第百五十二話 リンと俺と仲間達 一

 リンの仲介ちゅうかいで俺とフェンさんの戦いはまくを閉じた。

 リンから「アンデリック様を殺すつもりですか! 」と怒られしゅんとなっているフェンさん。

 今までの様子からは予想が出来ないほどにへこんでいた。


「しかし最後の攻撃を避けられるとは思いませんでしたわい」

「……一瞬『死』を感じ取ったので」

「そのわかさでそのいきたっするとは。これからも期待ですな。また一戦やりましょうぞ」


 嫌です! あんな勝ち筋の見えない戦いは嫌です!

 必死に目で訴えるもそれを肯定こうていとらえたのかニヤリと笑い、こちらを見た。

 

 俺達が話していると後ろから複数人の手を叩く音が聞こえてくる。

 すぐさま振り返るとそこにいたのはカルボ三世とカイゼル五世だった。

 ひざまず臣下しんかれいを取ろうとすると手でそれをさえられ立つようにうながされた。


「よい、よい。今は公式の場ではない」

左様さよう

「いい試合だったぞ。セグ卿」

「おめにあずかり光栄こうえいでございます」


 やりたくはなかったですけどね。


「カイゼル殿、これならば問題あるまい」

「任せても大丈夫そうですな」


 何やら顔を見合わせ不穏ふおんな言葉をつぶやく二人。

 それを聞いてか満足まんぞくげなリン。


「我々はこれから政務せいむに戻る。卿は今日中に屋敷やしきを確認するよう」

「わかりました。早急そうきゅうに確認させていただきます」

「うむ。使用人などの人材だが卿に一任いちにんすることは前にも伝えたが、もしわからない、足りない場合は王城へ相談に来るよう」

御意ぎょい

「これからの活躍かつやくをより一層いっそう期待している」

「リンもこれからカイゼル陛下と共に行きます。アンデリック様の今後にさちあらんことを」

「ありがとう、リン」

「じゃな! またやろう! 」


 そう言い両国の王とリン、そしてその護衛達は王城の中へ行った。

 それを見届け全員顔を合わせる。


「さっきの戦い何?! いつのにそんなに強くなったの?! 」

「ええ。今までとは段違だんちがいのスピードでした」

「ハハハ……。低ランクでもモンスターを大量に毎日っているとこうなるさ。ハハハ……」


 俺はかわいた笑みを見せるが、先をされたと感じがしたのかくやしそうな顔をしてこちらをにらみつけるケイロンとセレス。


「くぅぅぅ! こんなことになるなら誕生たんじょうパーティーを抜け出すんだった! 」

「あんなつまらないパーティーに行くぐらいならアンデリックの成長を記録した方が有意義ゆういぎでしたわ! 」

「王子本人がいる中でよく言うな、二人とも」

「いつもこんな感じだから気にしないよ。スミナ殿」


 そうは言うものの泣きそうなエレク王子。

 本当に不憫ふびんだ。

 自分の誕生たんじょうパーティーまでなじられるとは。


「ま、二人共戻ってきて。これから子爵家へ案内するから」

「殿下が、ですか? 」

「ボクの事は今まで通りエカで良いよ」

「流石にそれは……」

「エカだよ、エカ。それに敬語もダメ」


 何故かため口をいるエレク王子ことエカ。

 必死さが半端はんぱない。

 もしかして友達が少ないのだろうか? それともケイロンやセレスと俺のやり取りをみて真似まねたいのだろうか。

 分からないが、さかわらない事が一番だろう。


「わ、わかったよ。エ、エカ」

「よし! 友達ゲット!!! ……ボソ」


 小さな声で言ったつもりだろうけど丸聞こえですよ、エカさん。

 いまだにくやしがっているケイロンとセレス以外は苦笑いだ。


「じゃぁ行こう!!! 」


 エカに連れられ俺達は王城を後にして子爵家邸へ向かった。


 ★


「……屋敷やしきだな」

屋敷やしきだね」

「ハハハ! これで精霊様と同居どうきょ生活が!!! 」

「来てしまったな」

「来てしまいましたね」

「エルベル殿はどうしたの、アンデリック君?! 彼女なんかおかしいよ! 」


 来てしまった。


 俺達はれない貴族街を行き少し高めに位置する屋敷やしきに来た。

 周りに他の屋敷やしきはなくまた王城との距離もほどほどで良い感じだ。


 門をくぐり中に入る。

 屋敷やしき本館ほんかんへ行くまでにそれなりの距離があり、途中花壇かだんが置いてあったり木がえられていた。

 時々手入れをしているのか花のかおりがただよってくる。


 屋敷やしき自体も大きい。

 王都の店などに見られる赤い煉瓦状れんがじょうの家とはことなり白一面いちめんである。屋根やねは青く綺麗きれいにされまども複数みられることから部屋の数の多さが分かる。


 これだけ見ると言い屋敷やしきだろう。

 しかし素直に喜べない。

 いや、冒険者として本拠地を持つことは自体は良いんだが不安材料が今狂喜乱舞きょうきらんぶしている。

 エカはかなり戸惑とまどいながら彼女を見ているが、俺達はれてしまった。

 ここまで来るのにも大変だったが、今ほどではない。


「まだ来てないのに」

「これ精霊達が着たらまずくない? 」

「最悪あの駄乳エルフ、命を落としかねんぞ」

「ハハハハハ! ヒィヤァフゥゥゥ!!! 」


 庭で一人おどっている。

 なまじスタイルも良くそれを強調きょうちょうするかのような黒いインナーを着ている為に変態性へんたいせいが増している。

 風の精霊魔法を無意識に使っているのだろうか。彼女の周囲に金色こんじきに輝く小精霊が視えた。

 そして花壇かだんの花をおどりに合わせて自身を演出えんしゅつしている。

 何この無駄技術! と言うか花壇かだんらすな!


「怖い、怖いよ。エルベル殿」

「エレク殿下。見たらだめですよ」

「そうだよ、殿下。あれは触れてはいけない存在だったんだ」

「それにここで見たことを話したらダメですからね」

「わ、わかったよ。だからそんなに威圧しないでよ」


 俺の隣で王子に圧力をかける貴族子女達がいた。

 普通逆じゃないか?

 彼女達の学生時代がめっちゃ気になるんだが。


「色々、あきらめろ。アン」

「そうだな。進むか」

「お、置いてかないでよ。アンデリック君」

「ワタクシ達も行きますわ」

「エルベルはどうするの? 」

「放置! 」

「あはははは! 同居どうきょ! 同居どうきょ! 同居どうきょ! 同居どうきょ! 」


 俺達が進もうとすると同居どうきょと言う言葉を連呼れんこするエルベル。

 俺は違う意味で顔を赤くした。


 そうだ。セレスやスミナ、ケイロンも住むんだった。

 か、かえら……ないよね。うん。分かってた。

 エルベルはともかく、特に貴族子女二人はまずいんじゃないか?

 それを口にしようとするも何故かはばまれた。

 言ったらだめな気がする。


「さ、このとびらを開けてくれ。リーダー」


 スミナのその言葉で我に返り、前を向く。

 木で出来た――しかしがっしりとしたとびらだ。

 金色きんいろのドアノブを手に取り、引き中に入る。


「お帰りなさい。あ、な、「いーえーだー!!! 」」


 ドン!!!


 何か聞こえたと思ったら俺達の後ろではしゃいでいたエルベルが屋敷とつちゅうに突入し、向こう側にリンが転がっていった。


「「「何が??? 」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る