第百四十四話 終わってしまっていた誕生祭

 にくき敵を殲滅せんめつするかのように俺達はモンスターをっていった。

 最早そこに慈悲じひはない。

 もともとなかったが、苛烈かれつさが増しているのは確かである。


 そしてある日の事。

 今日も今日とてモンスターを狩り素材を受付に並べ、受付嬢の顔をゆがめさせた俺達は終わりの声を聞くことが出来た。


「コングラチュレーション! 任務終了だ! 」

「「「やっとか……」」」


 俺達の前で拍手喝采はくしゅかっさいするケリーさんがにくたらしい。

 大量のモンスターをったおかげでエルベルとスミナのランクがDまであがり大量に資金を獲得かくとくすることが出来た。

 俺も若干ながら風探知が使えるようになったり風の小精霊をまとって移動速度を上げるような小技こわざを使えるようになったがわりに合わない。


「全く他の奴らは何してるんだ? 」


 俺達の怒りを代弁だいべんするかのようにエルベルが口を開いた。

 最早作業となってしまった低ランクモンスターりは彼女にとってもあまり面白いものではなくなってしまったようだ。

 最初はあんなにはしゃいでいたのに。


「あ~冒険者もそうなんだがどうやら今までモンスターを間引まびいていた王都騎士団やら国軍やらが誕生祭たんじょうさいほういそがしかったらしくてな……」

「それが何でここまでいそがしいんですか? 」

「詳しい事は分からんがいつもは動員されていない奴らも動員されてっから何かあったんじゃないか? 」

「「「……」」」


 おぼえがあるぅぅぅぅ!!! めっちゃおぼえがある!

 何が起こっているのか分からない風な顔をケリーさんはしているが俺達は当事者のうちだった。

 まさか俺達自分の首を自分達でめてたのか?!

 少し口角こうかくを上げながらスミナとエルベルの方を見たが彼女達も同じような心境しんきょうのようだ。

 顔を強張こわばらせている。


「まぁ終わったことはいいんだ。これで冒険者達も戻るだろう? 」

「どういうことですか? 」

「ん? どういうことも何も王子殿下でんか誕生祭たんじょうさい、終わったろ? それで王都が元に戻るから冒険者達もって、もしかしてお前さん達気付いてなかったのか? 」

「「「くそぉぉぉ!!! 」」」


 俺達はくやしさのあまりくずれ落ち地面を拳で叩いた。


「気付いてたら終わってたなんてそんなのありかよ! 」

「予定にないことだったがよ! それでも少しくらい誕生祭たんじょうさい楽しんでも良かったじゃねぇか! 」

「森以外の祭り、楽しみにしてたのに!!! 」

「それを血と汗の毎日?! ふざけるなよぉぉ! 」

「覚えとけ覚えとけ覚えとけ覚えとけ覚えとけ……」

「精霊よ、しき人々に、よこしまなる人々に、永遠の苦痛を……」

「まぁなんだ。終わったのは仕方ねぇ。約束通り『重ね』と『乱れ』を教えてやるから……って話聞いてないか」


 俺達は立ちあがる。

 そしていいように使われた俺達はトボトボと歩きながら宿へ戻った。

 おぼえとけよ、と一言残して。


 ★


 意気消沈いきしょうちんしながら宿へ向かった俺達だったが宿の周りがやけにさわがしい。

 その人の集団をかなり遠くから見て俺達は顔を見合わせた。


「なにが起こってるんだ? 」

「祭りの後だから帰る客が集まって何かしてんじゃないか? 」

「人も多いが……」


 俺達は一先ひとまずその集団をまじまじと観察かんさつすることに。

 確かに人が多いしさわがしい。 

 だが何か単にさわがしいとは雰囲気が違うような気がする。


「どこか緊張のようなものが伝わってこないか? 」

ひそかにこの王都を守った俺達の功績こうせきを知ったファンが集まったのか?! 」

「馬鹿言え。それだとひそかではなくなってるじゃないか」

ひそかかはどうか置いてジルコニフ様パターンはあるかもな」

「ああ……あれか」

「だが今回はデリクは呼ばれてないだろ? ならそれはないんじゃないか? 」


 エルベルの指摘してきを受け、考え込む。

 エルベルに否定されたが有りない話ではない。

 貴族の面子めんつに関わるとかいう理由で招聘しょうへいしてなんやかんやの理由を付けて褒美ほうびを与える。

 ジルコニフ様の時がそれだったから十分にありる話だ。


厄介事やっかいごとのにおいがするんだが」

「おう、ワタシも同じだ」

「むしろオレは突っ込みたい! 」

「「一人で行け!!! 」」


 みずか厄介事やっかいごとき込まれたいと宣言せんげんするエルベルに俺とスミナがツッコむ。

 が……。

 このままここにいてもらちかないのも事実なんだよな。


「仕方ない。そこら辺の人にでも聞いてみるか」

「誰が行く? 」

「オレ! オレが行く! 」

「よし。行け、エルベル! 」

「うりゃぁ! 」


 エルベルの中のおまつりがさわぎ出したのか、高いテンションで集団に向かって行った。

 お? 思ったよりもまともに話を聞いている。

 そして宿の方を見てこちらを見た。

 ん? 帰ってきたぞ? 何があったんだ?


「お帰りエルベル」

「どうだったんだ? 」

「何か貴族が来ているらしい」

「……やはり厄介事やっかいごとか」

「アン。一応言っておくが、お前も貴族だからな? 」

「俺みたいなにわか貴族と本来の貴族を同列どうれつあつかったらだめだろう」


 エルベルの話を聞いて非常に帰りたくなってきた。

 あ、帰る場所はかこまれているんだったな。


「もしかしたら俺達が目的ではない可能性も十分にある! 」

「ケイロンとセレスティナが馬車で帰ってきたとか! 」

「「それだ!!! 」」


 そうだ、これだ。

 これなら有りる。そして馬車は彼女達の見送りだ。

 セレスも俺達についてくると言っていた。

 ならばその家臣団が見送りとして来ているんだ。


「なんだ。それなら警戒する必要なんてなかったじゃないか」

「そうだな。知り合いになったしな」

堂々どうどうと行けばいいじゃないか! さ、行こう、行こう!!! 」


 安心した俺達は前に進み人混みを分け、宿に向かう。

 宿をかこっている集団の前には一人のエルフ店員が。

 そしてその周りには騎士と思われる人達がぞろぞろといた。

 あれ。なんか思っていたのとは違う……。


「セグ卿でございますか? 」

「え、ええ……」


 騎士の一人が似顔絵らしき紙と俺を交互こうごに見て聞いて来た。

 それに戸惑とまどいながら答えると全体がざわついた。


「失礼ながら貴族章を拝見はいけんさせていただいても? 」


 そう言われ腰にしている小袋アイテムバックの中から貴族章の短剣を出し、彼に渡す。

 すると隣の騎士が分厚ぶあつい紙をめくりそこに書かれている家紋かもんと俺の短剣の家紋かもん照合しょうごうしていた。

 え、俺なにか犯罪でもやったのか?

 体中に冷や汗が流れてくるのを感じた。


「確認取れました」


 そう言うと俺に短剣を返し馬車の方へ歩いて行く騎士。


「おい、アン。何かやったのか? 」

「やってない。俺は何もやってない」

「むしろやってないのがいけなかったんじゃないか? 」

「「……ありる」」


 何せ誕生祭たんじょうさい誕生たんじょうパーティーもすっぽかした貴族だ。

 でなくても大丈夫と言われたが、本当に確認をとったわけじゃない。

 もしかしてそれがダメだったのだろうか、と考えていると馬車の方から一人の文官服を着た老人が現れ、こちらを見、背筋を伸ばして口を開いた。


「カルボ王国国王カルボ三世陛下がお呼びである。登城とうじょうされよ」


 するど眼光がんこうを飛ばしながら放たれた言葉に俺は「はい」としか答えることが出来なかった。

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