにくなものだな。さて、エリシャ。いるかな? 」


 一室の前に立つと軽くノックをして在室ざいしつを確認する。

 すると少女のような――しかし老齢な言葉使いの――声が聞こえてきて入室が許可された。


「使用人が忙しいようじゃが、どうした? 」

いくさだ」

「それは恐ろしいのぉ。わらわが出向こうかのぉ? 」

「それにはおよばない。それにここでエリシャが命を落としてしまうと先祖せんぞに顔向けできん」


「相手は、強いのかの? 」

「強い、のではなく厄介やっかいだ」

「なるほど。このままいくとぬしは……死ぬぞ? 」

もとより少ない命。せめて生きたあかしを残そう。それが古代神殿からエリシャを引っりだしたわしの最後の役目やくめ


 そう言うと近くにり袋と剣を彼女に差し出した。


「これは? 」

「ここよりはる東方とうほうにどのような種族でも受け入れるという国があるそうだ」

「……」

「そこまでの駄賃だちんとなる。少ないがな、ハハ」

「よいのか? わらわが出れば……」

「構わない。それにまだわしの国。自分の国を護れずして何が国王か」

「いいのかの? 」

「ああ。それにいい機会なのかもしれない。おかざりの国王はもう今日で終わりだ」


 そう言い不敵に笑ってみせた。


「勝てば英雄王。負ければ……欲におぼれた貴族共々ともども滅びるのみ。しかし……」

「しかし? 」

「タダでやられる気はない。相手に一太刀ひとたちくらい入れてやろう」


 そう言い王のマントをひるがえし、戦場へと向かった。


 ★


「なによ、あの化け物! 簡単に落とせると思ったのに!!! 」

「あれは予想外、予想外」

「強かった」


 廃都はいととなった小国の王都を闊歩かっぽするエカテー。

 しかし彼女は右腕を失っていた。

 最後、吸血鬼族の王が――万全ばんぜんの体調でないにもかかわらず――彼女の腕を切り落としたのだ。


 めていた。


 そう言われても仕方ない。

 しかし途中から参戦さんせんしたルータ達の介入かいにゅうにより王侯貴族全員を皆殺みなごろしにして事実上国を落とした。


「モンスター達も半分以上失ったじゃないの! これじゃあの女に復讐がぁ! 」


 片腕で頭をきむしり苛立いらだつエカテー。

 彼女が保有ほゆうするモンスターの数を考えれば過剰かじょう戦力なのだが復讐にとらわれた彼女はより強い力を欲した。


「でも君が偉大な召喚士グランド・サモナーになったのは意外だったね」

「以外、以外」

「わるいの!! 」

「違う、違うよ、誤解だよ。もちろんいい意味だよ」

「そうそう」

上位召喚士ハイ・サモナーくらいで収まると思っていたのだけれど、偉大な召喚士グランド・サモナーになるなんてね。良い誤算ごさんだよ」

「おかげで、移動がらくちん、らくちん」


 カルボ王国からどのようにしてこの辺境へんきょうの国まで来たのか。

 答えは案外あんがい簡単で、召喚できるモンスターの種類が増えた事に起因きいんする。


 彼女は竜種までも召喚できる偉大な召喚士グランド・サモナーになれたことによりワイバーンで飛んできた。それだけである。

 国を出る頃はまだ召喚できなかったが人目ひとめに付かない、小さな村や国をつぶしていくうちに召喚できるようになった。

 そこから各地を転々としながら召喚用のにえを探して回っていたということだ。


「……待ってなさい。必ずあの女を地獄に落としてやる!!! 」

「地獄と言うか、邪神様の御許みもとだけどね」

「邪神様、邪神様」


 狂気きょうきちた瞳をバジルの方へ向けながら今日も呪詛じゅそくエカテーであった。


 ―――――

 後書き


 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 第四章はこれにて閉幕となります。


 またもしよろしければ、是非とも「フォロー」や目次下部にある「★評価」、よろしくお願いします。ワタクシのテンションが爆上がりしますw


 *追記

 

 現在コメント欄を解放しておりますが、コメントへの返信は行っておりません。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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