第百五十三話 リンと俺と仲間達 二

「エルベルさんナイスですわ! 」

「今回はナイスだ! 」


 エルベルにぶつかり目を回しているリンを横目よこめに何故かセレスとケイロンがそろってめたたえた。

 むしろ怒らないといけないのでは?

 それよりも……。


「何でリンが? 」

「獣王国からの報酬を伝える為だよ」

「え? これ以上何を? 」

「アハハ……。それは本人に聞いてくれるとうれしいな」


 今以上に一体何を。

 恐怖ですか? 受け取るのは恐怖ですか?

 エカは何か知っているようだが言えないようだ。

 やはり恐怖か。


「しかしリンがいるのなら言ってくれたらいいじゃないか……」


 そう言いつつ気絶から起き上がろうとしているリンを見た。

 彼女は気を取り戻している所のようだ。

 頭を振り現状を確認しようとしている。


「一体何があったの……確かリンは」

「こんな風に事故になることもなかったのに」

「ごめんね。本当は言っておくべきだったんだけどドッキリをしたいっていうから黙っていたんだ」

「本人のせいか」

「なら仕方ないな! 」

「エルベルは反省すべきだよ」

「そうです。一国の姫を気絶させるなんて言語道断ごんごどうだんです」


 ケイロンとセレスは怒りながらエルベルをしかるが君達は一国の王子を恐喝きょうかつしているから、これに関しては人の事は言えないと思う。

 リンはまだ混乱しているようだ。

 彼女のところまで行き目線を合わせ声をかける。


「大丈夫? リン」

「はい、リンは大丈夫です……ううう」

「そっか」


 大丈夫なようだ。可愛かわいらしく頭をさすりながらも答えた。

 しかし……ちんまいな。

 よくよく見ると獅子しし獣人はねこ獣人のような耳をしているみたいだ。だが尻尾しっぽが大きく違う。さきっぽがボンボンみたいになっていてそこまでのあいだは毛が少ない。

 彼女が今着てる服はオレンジ色のワンピースであまり露出度ろしゅつどが多くない健全けんぜんなものだ。


「そんなに見られたらリンはずかしいです」

「おおっと、ごめん」

「デリク」

「アンデリック」

「アンデリック君流石に……」

「デリク、ちょいっと詰め所に行こうや」

「遊びに行くのか? 」

「駄乳エルフは黙ってろ」


 俺はロリコンじゃない!

 声を大きくして叫びたいが、それでロリコン認定されそうなのでむねうちめた。


 非難ひなんびる中俺は立ち、リンに手を差し伸べて立たせる。

 そしてリンが全体を見て一言。


「負けません!!! 」

「何にだよ?! 」


 思わせぶりな雰囲気ふんいきを出して何を言っているんだ?!

 俺が困惑こんわくする中エカが苦笑いして少しこちらにってきて、耳元みみもとささやいた。


「君も大変だね」

「だから何が?! 」

「はは、その内わかるよ」

「教えてくれてもいいじゃないか」


 そんなやりとりをしているとケイロン達が口に手をやり驚愕きょうがくと絶望の表情を浮かべて口々にしゃべる。


「まさかとは思ってたけどデリク、君は……」

「強敵がこんなところにも! 」

「負けません! 例え相手が同性でも! 」

「ケイロン達は何言ってるんだ? 」

「アンの、これからが心配だぜ」

「違う。誤解だ! 」

「アンデリック君。ボクの事は遊びだったんだね」

「おい待てエカ。何ケイロン達の話に乗ってるんだ! 」

「やっぱり」

「これはドラゴニカに連絡して薬の調達ちょうたつを」

「リ、リンも薬を買いに行かなくちゃ」

「なんだ、デリクは病気なのか? 」

「ある意味……病気だな」


 やめろ! 俺をそっちの道に引きずり込むな。

 そしてエカは何ニヤニヤしながらこっちを見ている!

 そのおかげで誤解が広まっているんだぞ。

 エカ自身も被害にあっているの、もしかしてわかってないのか。


「コホン。冗談じょうだんはこのくらいにしてボクは退散たいさんするよ」

「誤解をいてからにしてくれ! 」

「まぁまぁリン王女からも言わないといけない事もあるだろうし。お邪魔じゃま虫は退散たいさんするよ。じゃぁね、また今度」


 そう言ってエカは足早あしばや屋敷やしきを出ていった。

 「また今度」ってそれが誤解を増長ぞうちょうさせているんだが?!

 はぁ。まぁ、仕方ない。


 一度リンの方を向くと流石に俺のさっしたのか口を開いた。


「驚かせてごめんなさい」


 しゅんとなり小さな体を更にちぢこませるリン。

 罪悪感!!!

 それに何か今までの雰囲気ふんいきとは全く違うぞ?!

 口調くちょうもなんか変わってるし。


「リンはこっちの方がなのです」

「いつものあの口調は? 」

「あれは外向きの口調なのです。ケイロンお姉ちゃん」

「「「お姉ちゃん?! 」」」


 ケイロンがお姉ちゃん、お姉ちゃん……。

 ヤバい、腹がねじれそうだ。

 我慢しろ。でなければ待ち受けているのは死だ。我慢だ。


「……なぁに笑おうとしているのかな」

「ソ、ソンナコトナイ」

「カタコトになっていますわよ」

「コエヲカケナイデクレ。ガマンガ……」

「で、王女様直々じきじきに何してんだ? 」

「そうです、スミナお姉ちゃん! 言わないといけないことがあるのです」


 リンの声を聞き「お、おう」と後退あとずさるスミナ。

 お姉ちゃん呼ばわりがしっくりこないのだろう。少し動きがぎこちない。


「まずカルボ王国同様金銭が払われるのです。詳細しょうさいはこっちに……」


 そう言い腰にしていたポーチをさぐる。

 少しするとその大きさからは考えられない巨大なクローがでてきた。


「間違えました」

「なにと?! 」


 ポーチに入る大きさのクローじゃなかったよな?! ああ、あれか。アイテムバックになってるのか。あのポーチ。

 少し遠い目をしているともう一回探り書類を出した。

 それを俺に渡すと周りのみんなのぞき込むように見てその金額に顔を引きらせる。


「ま、まぁ王国と同じくらいだね」

「おそらく合わせたのでしょうね」

「管理が大変だな、こりゃ」

「見てな、見てない、見てない……」


 俺が現実逃避げんじつとうひしている中リンが更に口を開く。


「次に獣位――こちらでいう所の貴族位なのです。けどこれはお父様が直接渡すと言っていたので一度行かないといけないのです。一応カルボ王国に配慮はいりょして男爵位相当そうとうにするらしいのですよ」

「……二か国でもらうなんて、過分かぶんすぎる」


 そう言い助けの目をリンに向けるが無駄だったようだ。


あきらめるのです。返還へんかん不可能なのですよ」

「マジでか……」

「「らしい」と言うのはまだ決定ではないのですか? 」

「!!! 」

「……残念ながらそうなのです、セレスティナお姉ちゃん。獣王国は強い軍事力を持つ代わりにその力を暴走させないためカルボ王国とくらべて王権おうけんよりも議会の方が力が強いのです。なので爵位授与じゅよもお父様が帰り一度議会にかけないといけないのです」


 よし、光明こうみょうが見えた!


「でも銀狼卿と鳳凰卿がえらくアンデリック様を気に入っていたのでほぼ確実に議会は通るのですよ」


 なん、だと。

 あのじいさん。めっちゃえらい人だったんだな。


「それと同時に勲章くんしょうも用意するみたいなのです。そして……」

「そして??? 」

「アンデリック様はリンと婚約者になったのです」


 リンが満面まんめんの笑みを浮かべる中、その場が――固まった。

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