第百四十七話 昇爵と勲章とそれと...... 一

 俺達を乗せた馬車は王城の一画いっかくへ向かった。

 ゆっくりと止まったためか、はたまたこの馬車の性能がいいためか停止時のれを感じることなく停止する。


「ではこちらになります」


 外側から馬車のとびらが開かれまずはドーマ宰相さいしょうが降りた。

 その後ろから降りてくるように言われた俺達は顔を青くしながら外に出る。

 太陽の日がこれほどまでににくたらしく思ったのは始めてだ。


「さて、ここから城内へ入ります。まず私の後ろをついてきてください」


 説明を受けて城内へ入り、指示通りにドーマ宰相さいしょうの後ろをついて行く。

 通りがかった使用人達が頭を下げるも、りただひたすらついて行く。

 ううう……。罪悪感と緊張で気持ち悪くなってきた。

 

「まずこちらへどうぞ。到着とうちゃくしたことを陛下にお伝えしますのでそのあいだお休みになられてください」


 客室の前まで来るとそう言い中へ入るようにうながした。

 部屋のとびらの前には一人の――少し装飾そうしょくほどこされている鎧を着た騎士がおりとびらを開けて俺達を中に入れる。


 ドーマ宰相さいしょうはその場から離れて廊下ろうかの向こうへ。

 中で待機していた一人のメイドが、俺達が高価なソファーに座るのを確認すると白いサービスワゴンを押しながら近寄る。

 メイドによる自己紹介もほどほどに彼女は紅茶をそそいで口を開いた。


御用ごようさいはこちらのベルを鳴らしてください。外にひかえている者がお聞きいたしますので」

「「「……はい」」」

「ではごゆっくり」


 そう言い一礼いちれいして彼女はサービスワゴンを押しながらが客室から出ていった。


「「「はぁぁぁぁ……」」」

「何でこうなった? 」

「ワタシが聞きてぇ」

「……」


 メイドがいなくなり少しばかしか余裕が出来た俺達は口を開く。

 ここまでくるのにかなり消耗したがスミナやエルベルも同じようだ。

 ソファーにぐったりと倒れている。


「え、これから国王陛下と会わないといけないのか? 無理だろ」

「アン、正直に言いな。何やらかした」

「なにもやってねぇよ」

「でもよ。何かやってねぇとこうはならんだろ」

「確かにだが、本当に心当たりがない」

「そうか……」


 と、だけ言い天井てんじょうを見るスミナ。

 彼女とエルベルは完全にとばっちり、でもなさそうだ。 

 何せ俺だけ行くと誤解して移動しようとしたら「二人も」ということだったからだ。

 ならば種族の輪サークルとして何かやらかした可能性が高い。


「……エルベル、か」

「な?! オレは何もしてないぞ?! 」

「駄乳エルフ。お前いつもやらかしてるだろう」

「この前はアクアディア家でやらかしたし」

「知らないあいだに目を付けられて、ドボンか」

「ああ……短い人生だったぜ」

「知らない、オレ知らない! 」


 俺達がいたった結論けつろんはエルベルであった。

 つねに何かやらかしているエルベルだ。何かしらで王族に危害を加えたのかもしれない。

 それで排除か。ならば俺達のとる行動は一つだな。


「最悪エルベルを置いて逃げるか」

「そうだな。この精霊狂いは置いておくべきだ」

「今思えば路上ろじょうトリップとかヤバいしな」

「普通に考えて犯罪だよな」

辛辣しんらつ!? 」


 俺とスミナがめ立てると予想以上にダメージを喰らったようだ。

 少しがくりと項垂うなだれた。


 一体何が原因なのか考えているととびらからノックの音が。

 入室を許可するとケイロンとセレスが入ってくる。


「久しぶり」

「お久しぶりです。まつりは如何いかがでしたか? 」

「俺達は……まつりに行けてない」

「ああ、ギルドにめられてな」

「「??? 」」


 誕生祭たんじょうさいがどうだったか聞いてくる二人に俺達が事情を話した。

 それを聞きどこかあわれみの目線で見てくる二人。

 やめてくれ。泣きたくなる。


「それは、大変だったね」

「ああ、そっちはどうだったんだ? 」

「ワタクシ達は事前まで王城にめていました」

「夜会が始まるまで同級生と話してたよ」


 どうやらケイロンとセレスは誕生祭たんじょうさい自体には出ていないようだ。

 まぁ貴族やその子息子女が王都の方に出るのも問題か。


 昨日の事を話しながらもケイロンとセレスは俺達の前にあるソファーに座る。

 ケイロンはいつもと違い白いシャツに赤いブレザー、そして白のパンツであった。赤いブレザーには所々金糸いんしが入っており差し詰め赤い騎士のような服装だ。

 セレスは逆に白いシャツに紺色こんいろのブレザー、そしてフリル付きの長めのスカートである。この紺色こんいろのブレザーには金色きんいろの糸のチェーン状の物が首からわき腹にかけてかかっておりこちらは魔導士と言った感じを受ける。

 いつもと違う服装に違和感を感じながらも一言。


「私服? 」

「違う、違う。正装だよ」

「アンデリックはいつもと同じ服装の様ですが」

「俺達は宿に戻った瞬間ここに連れられてきたからな」

「ケイとセレスもとなるとこれは本格的にヤバいな」

「ああ、そうだな」

「「何が (でしょうか)? 」」

「何がって……そりゃ……」


 そう言い俺は予想を口にしたらケラケラと笑い出した。

 俺達はそれを呆然ぼうぜんと見ながらもどうしたのか聞いてみる。


「勘違いしてるよ」

「ええ。これを陛下が聞いたら大笑いするでしょう」

「だが、これと言って王城に呼ばれる理由が見当たらないんだが」

「ドーマ宰相さいしょう閣下は何も言っていないのですよね? 」

「ああ。くわしい事は陛下の口からって」

「なら僕達が言えることはないね」

「悪い事ではなですね。アンデリックにとっては」


 笑い過ぎたせいか出てきた涙を白い手でぬぐう二人。

 どうやら本当に悪い事ではないようだ。

 二人共来たから全員で罰を受けよとか言われるのかと思ったが違うようだ。

 しかし二人は何か知っているようだな。

 さきんじて教えてくれてもいいのに。

 心の準備ができないじゃないか。悪い事でなくても多分心臓に悪いやつだ。これ。


「そうだ、デリク。マナー講座の続きだよ」

「え? 」

「国王陛下と面会する時のマナーをまだやっていなかったのでこれをおぼえましょう」

「失礼のないようにね」

「いきなりか?! 」

「時間もせまってるしね」

粗相そそうがあってはいけませんから」

頑張がんばれ、アン」

「負けるな、デリク! 」

「何言ってるの? 二人もやるんだよ」

「「な、ん……だと? 」」

「当たり前です。エルベルさんもスミナさんもこれから面会するのですから」

「い、いや。ワタシ達はここで待ってるよ」

「そ、そうだ。待ってる」

「そうは行きません。さぁやりますわよ」


 セレスティナ先生とケイロン先生監修かんしゅうもと俺達はマナー講座を受けた。

 彼女達との練習が終わるとノックがする。

 返事をして入室を許可すると女文官が入り玉座の間へと案内するむねを伝えられた。

 さぁ、行くか。

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