第百四十三話 討伐依頼と精霊剣の検証 三

 翌日俺とエルベルは南の森へ来ていた。

 結局の所、脅迫きょうはくと言うか命令と言うかそんな感じの自由な討伐依頼を受けてしまった。

 そう。建前たてまえ上は俺達が自由意志で受けたことになっている。


「すげー力だったな」

「あ、ああ……うんと言うまで全く動けないとは」


 拘束こうそくされた状態でうんと言うまで放してくれなかったケリーさん。

 これがうるわしの女性なら大喜びで拘束こうそくされているのだろうが残念ながら屈強くっきょう強面こわもてな男性ことケリーさんだ。

 誰が好き好んでホールドされるか。


「はぁ仕方ない。やるか」

かたぱしからつぶしてやる! 」

「頼むから跡形あとかたもなく消しるのはやめてくれよな。討伐証明部位が分からなくなる」

「そのくらいの分別ぶんべつはある! オレも立派な冒険者だ」


 腰に手を当て短い緑の髪が少しらしながら顔をこちらに近付ちかづけ抗議してきた。

 やりかねないから注意しているんだ、と残念エルフに言おうとしたが口を閉じる。

 言っても意味のない事だからだ。


「はいはい、わかったよ。ならせめてゴブリンの頭じゃなくて他の部位を爆散ばくさんさせてくれ。粉砕ふんさいされた頭から耳を探すのが大変なんだ」

「わ、わかった」


 この前俺の手伝いをしたことで素材のぎ取りがどのくらい大変なのか分かったのだろう。エルベルは素直にうなずいた。

 俺はもう慣れてしまったがあのグロさは普通の人なら卒倒そっとうしかねない。


 ここで話していても仕方がないので早速奥に進むことにした。


「リャァ! 」

「——」


 俺が切りつけエルベルが撃つ。

 その威力に相手が混乱しているあいだに更に連撃できざんでいくというルーチンが出来上がった俺達は森の中腹ちゅうふく辺りで無双むそうしていた。


風剣フウケン!!! 」


 風の精霊を剣にまとわせ鋭利えいりさを増した斬撃でシルバー・ウルフの主導者リーダーほうむり、残りのウルフをエルベルが連撃で倒す。


「その剣、何か前よりも色が良くなってないか? 」


 エルベルにそう言われたのはシルバー・ウルフ達の処理をし終えた後だった。


「……確かに若干にぶい色がかがやき出しているような気がする」


 精霊剣せいれいけん (俺命名)を太陽にかざして前と比較してみた。

 ほんの少しだが色が変わっている。

 小精霊の光、ではなさそうだ。


「小精霊をまとわせることでかがやいて行くのかな! 」

「やってみないとわからないが……」


 エルベルの言葉を受け俺は苦い顔をした。

 集中力を莫大ばくだいに使う代わりに精霊魔法は魔力を使わない。

 俺は今、風剣を使ったように精霊剣に小精霊をまとわせて戦っているのだがほんの少ししか変化が見られない。

 エルベルが望んでいるような色を完全に出すにはそれこそ多大な時間が必要なになることが簡単にわかる。もしかしたら他に条件があるのかもしれないがやる必要もない。


 ま、色が変わったからと言って剣そのものの鋭利さが増したわけではない。単に風剣を使った時に威力が増しただけだ。なのでそこまでして色にこだわる必要はない。

 エルベルには悪いが検証けんしょうは後回しだな。


「次! 次行こうぜ!!! 」

「お、おう」


 精霊剣の可能性に興奮してかハイテンションなエルベルを連れ今日も俺達は南の山のモンスターを間引まびくのであった。


 あれから俺とエルベルはモンスターをり続けた。

 何日も何日も。

 途中から刻印こくいんを終えたスミナも参戦さんせんし更にその数が増えていく。


 ちなみに俺が今はいている靴はスミナが刻印こくいんした革靴である。

 軽い、丈夫、汚れない、の三拍子さんびょうしそろったすぐれものである。

 更に俺の体重を軽くし、移動速度を上げる刻印こくいんもしてくれた。


 スミナは堅実けんじつな防御っぷりを放ちながら相手の攻撃を受け止め、エルベルが後ろから迎撃げいげきしパニックになったモンスターを倒す、という新たなパターンが体に馴染なじんでくるほどにりまくった。


「多すぎだろ!!! 」

「他の冒険者達は何してんだぁ? 」

「ハハハ、爆散ばくさんせよ!!! 」


 またもや一群いちぐん殲滅せんめつしたのだが、多い。

 と、言うかおかしいだろこの数。何が「驚くほどじゃねぇ」だ!

 これが終わったら休んでやる!!!


 そう愚痴ぐちりながらも俺達は森を出てギルドに行き怒りをぶつけるように素材をだした。


 ★


 一方その頃王城では。


「ドラゴニカ王国国王陛下、並びにご家族が到着とうちゃくされました」

「護衛ご苦労」

「「「ハッ!!! 」」」

「では引き続きドラゴニカ王国の方々の護衛を継続」


 王国軍では来賓らいひん到着とうちゃく報告がなされていた。

 どんどんとにぎやかになっている王都とは反対に王城やその大使館たいしかん迎賓館げいひんかんは緊張につつまれていた。


 それもそのはず、先日おしのびで出ていった獣王国の王女や貴族がさらわれたところである。

 これが単なる村祭りならば中止すればいいのだろうが今回は王子の誕生祭たんじょさい。それに加え遠路えんろはるばるやってきた来賓らいひんもいる。よって中止と言う選択肢は最初からないのだ。


 ならばどうするか。

 警備けいびを増やし相手が出ようにも出れないほどにガチガチに固めるしかない。


 本来なら王都騎士団と憲兵が警備けいびに当たっていたがこれに国軍が参戦さんせん

 正直やり過ぎな感じもするが事情を知る者からすればこれでも少ないくらいである。

 現場は少々混乱するもすぐに指示系統がきずかれ機能出来る状態になる。

 少ない分多いところがあるわけで、それが各国来賓らいひんの護衛であった。


 その厳重げんじゅうすぎる警備けいびに王都の人達は「何かえらい人がまた来たな」くらいしか思っていないかもしれないが過剰かじょう戦力がそこに投入とうにゅうされていた。


「はぁ……かったりぃ」

「隊長、ぼやかないでください。任務中です」

「そうは言ってもよ。これ俺達の任務じゃなかったよな? 」

「ええ。しかし嘔吐騎士団、もとい王都騎士団が役に立たない以上、我々がやるしかありませんので」


 町中をしのべていないおしのび貴族の姿で二人の男女が町を歩いていた。

 一人は屈強くっきょうな肉体を持つ男性でケイロンの兄の一人、ケルマ・ドラグである。

 正確に言うと彼はすでに男爵位をて独立した貴族となっているのでハルブ男爵ケルマ・ドラグと表記ひょうきするのが正しいのだろうが。

 その隣を歩くりんとした雰囲気ふんいきかもし出している女性は第三騎士団の副隊長である。


 周りの人達は彼らが単なる貴族でない事は気付いているが何も話さない。

 何故ならば帯剣たいけんしているからだ。

 それだけで巡回じゅんかい中なことが分かる。下手へたなことして目を付けられるよりも知らぬ、ぞんぜぬをしたほうがよっぽどいい。


「しっかしよぉ。ゲロ騎士の話は本当なのか? 」

「ええ。さらわれた者の中に親戚がおりその子から聞いた話です。まず間違いないかと」

「マジか……。だが俺の所まで話が回るとなると……」

「ええ、他の所にもすでに話が回っているかと」


 ケルマは情報通ではない。

 相手の戦闘力を分析したり指揮したりするのは得意だがこういった、所謂いわゆる世間話的な噂話的な話にはかなりうとい。

 そのケルマまで話が回ってきているのだ。

 人の口に門戸もんどは立てられぬとはこのことで結局の所、緘口令かんこうれいいてもせいぜい市井しいに出回らないようにするのがせいいっぱいである。


「ま、考えても仕方ねぇ。任務ぞっ「隊長、私あれが欲しいです」……」


 その瞳の先には珍しいブローチのような物があった。

 いつもはこのような事を言わない副官の言葉に「珍しい」と思いながらも「祭りだしな」と能天気のうてんきにケルマはふところから財布を出し一つお買い上げをし任務に戻るのであった。

 さて、彼らが結婚するのはいつになるのやら。

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