第百四十六話 誕生パーティー 二

「お久しぶりです。ケイロン、セレスティナ」


 ケイロン達が会話をしているそこに声をかけた勇者は冒険者ギルドの受付嬢アルビナであった。

 黄色いドレスに身をまとった彼女は多くの食事を皿に乗せ二人の元へ近寄ってくる。

 一応この場は社交しゃこうの場。ケイロンとセレスティナが冒険者をしていることを知らない面々の為に「お久しぶり」と口を開く。

 そして小声でささやくように二人にたずねた。


「アルビナ」

「あら、アルビナさんではありませんか」

「何初めからバチバチやってんのよ」

「そんなことはない」

「ええ、いたって普通に接していただけです」

「外から見るとそうは感じられないよぉ」


 大人顔負けのポーカーフェイスと威圧感をバリバリに出していた二人にしょっぱなから何喧嘩けんかしてるのと聞いてくる。

 本人達は自覚がないのか、知らぬ、存ぜぬ。

 それを冷や汗を流しながら見ている他の面々の心臓に悪い。


 かぶが下がったイチイナ達とは別に相対的にケイロンとセレスティナのかぶは上がっていた。主にしょ外国の面々の中で。

 まだおさなさを残す――しかし大人をも魅了みりょうする――顔の少女達が大人顔負けポーカーフェイスと威圧感を出したのだ。警戒しない方がおかしい。彼らの中で二人に対する警戒心が一段落上がっていた。


「イチイナ達もりないわね」

「ほんとにね」

「それで彼女、イチイナは本当に結婚するのですか? 」

「興味あるの? 」

「彼女の結婚、と言うよりかは『武勲ぶくん』の方ですが」

「結婚は本当みたい。でも武勲ぶくんの方は分からないな」

「アルビナでもわからないの? 」

「私は万能じゃないよぉ~」


 そう言いながらアルビナが口を少し動かした。

 口は「緘口令かんこうれい」とだけ動き、二人は何かあったことをさっする。

 これ以上はまずいと考えた二人は話を別の方向に中断し、いつのにかからになっているアルビナの皿と共に食事をとりに行くのであった。


 ケイロンとセレスティナのドタバタがあったものの主催しゅさいであるカルボ三世が感謝と閉幕へいまくを口にし、終わりをげる。

 が、ケイロンとセレスティナが会場から出ようとしたその時、一人の文官服を着た女性に呼び止められてしまった。


「ケイロン・ドラグ嬢、セレスティナ・ドラゴニル・アクアディア嬢。国王陛下並びにエレク第一王子殿下がお呼びでございます」

「「え??? 」」


 その言葉に思わず声がれてしまう。

 なにせ彼女が口にしたのは国王と王子でこの国のトップである。どのような思惑おもわくがあるのか全く分からない二人は警戒する。セレスティナはセレスティナで「もしも」の時の事を考えた。しかしそれは最後の手段である。


 二人が警戒する様子を見るも女文官はまゆ一つ動かさずにここから移動するよう催促さいそくした。

 一先ひとまず話を聞かないわけにはいかないと思い二人は顔を合わせてうなずき、文官に連れられるように玉座ぎょくざへと向かうのであった。


物々ものものしいですね」

「確かに」


 魔法のあかりが城内をらす中二人は王城を歩く。

 元々巨大な城をそのまま行政機関として作り変えた為武骨ぶこつな感じの王城だ。

 ならされているもカツカツカツと彼女達の靴のヒールと石造りの王城がかち合う音が静寂せいじゃくやぶる。


 目のはしには武官とおぼしき騎士達が一定間隔かんかくで配置されていた。

 まるで何か有事ゆうじが起こる可能性を考えているように。

 しかし誕生たんじょうパーティーの後ということもあってケイロンとセレスティナは特に気にしていなかった。恐らく誕生たんじょうパーティーで何かあった時の為の配置だろう、と。


 そして一つの大きなとびらき当たる。

 そのとびらの前にも二人の武官が立っており女文官が彼女達をめいにより連れてきたことを伝えると事前に武器を持っていないかチェックを行い、そして武官がぶかんを開けた。


 ゆっくりと重厚じゅうこうとびらが開き、ケイロンとセレスティナは中に入る。

 中は魔法の光でらされており明るい。

 足元は赤い絨毯じゅうたんふち金糸きんしが入った一級品。それをパーティードレスのまま悠々ゆうゆうと歩き前を見た。


 正面には国王カルボ三世と第一王子エレク・カルボ、そして何故か隣には獣王国ビストの国王カイゼル五世とその娘リン・カイゼルが見える。

 何事かと思いながらも戸惑とまどいをおもてに出さずに定位置まで行きこうべれた。


おもてを上げよ」

「「はっ! 」」


 遠目ではわからなかったが間近まじかで見るとカルボ三世の顔には少し疲れが見えていた。

 逆にエレクの方は少しにやけている。

 何が面白いのかと思うも、いくら旧知きゅうちなかとはいえこの場で口を開くのははばまれる。

 カイゼル五世は平静へいせいたもっているが尻尾しっぽが若干れており何か興味深いことがあるようで、リンはリンで少し顔を赤らめ興奮気味だ。

 そしてカルボ三世が口を開く。


「急な招集しょうしゅうおう大儀たいぎである。今回はそなた達に確認したいことがあり呼んだのだ。許せ」

「お呼びとあらば即座そくざけ付けるのが我々でございます故」

「どうかめいを」


 二人の真っ直ぐな瞳を向けながら「王国貴族としてけ付けるのは当然」と答えた。

 もっともケイロンとセレスティナにその気はなく単なる定型文で「さっさと要件ようけんを言って解放してくれ」と心の中で思っているのだがその心中しょうしゅうさっするほどカルボ三世に余裕はない。


「すまんな。一つ確認したいことがある」

「何なりと」

「まずケイロン嬢、そしてセレスティナ嬢は冒険者パーティー種族の輪サークルで活動していると聞いている」


 予想外の言葉を聞き少し動揺どうようする二人。

 しかしそれを気にせず王は続ける。


「悪いが調べさせてもらった。でだ。ここからが本題なのだが……カイゼル殿、頼めるか? 」

「うむ。まず隣にいるの娘におぼえはないか? 」


 そう言われ目線を移す。

 そこには一人の獅子しし獣人の女の子がいた。

 彼女を見て、思い出す。

 誘拐ゆうかい事件の時にいた子だと。


「「ございます」」

「そうか。やはりか。ならば貴君きくん達のパーティーリーダーがアンデリック・セグ卿であることに相違そういないか? 」


 それを聞き動揺どうようした。

 調べればすぐに出てくる物ではあるが一国の王が単なる騎士爵に、それも新興しんこう貴族を『卿』をつけて呼んだことに。

 これはただ事ではない――いや王女がさらわれていたこと自体がただ事ではないのだが――と思い、嘘をついたりはぐらかしたりするのは悪手あくてと考え素直に答える。


「「相違そういございません」」

「そうか、そうか。ハハハ」


 愉快ゆかいそうに笑う獣王を見ながら何が起こっているのか分からない二人。

 あの時何かまずい事でもしたのだろうかとひたいに汗が流れるもそのようなおぼえはない。

 どちらかと言うとあの場に王女がいたとなるとまずい事をしたのは王都騎士団だ。

 さてどうしたものか、と考えているあいだに言葉をつないだ。


「まず感謝を。娘を助けてくれたことに感謝する」

「「ハハ」」

「この場にセグ卿がいない事を残念に思うと同時にこのような事を考えているのだが、如何いかがかな? 真なる英雄殿? 」


 それを聞き顔を引きらせながらも拒否権など最初からなかったケイロン達は同意し、アンデリック達の王城招聘しょうへいが決まったのであった。

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