第三騎士団と変態の巣窟の共同探索

「ほほほほほ、研究ンッ! の事なンッら! 我々にお任せ! 」

「我々の熱い想いが真っ赤に燃える! 調べくせと叫んでいる!!! 」

「あひゃひゃひゃひゃ!!! 研究ぅ! それは至高しこうンの! もの! 」

「……だから嫌だったんだよ」

王命おうめいです。あきらめてください」

「本当にこいつら大丈夫なのか? 」

「研究に関しては超一流なので。そう、『研究』に関してだけは」


 ケルマ・ドラグひきいる王国騎士団第三騎士団は新しい発見に狂喜乱舞きょうきらんぶする目の前のエルフ達に引いていた。


 ここは西の森の入り口。

 王国騎士団も時折ときおりモンスターを間引まびきに来ること以外はあまり来ない場所である。しかもケルマ達の管轄外かんかつがい

 他の騎士団との関係性を考えると来たくない場所でもあった。


 何故なぜそんな彼らが変態エルフと共にいるのかと言うと話は少しさかのぼる。


 ★


「はぁ? 古代神殿調査任務? 」

「ええ、表にはそう書かれておりますね。しかも王命おうめい


 ここは国軍の王国騎士団第三騎士団長の部屋で、団長であるケルマとその副団長のメリアがいた。

 団長室は他の騎士団員より広いが貴族としてはかなり狭い。ケルマの部屋には乱雑らんざつ山積やまづみになった書類が置かれてケルマの体格もあいまってより一層いっそう狭く感じる。

 狭い空間に女性と二人きりと言うのに色気いろけも何も感じない雰囲気ふんいきの中、いやそうな顔をして彼女から渡された命令書を読む。


「……え? これは本当か? 」

「何が書かれているのですか? 」

「あの森に古代神殿があったようだ。 しかも......賊の拠点きょてんになってただと?! 」


 ケルマはそこに書かれていた内容に驚く。

 そしてメリアが少し困惑こんわくした表情でケルマにたずねた。


「我々の管轄かんかつではないのですが……」

「……陛下もあの森の管轄かんかつしていた騎士団を信用してないのだろう。実際賊の拠点きょてんを見逃してんだ。騎士団の中に内通者ないつうしゃがいたと言われても不思議ではない」

「それで我々にめいくだったと? 」

「迷惑この上ない」


 二人で話していると詳細を読むためにケルマは再度命令書に視線を落とした。


「ブフォッ!! 」

「ど、どうしたのですか、ケルマ団長」

「これ、マジか! 」

「何が書かれていたのですか? 」

「この命令書、よく読むと護衛だ」

「護衛? 古代神殿を調べるのですか? 」

「護衛対象が……魔法士団の『変態の巣窟そうくつ』だ」

「なっ!!! 」


 それを聞きメリアは驚き、絶望した。


 可能ならば触れたくない、違う意味で魔法士団の暗部『変態の巣窟そうくつ』。


 彼らは研究に特化とっかした魔法士団で、文字通り研究バカが集まっている。

 本当の名称めいしょうは『王国魔法士団第十二魔法士団』であるが『変態の巣窟そうくつ』の方が通り名になってしまいもはや彼らは番号ですら呼んでもらえない。

 が、それも仕方ない。ほとんど『タウ子爵家』で団員が構成されているからだ。


 通常、このように一貴族家が一部隊に集中することは無い。

 しかし彼ら以上に高い能力を持つ人員がいる訳でもなく、いたとしても彼らについて行けなくなり逃げ出していく結果『変態の巣窟そうくつ』が出来上がった。

 タウ子爵家の面々めんめんが長命種である『エルフ』である事も要因よういんの一つかもしれない。高い能力と変態性が合わさったことも王国魔法士団の一部隊を乗っ取ることになった原因だろう。


 ついていけなくなった研究者達は違う研究系の魔法士団か国立もしくは外部の研究所に入っているのだがそれはまた違うお話。


「奴らと共同作戦だとっ! 上は何を考えている」

「私その日、実家で用事が出来る予定が……」


 そう言い部屋から出ようとする副官の肩をつかみ引きめた。


「おいおい、副官殿。敵前逃亡は死刑だぞ? 」

「敵ではなく、一応味方ですが」

「なら命令違反だ。きちんと補佐ほさしてくれよ。頼りにしてるぜ、メリア」

「……まったくもう」


 少し顔を赤らめながらも、国からの命令に従うことになったメアリとあきめの表情を浮かべているケルマ。

 こうして決定したことを団員にげることに。

 その後第三騎士団全体が阿鼻叫喚あびきょうかんのパニック状態におちいったのも仕方がない事である。

 

 ★


 ケルマ達はあまり彼らと会ったことや見たことがなかった。いや意図的に避けていた。


 よって直接彼らを見たことがない。

 合流時、第三騎士団と第十二魔法士団が合同調査の為に西の森で合流した時は見惚みほれてしまった。

 いつもは研究棟にこもっているせいか白い肌に拍車はくしゃがかかり、誰も触れれないような美しさを放っていた。風貌ふうぼう美麗びれいそのもの。なにも話さなければうるわしのエルフである。


 が、目の前でその者達がおどくるっている様子を見て「噂通りだったんだな」と騎士団一同がっくりした。

 男性女性年齢関わらず狂乱きょうらんするその姿は見るにえない。


 ケルマ達が一歩も二歩も引いたところから彼ら彼女らを見ているとひとりの白衣を着たエルフが彼の方を向き移動の合図を放つ。


「さぁ! いぃぃぃぃきましょうぞ!!! 」


 こうして合同調査が始まった。


 様々なモンスターを討伐しながら進む騎士団と魔法士団。

 無駄むだにスペックの良い研究者の面々めんめんが魔法を放ちながらも進んでいく。


「なにやってんだ? 」

「これですかな? これは魔力感知マナ・サーチと言う魔法です」

「武技の魔力感知と何が違うんだ? 」

「感覚的な武技とはことなり、魔力濃度を数値としてあらわすことが出来ます」

「またどこに何がどれだけいるか調べることで、他の地でも類似るいじ事例じれいが出た場合、問題に対する対処たいしょ応用おうようが可能になりますゆえ重宝ちょうほうしております」


 便利べんりな物だ、と思いながらも後ろを見るケルマ。

 そこには必死に紙に何かを書き込む白衣エルフが大勢いた。

 成程。数値化、か。

 と、思いながらもやってくるモンスターを切りきざむ。


「しかしこの魔法には問題点もございまして……」

「問題点? 」

「こちらが放った魔力に反応してモンスターが引きせられることがあるのです」

「「「お前達のせいか!!! 」」」


 ケルマ達第三騎士団は先ほどからやけに多く襲撃を受けていた。

 その原因が分かった瞬間であった。


「くそっ! 国軍一の問題集団と言うのを忘れていた」

「問題集団とはなことを。我々は研究に一途いちずなだけです。魔弾マジック・ショット! 」

「モンスターの分布ぶんぷ、調べるのにてきしてないじゃない! 」

「我々が調べているのはあくまで『魔力分布』。『モンスター分布』調査は二の次です」

「そんなとんちはいらないわよ! 」


 そう言いつつも彼らは目的地へと着き、古代神殿へと降りるのであった。


 ★


「ふむ……。昔の方も創造神クレア―テ様を信仰していた様子ですな」

「ま、ぞうがあるってことはそうだろう」


 薄暗い中第三騎士団と第十二魔法士団は行く。

 大所帯おおじょたいな為外で待つグループと中で調査するグループに分かれて進んだ。

 ケルマは中に入り調査の護衛をしているのだが無駄むだにスペックが高い彼らに護衛なんているのか、と感じ始めたのは仕方ない事である。


 所々ところどころ探していると「ひゃぁぅぅぅ!! 」という奇声きせいが聞こえてくる。

 変人の内また誰かが何か発見したのだろう。また一人ってしまったようだ。

 はて、この中に入って何人目だろうか。ケルマはもうここから逃げたくなってきている。


「おや、ここは……」


 ケルマが今護衛している者が何か発見したようだ。

 無防備に壁の方へ近づいて行く研究員。

 一応防壁の魔法は使っているようだが、安全でない所へ警戒心なくいく姿は軍人である彼からすれば無謀むぼうもいいところだ。

 まぁこの研究員も分類上は軍人になるのだが。


「穴、いえ階段ですか」

「おい、先走さきばしるな。一先ひとまず安全性を確保かくほして……」

「何を悠長ゆうちょな事言っているのですか!? さぁ行きますよ! 」


 止めようとするも階段がある方向へ行ってしまう。

 賊の拠点きょてんだったのだ。罠があってもおかしくない。

 無警戒のまま進む研究員を慎重しんちょうけるケルマ。

 階段をカカカカと音を立てながら用心深ようじんぶかく上がると――


「あれ? 団長、どうしてここに? 」


 外に出た。


「ここは脱出経路けいろだったようですね」

「もしくは別の入り口だな」


 結局の所、古代神殿ということが分かったのみだ。

 歴史産物として保護され、賊やモンスターの拠点きょてんにならないように巡回兵じゅんかいへいおもむくようになるが、ケルマ達の精神的な苦労にり合わない成果せいかとなってしまった。

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