第百四十八話 昇爵と勲章とそれと...... 二

「面を上げよ」

「「「ハッ!!! 」」」


 正面にいるカルボ三世の一言により片膝かたひざをついて頭を下げていた俺達は顔を上げた。

 めっちゃ緊張する……。

 事前に悪い事でないと知らされているものの緊張するなと言うほうが無理だ。

 そしてここに辿たどり着くまでの事を走馬灯そうまとうのように思い出す。


 玉座ぎょくざへのとびらが開き前を向くとまず目に入ったのは王冠おうかんかぶった男性であった。

 恐らく彼がカルボ三世だろう。そしてその隣に何故かエカがいた。彼を発見したと同時に嫌な予感がよぎる。

 エカ、エカ……まさかエレク王子が偽名ぎめいで外出?

 その答えに行きついた俺は向こう側でニヤニヤしているエカを顔を強張こわばらせながらも笑えない冗談だ、と訴えるような目線で見た。


 そして次に目に入ったのはエレク王子の隣にいる三人の獅子獣人だ。

 王家の紋様が入ったその煌びやかな服装で一人は王様でもう一人は王妃おうひ様だとわかる。

 そしてその隣には……めっちゃ見たことのある女の子がいた。


 そう言うことかぁぁぁぁ!!!


 心の中で叫び過剰かじょうに押しせる感情のせいで笑いそうになるのを抑えながら赤い絨毯じゅうたんを進んだ。

 緊張しながら進むと少し余裕ができ視界が開ける。

 まず俺達の目に映ったのは隣に副官のような男性を連れた宰相さいしょうドーマ侯爵こうしゃくがいた。


 そしてドーマ侯爵の少し手前側には両側面に高位貴族と思われる四人の男性が見える。

 アース公爵がいることを考えると恐らく四大貴族と言うやつだろう。

 だが出席している貴族はこれだけであった。

 それだけ秘匿性ひとくせいの高い謁見えっけんというわけだ。


 そして事前の予習の通り俺達は片膝かたひざをつきこうべれて言葉を待ったのであった。


 ★


「セグ卿」

「ハッ! 」

「貴族子息子女の大規模誘拐ゆうかい事件の解決かいけつ大儀たいぎであった」

過分かぶんなお言葉、痛み入ります。しかしこれも創造神クレア―テ様のおみちびきのおかげ。私といたしましてもみちびきにしたが全力ぜんりょくくしたのみでございます」

「うむ。しかしこうしたのも事実。これにむくいなければならない。宰相さいしょうドーマ侯爵こうしゃく

「ハッ! 獣王国『ビスト』王女、リン・カイゼル殿下の救出並びに事件の解決に関して報酬を――」


 その大きすぎる報酬に気を失いかけながら俺はただただうろおぼえな定型文の感謝を述べ、退出していくのであった。


「いやぁまさかあの場に王女様がいたとはね」

「まさかぎるだろ」

「警護は何やってるんだ」

「どうやらおしのびで城下におりた時に従者ごとさらわれたらしいよ」


 気を失いかけながらも控室ひかえしつ辿たどり着いた俺は青い顔でケイロン達と話していた。

 彼女達は先日知ったらしい。

 リン王女とはあまり交流がなく顔も知らなかったとか。

 だから分からず、いたことを聞いて俺達同様かなり驚いたようだ。


「町でさらわれるとか……。王都騎士団や憲兵は遊んでたのか? 」

「さぁ? でもそれで国軍まで町の巡回に出たらしいよ」

「そのおかげかその後は事件もなく無事終えましたが」


 それを聞き結局の所王都騎士団や憲兵の不甲斐ふがいなさで俺達がわりを食ったことを再認させられ、項垂うなだれた。

 全てが終わり自分達の安全が確保されたがスミナは緊張がまだ抜けてないようだ。

 しかしエルベルはすでに解放され部屋のあちこちを回り珍しいものを見ては目をかがやかせていた。

 ある意味エルベルは大物だと思う。

 この時だけは尊敬そんけいするよ。


「で……なにこの過分かぶんな報酬」

「一国の王女を僕達だけで助けたんだよ? 過分かぶんじゃないさ」

「ええ。きっちりともらわないと」

「騎士爵でも身分不相応ふそうおうだと思っていたんだがまさか子爵になるとは」

「正確には法衣ほうい子爵だけどね」

勲章くんしょう桔梗撫子ききょうなでしこ章ね」

「二つの国の不和ふわ未然みぜんに防いだからかな」

「ええ、恐らく」


 二人の会話を聞きながら受け取った物をおぼえている限り頭の中で転がす。

 まずは報酬ということで王金貨十枚と白金貨五十枚の金銭。こまごました金額も言っていたような気もするが王金貨が出てきたところで考えるのをやめた。


「一気に大金持ちだな! 」

「エルベルは、大物だな」

「ワタシだったら震えが止まらなくなるな」

「今まで以上に貴族章の取り扱いに気を付けないといけませんね」

「ははは、その内強盗が入ったりして」

「笑えない……」


 王金貨は白金貨百枚相当だ。もちろんこれを直接受け取ったわけではない。どうやら国営の銀行もあるらしくそちらに振り込むとの事。そこまで行き貴族章を見せれば払ってくれるらしい。

 普通は領地経営に使うようだが俺は冒険者という名の無職貴族だ。もらっても嫌な汗しか出ない。


 次に勲章くんしょうだ。


桔梗撫子ききょうなでしこ章は国と国の国交樹立じゅりつや他国との交易こうえき貢献こうけんした、文官のようなかたに通常は送られる物になります」

「ま、一歩間違えれば獣王国側の戦争推進すいしん派とかに付け込まれるところだったんだからビストとの戦争を防ぎ国益こくえきをもたらした、ということだろうね」

「戦争を未然みぜんに防いだってことは分かるがどうしてカルボ王国からこの章が? 」


「国内にも戦争をしたがる人はいるってこと」

「そいつらが今回の事件の裏を引いてたのか? 傍迷惑はためいわくな! 」


「シリル公爵のような軍閥ぐんばつからすればこの平和な関係は面白くないのでしょうね」

「というと? 」

「戦争が無いと自分達が活躍できないでしょう? 議会とかで自身の発言権が低くなったりするのです」

「お金のこともあるだろうね。ほら、武器や薬を売ってもうけようとする人達もいるからさ」


 全くもって迷惑めいわくきわまりない!

 憤慨ふんがいしながらも俺は机に置かれた紅茶を手に取り乾いたのどうるおす。


「そして屋敷やしきだね」

もらっちゃったな」

もらっちゃいましたね」

「ヒィヤァフゥゥゥ! 屋敷やしきだ! 」

「駄乳エルフがもらったわけじゃないだろ」

「何?! オレ達は住めないのか?! 」


 スミナの的確てきかくなツッコミに、立ち上がり驚きの表情を見せるエルベル。

 いや、住んでもいいけど住める前提ぜんていで話されても。

 他のみんなは苦笑いだ。


「なぁなぁデリク、住んでもいいよな」


 今までからは想像できないような初めて聞くあまったるい声で手もみしながらこっちに近付いて来た。


「……はぁ。いいよ。もとよりそのつもりだったしな」

「やったぁー!!! これで精霊様がお住まいになると楽園らくえんだ!!! 」

「「「あ……」」」


 あ“あ”あ“……そうだった!

 ひーちゃん達を住まわせないといけないんだった!

 どうしよう、と他の面々を見る。


「これは……まずいですね」

「まさかタウ子爵家の再現さいげん?! 」

「使用人達が逃げてしまいます。どうにかしなければ」


 ここにきて急にエルベルを住まわせたくなくなったぞ。

 ケイロン達も考えてくれているようだが良案りょうあんが見つからないようだ。

 どうするべきか、と考えていると控室ひかえしつとびらからノックの音がしてきた。


「何だろう? 」

来客らいきゃく予定あったか? 」

「帰る準備かもな」

「どうぞ」

「失礼します」


 顔を見合わせる中一人のメイドが入って来た。 

 あらぶるエルベルを見て「ヒィ! 」と口かられたが気にしない。気にしてはいけない。

 彼女はすぐに平常心に戻り鉄の仮面で俺達に用事を伝えた。


「エレク王子殿下、リン王女殿下、加えてウォルター王子殿下がお茶会に、と」

「すぐに行きます」


 そう言い俺達は王族のお茶会に呼ばれるのであった。

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