第百五十話 欲望の行く末

「これよりカルボ王国王都騎士団第五部隊隊長『ロロ・ブリッツ』と獣王国ビスト銀狼卿『フェン・グレカス』の決闘を行います! 」


 リン様に連れられた俺達は王城内に設置された訓練場を上から見ることが出来る特等席にいた。

 じーっと見ていると見たことのある顔を発見した。

 あの人ロロ・ブリッツっていうんだ……。

 確か真っ先にゲロった人だ。


「リン様、どうして俺達がここにいるのですか? 」

「リンの事は呼び捨てでリンで構いませんよ、英雄殿」

「英雄殿はやめてください」

「では私の事をリン、と。そして敬語も不要です」

「はぁ……」


 やり取りをしていると俺の後ろからかなりの威圧感がかかってきた。

 その瞬間振り向き見るも、一瞬で霧散むさんする。

 何だったんだ?


「先ほどのご質問ですが、彼のロロ・ブリッツなる嘔吐騎士団団長殿は貴方の功績こうせきを横取りしようとしておりました」

「「「はぁぁぁぁぁ?! 」」」


 初耳だ……。

 確かに外にらすなとかなりねんを押されていたがそんなことがあったとは。


みんな知ってたか? 」


 振り返り、メンバーに聞いてみる。

 すると意外にもケイロンとセレスは気付いていたようで「知っていました」と言うが他の二人は知らなかったようだ。顔が驚きに染まっている。


「全くもってなげかわしいよね。貴族たるものが成果の横取りなんて」

「ええ、本当にです。これは私を含め助けられた各貴族子息子女もおりましたのですぐにばれましたが。彼ら、特に獣人の怒りが物凄く、せっかく回避できた戦争をっ掛けるところでした」

「特に戦い好きなのが今あそこにいる『銀狼卿』と呼ばれる貴族らしいよ」

こうか不幸かにも嘔吐騎士団は全員獣人達と決闘で実力を見せることを約束していたので、直接彼らに怒りをぶつけるという解決策でなんとかなりましたが……」


 本当にろくなことしねぇな! 王都騎士団!

 そして隣国の王女に、意図的に名前を間違えられるなんて、全く関係のない他の部隊の隊員からすればいい迷惑だろう。


「それ、彼は大丈夫なのですか? 」

「怒りに狂った獣人が慈悲じひをかけるとでも? 」

「思いません!!! 」


 優しいガルムさんですら毎日のように俺達をき飛ばしていたんだ。

 激情げきじょうられた獣人がどのような行為に走るか、考えるまでもないか。


「さ、始まりますよ」


 リンが訓練場に目を戻すと戦闘が始まろうとしていた。


 ★


 ロロ・ブリッツはシリル公爵家派閥はばつ——所謂いわゆる軍閥ぐんばつに所属している武官の一人だ。

 今回の功績こうせきが親に認められ先日結婚することが決まった。

 相手は五女とは言え高位貴族の子女。

 騎士爵しか持たない彼からすればのどから手が出るほどに欲しいえんであった。

 だがその欲が今回あだとなった。


「さぁ英雄殿、死力しりょくくし戦いましょうや」


 彼の目の前に立つのは老いた一人の狼獣人。

 しかし老いを感じさせない雰囲気ふんいきまとい太いふさふさの尻尾しっぽを持つ屈強くっきょうな男性だ。

 剣を構えているロロの前に素手で立ちふさがっている。


「て、手加減を、し、し、して……」

「ははは、英雄殿は冗談じょうだんがお好きなようだ。全力でり合いましょうや」


 フェン・グレカスから放たれる闘気とうき膨張ぼうちょうする。

 それに呼応こおうするかのように訓練場の土がき上がる。


「何やら相手の怪我を御心配の様子! しかしその必要はございません。今回の決闘の為に我が国自慢の衛兵がおりますゆえ、全力で行ってください! なお、それでも死亡した場合、骨は拾いますのでご安心を!!! 」


 司会者が衛兵達を紹介すると訓練場のはしから白い法衣ほういを着た集団が現れた。

 三十人以上にも及ぶ長い魔杖スタッフたずさえた彼らはそれぞれてい位置に着くと魔杖まじょうをトン! と一回だけつき、いつでも大丈夫と司会者に合図あいずを送る。

 緊迫きんぱくした様子を司会者がなごませようとしたのか冗談じょうだんを言う。

 笑ったのは両国の王のみで他は笑っていない。笑えない。


「では――始め!!! 」


 ★


「なぁ若造わかぞう。自身の限界を、種族の限界を超える、方法を知っているか? 」


 開始の言葉が放たれた瞬間ロロは切りかかる。

 容赦ようしゃなく上段から切りかかるが容易よういかわされる。

 それも予想済みなのか連撃を放ち欲望の凶刃きょうじんがフェンにせまるも余裕よゆうで回避した。


「 (クソ! 動きが速すぎる! )」

「わしが速いんじゃない。おめぇがおせぇんだ」


 悠々ゆうゆうと避けられながらも剣撃をり返す。

 これに勝たなければロロに後は無い。

 不正が白日はくじつもとさらされそして処分されることが分かっているからだ。


 フェンは彼の攻撃を避けて一度大きく後ろに飛びね、そして特等席の方を見る。

 そしてロロの方へ向き直しニヤリと笑う。


余裕よゆうぶってんじゃねぇ!!! 」

「超える方法その一! 上限解放オーバーリミット!!! 」


 切りかかろうとしていたロロが、立ち止まる。

 何か叫んだと思った瞬間目の前の男の『気』や『魔力』と言った諸々もろもろの力が爆発的に膨張ぼうちょうしたからだ。


「な、なにが、おこって……」


 どんどんと力が膨張ぼうちょうする。

 そしてそれに呼応こおうするかのように男の体が変化し始めた。

 最初は毛がない部分から白銀の毛が出てきて、伸びる。

 体も肥大ひだいし、戦闘服がはじけてそして――


「狼獣人の上限解放オーバー・リミットその一。銀狼人フェンリラー化だ」

「な、んだ。その姿……」

「理解できぬか。貴様のおろかな行い、クレア―テ様のもとで――あらためよ」


 ロロの上半身と下半身が分かれた。


 ★


「あれは一体」

「人型の全種族にはそれぞれ制限がかかっています」

「セレス」


 特等席でいきなり形態変化けいたいへんかした銀狼卿を見て驚く。

 あんな姿見たことない。

 驚いているとセレス口を開く。

 それに追従ついじゅうするようにリンが補足ほそく説明を始めた。


「『銀狼卿』フェン・グレカスはその制限を突破できた者の一人で我が国の最高戦力の一人です」

「どうしてこんなおおやけの場所で手のうちさらす行為を? 」


 あの実力ならばそのようなことをせずとも瞬殺しゅんさつできたはずだ。

 戦いを見ている限り、実力が離れすぎている。

 わざわざ形態変化けいたいへんかをする必要性が見当みあたらない。


「まず彼からアンデリック様に是非ぜひ見せたいともうし出がありました。彼の性格からして単純に自分の力がどの程度か見せびらかしたかったのでしょう」


 そ、そんな理由……。


「まぁ銀狼卿の事は戦闘力を持った大きな子供と思っていただければ」


 可愛かわいらしくリンはニコリと笑いながらこちらを向いた。

 あれだ。一番厄介やっかいなタイプだ。

 エルベルやセレスの戦闘狂タイプだ。

 かかわらないのが一番!


「さて次の方、準備を!!! 」

「え? まだやるの? 」

「ええ、第五部隊全員が対象になっているので」


 カルボ王国側の司会者は部隊長が瞬殺しゅんさつされたというのに軽快けいかいな口調で次をうながす。

 たぶんいつも彼らに苦労させられていたのだろう。

 早く、早くとうながしている。


 結局の所、第五部隊は銀狼卿一人により文字通り殲滅せんめつされた。

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