第百四十九話 王族達のお茶会

「やっ! 」

「そのせつはお世話になりました」

「初めまして~」


 メイドに連れられてやってきた庭園ていえんに三人の王子王女がいた。

 一人は『エカ』と言う名の偽名ぎめいを使い王都をぶらついていたこの国の第一王子エレク・カルボ様。

 もう一人は賊から助け出した獅子しし獣人の女の子で獣王国ビストの王女リン・カイゼル様。

 そして……。


「ぼくはドラゴニカ王国第一王子ウォルター・ドラゴニカだよ。よろしく~」


 セレスと同じくき通った青色の鹿しかのような角を持ったイケメン水龍人ことウォルター様だ。


「初めまして。私はアンデリック・セグと申します。ウォルター・ドラゴニカ王子殿下」

堅苦かたぐるしいね。もっと気軽きがるな感じでいいよ~」

「は、はぁ」

「そうです、アンデリック様。この場で堅苦かたぐるしいのはなしです」

「そうそう。第一、呼んだのは僕達だし」


 ドラゴニカ王国の王子様の言葉でその他の王子王女がもっとらくにと言ってくる。

 しかしそれは少々無理のある話だ。

 そして何気なにげにリン様、俺に『様』を付けるのやめてくれませんか? 心臓悪いし周りの使用人達の目線が痛い。


「まぁみんな一先ひとまず座ってよ」


 エレク王子がそう言い自分達の隣を向いた。

 そこには真っ白く丸い机がありメイド達が人数分紅茶を出している。

 どうやら俺達は王族から逃げられないようだ。


 俺達が座るのを確認してリン様が席を立ち口を開く。


「まずお礼を言うのが遅れたことを謝罪します。本来ならばすぐにでもお礼を言いたかったのですが状況がそれを許さず……。このたびまことにありがとうございました」

「お、俺達は居合いあわせただけで、当然とうぜんの事をしたまでです」


 そう言い頭を下げるリン王女。

 あわてて席を立ち何とか取りつくろう。


「その『当然』ができる者が多くいればいいのですが。しかし英雄殿を困らせたらいけませんね、ふふ」


 そう軽く微笑みながら再度座り直した。

 その次にエカことエレク王子が口を開く。


「ボクからもお礼を言うよ。ありがとう。最悪の事態をまぬれた」

「……いえ、それほどでも。報酬はいただきましたし」

「はは、そうだったね」


 優雅ゆうがに白いティーカップを口につけて、一呼吸置きそう言った。

 相変あいかわらずさわやかっぷりがまぶしい。


「そう言えば殿下、ケイロンやセレス……セレスティナと知り合いなのですか? 彼女達はあまりパーティー等社交界に出てないように聞いたのですがばふぅッ! 」


 前に知り合いということを言っていたのを思い出し聞いてみようとすると両側面から肘鉄ひじてつを食らった。

 い、いてぇ……。暴力反対!

 何をそんなにあわてているんだ。


「そ、そうだね。学園アカデミーで一緒だったからね。知ってるよ。でもこれ以上の事はそっちの令嬢れいじょうが恐ろしいから言わないでおくとするよ」

「恐ろしいなんてそのようなことは無いですよ、殿下」

「その判断は賢明けんめいです。殿下」


 王族の口をふうじるなんてどんなことをやらかしたんだよ、この二人は。

 エレク王子が冷や汗を流しながらこっちを見て、「ごめんね」と目で言ってきているのが分かるよ。


「そんなに面白いのならぼくもそっちの学園アカデミーに行きたかったなぁ」


 何を思ったか命知らずなこと言い出したドラゴニカ王国の王子。

 これのどこを見て面白いと? 目は節穴ふしあななのだろうか。


「こっちの学園アカデミーに来たところで何も変わらなかったと思いますわよ」

「まぁ……あれは置いておいて、単純に面白そうだなと思っただけだよ」

「あら、ドラゴニカ王国の学アカデミーは面白くないと? 」

「……同級生ぼく一人のどこが楽しいのさ」


 悲しいような目を遠方えんぽうに向けるイケメン王子。

 え……ドラゴニカ王国ってそんなに過疎かそってるの?

 学園生活というものがどういうものかは想像できないが物凄くさみしいのは分かる。

 俺も司祭様と勉強する時同い年の子はほとんどいなかったし。


「同級生どころか上も下も誰もいなくてほとんどがドラゴニカの研究員。さみしいを通りして「学園、必要ある? 」って父上に言ってしまったよ」


 目線を戻して微笑む王子様。

 俺よりもさみしい思いをしてたぁぁ!

 流石に学園アカデミーに一人ってそれはさみしい!

 同情どうじょうの目線しか送れない。


「そんな時にい降りた同い年の龍人族の女の子の話。浮かれたねぇ」

「私は全く聞いていませんでしたが」

「聞いてすぐに婚約を申し入れたんだけど」

「お断りしましたわ」

「「「なにぃ?! 」」」


 王子、王女様含め俺達全員が驚きの声を上げ二人を交互こうごに見た。

 王家からの婚約をあっさりと断る?!

 ヤバすぎだろ、アクアディア家!


「ちょ、ちょっと待て。それって外交問題にならないか? 貴族初心者の俺でも何かがまずいのは分かるぞ?! 」

「それは大丈夫です」

「ははは、ぼくも断られるとは思わなかったけれど、思い返せば会ったことのない女性に婚約を申し出るのはまずかったと反省してるよ」

「かといってドラゴニカに戻るつもりはありませんが」

「……どういうこと? 」

「ねぇデリク。なんでアクアディア子爵家がカルボ王国の公爵家にかじりついて無事なのか不思議に思ったことない? 」

「そりゃぁあるが……」

「カルボ王国ではアクアディア家は子爵家だけどドラゴニカ王国では公爵家なんだ」

「「「……は??? 」」」


 ケイロンのその言葉を聞き頭を痛め手をやる俺。

 スミナとエルベルも同じようだ。わけがわからないという顔をしている。


「まぁ昔の事を根掘ねほ葉掘はほり話していると何日もかかるからはぶくけど、まずこの国では他国の貴族位と重複じゅうふく所持が認められているんだ」

「そんなのありかよ……」

「他の国ではない制度だね。だけどこれのおかげで軍事的に強くない我が国は周辺各国と良好な関係をべて守られているってこと」


 ツッコミたい、ツッコミたいが……やめておこう。

 また今度聞こう。


「で、アクアディア子爵家は源流げんりゅう辿たどればドラゴニカ王国の開祖かいその弟に辿たどり着くんだ。知っての通り龍人族は全種族の中で最も長命。ドラゴニカ王国の開祖かいそと同じ血を引いていると言っても他の種族とは違って二代、三代くらいの開きしかないんだ」

「……何でそんな高貴こうきな人がこの国に? 」

「それはワタクシから。アクアディア子爵家の開祖かいそいわく、「温泉が気に入った! 」以上です」

「「「それだけかよ!!! 」」」


 たったそれだけでこの国に、あえて低い爵位に甘んじてるのかよ……。

 恐るべし、アクアディア子爵家開祖。

 ん? ちょっと待て。ならばコウ様ってもしかして公爵家当主もやってるのか?!


「まぁ、長命な分変化が少ないからね。みんなのんびりしてるし。ならば他の国で変化を楽しむという龍人も多いということだよ」

「そのようなところです」

「付け加えるなら結構結婚に対して自由だから、別に王族からの結婚を断ったとしても無礼ぶれいには当たらないんだ」

「変化の少ないドラゴニカ王国で一生をごすよりもこの国で変化を楽しんだ方が有意義ゆういぎだと考えました。よってお断りを」


 なるほど……とはならん!

 キリッと王子の方を見て「王子と結婚することはない」と言ってるけど、王子涙目なみだめだよ?!

 二回目! しかも今回は直接目の前で、しかも他の国の王族の前で堂々どうどうと結婚を断ったよ、この人!

 セレス、エレク王子やリン王女を見てごらんよ。同情どうじょうの目線がウォルター王子にさってノックダウン状態だよ。

 もしかしてウォルター様、結構本気だったんじゃないか?

 本当にこれ大丈夫なのか。


「コホン。まぁそのようことも、あるでしょう……」


 なぐさめないであげて、リン様。

 ウォルター様の命のともしびが消えかかってる。


「皆様。これから余興よきょうがあるのですが、見に行きませんか? 」

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