第百四十二話 討伐依頼と精霊剣の検証 二

「エルベル、すまんが」

「任せろ。風の精霊よ」


 まずは感知に引っかかたのが何か確認だ。

 今の俺では風探知は出来ない。

 アクアディア家の時は精霊自身が風の小精霊を送り、それをふーちゃん補助の元で伝令を聞いていたので疑似ぎじ的に風の精霊魔法が使えていた。しかし今は補助もなく、練習しているわけでもないので探知はエルベル任せとなる。


「少し足が速いな。ゴブリンじゃないぞ? 」

「数は? 」

「これも数十だ」


 それを聞き剣を構え前を向く。

 足が速い、か。ならば……。


軽量化ウェイト・ダウン移動速度上昇スピード・アップ


 通常の魔法で体を軽くし速度を上げた。

 ザッ、ザッ、ザッ……と足音が聞こえてくる。


「いつも通りで行こう。まず一撃かましてやれ」

「もちろん。一撃で終わらせてもいいんだよな? 」

「数十いるなら終わらないと思うが、終わらせれるならそれでいい」

「よっしゃ! なら行くぞ! 」


 エルベルが気合いを入れて集中しながら迫りくる足音に向かって風の矢を放った。


 ドゴン! と毎回おなじみの大きな音を出しながらも相手はいくらかけずれたようだ。

 その生き残りが姿をあらわうなる。


「シルバー・ウルフ……にしては大きいなっ! 」


 エルベルの一撃を見ても引かないシルバー・ウルフ達のうち数体がこちらに食らいつこうときばを向けてきた。

 しかしそれを危なげなくよけ、カウンターの一撃。

 すぐに剣を体に戻し俺を抜けようとするほかを連撃でほうむっていく。

 まだまだ余裕があるな、と思っていると後ろから援護射撃が。


 ドン!


 俺の前のシルバー・ウルフがまた数体ほうむられていく。

 

 ドン! ドン! ドン!


 シルバー・ウルフ達はエルベルの連射を食らい次々と命を落としていく。

 俺はそこから逃れようとするシルバー・ウルフをつぶしてくのであった。


 ★


「中々の数だったな」

主導者リーダーもいたようだがそこまで強いという感じは受けなかった」


 俺とエルベルがそれぞれ素材を採り燃やし鎮火ちんかする。

 それに小袋アイテムバックのおかげでいくらでも討伐した素材が入る。

 中々大量。


「まだやるか? 」

「そうだな。もう少し間引まびいてから帰るか」


 あんにやりりないというエルベルにもう少しだけ付き合っても大丈夫だろうと考え方針を決定。

 いつもエルベルがこのくらい真面目だったらいいのに……。

 ありえない未来を想像しては、落ち込む。

 バジルに帰ったら狂乱きょうらんの日々か、はは。

 はぁ……笑えない。


「どうした? 」

「いや、何でも」


 俺の方を不思議そうに上からのぞき込むが俺の心中しんちゅうまではさっしてくれないようだ。

 エルベルは怪訝けげんな顔をしながらもかがんでいた俺に手を差し出して、俺が取り、立ち上がった。

 ああ、いつも大変な目に合っている分エルベルのやさしさが心にしみる。


「せっかくだ。風の精霊魔法をおぼえながらやるというのはどうだ? 」

「いや、一朝一夕いっちょういっせきじゃ無理だろう」

「オレは加護を受けた次の日には出来たぞ? 」


 この天才はだめが!!!


「それにデリクは風の、ンンッ!! 、精霊さ、ンッ! 、まの補助を受けながらだけど出来たんだろう? なら少しやれば出来るんじゃないか? 」

「あ、ああぁ……。まぁ、やってはみるけれど……」


 どこか湿しめこもった声で提案ていあんした。

 どうやら、彼女に少し変態性が戻って来たようだ。いつものエルベルにい戻りつつある。

 俺は若干引きながらもやってみる価値はあると考え練習をしながら討伐していくのであった。


 結局の所大量のゴブリンやシルバー・ウルフ、フォレスト・ウルフを討伐したと同時に風の精霊魔法をおぼえることが出来た。

 本当に一歩をみ出したというレベルだが。


 ★


 昼下ひるさがり依頼も終え俺達はギルドへ向かっていた。

 大量の素材をそのまま持ち歩かなくていいのは本当に助かる。

 アイテムバックをくれたジルコニフ様には感謝だな。

「しっかしにぎわってるな」

「そうだな。来た時よりもにぎわっているな! 」


 俺とエルベルは南門から入ったが日に日に増していくにぎわいように驚いていた。

 南門と言えば商業とはあまり関係のない方角ほうがくである。

 どちらかと言うと冒険者ギルドの討伐依頼を受けた冒険者が通ったり他の町から来た人が通ったりするだけで、いつもはそこまでにぎわっていないらしい。


「あっちに屋台やたいがあるぞ? 」

「お、何か食ってくか! 」

「先にギルドだ。素材を早めに渡さないと」

「えーけちんぼ。ちょっとくらいいいじゃないか……」

「そう言うな。鮮度せんどが一番だ。帰りにるから我慢してくれ」


 ちぇぇーと言うエルベルを引き連れ俺達はそのまま冒険者ギルドへと向かった。


「ありがとうございます。こちらが討伐報酬となります」

「こちらこそ」


 そう言いながら目の前に置かれた小袋こぶくろ収納しゅうのうする。

 若干受付嬢が表情を強張こわばらせていたがきっと気のせいだろう。


 いつもここにいる受付嬢の一人アルビナは今日はお休みなようだ。ここに座っていない。

 何人かいつもと違うメンバーの様だが気にすることでもないだろう。

ささっと帰ろうとすると奥から男性の、聞き覚えのある声がした。


「お? お前さん達じゃねぇか」

「……エルベル、帰るぞ」

「おい、こら、無視するな」


 嫌だ。絶対面倒なことになる!

 振り向かない! 俺は振り向かないぞ!


「こいつ誰だ? 」

「俺はケリーってんだ。お嬢さんは? 」

「オレは種族の輪サークルのエルベルだ!!! 」


 この! 俺が無視をめて帰ろうとしたのに。


「そうか、そうか。アンデリックの仲間だな」

「そうとも! 」


 仕方がない、と思い振り向き階段から降りて近寄ちかよってくるケリーさんを見た。

 カツカツと音を立てながら下りてくる。

 今日は戦闘服ではなくてスーツのようだ。


「お、早速依頼を受けたんだな」

「ええ。受けました。受けましたとも」

「なんだ、不満ふまんか? いいり時なのによ」

「多すぎでしょう」


 俺達の前まで来ると受けた依頼とその数を受付嬢から受け取った紙で確認し満足げに言った。

 目線を紙から俺達に移しながらも口を開く。


「確かに多いな。だがまぁ驚くほどじゃねぇな」

「……普通この数にかこまれたら一瞬で終わると思うのですが。入りたての冒険者は」

「それが分かってるから他の奴らは商人達の方の依頼を受けたんだと思うが」

「一応俺達も初心者なのですが」

「俺に傷をつける段階で「普通の初心者」じゃねぇよ。むしろ今のランクがおかしいくらいだ」

「そうなのか? 」

「ああ。だが、まぁ恐らく盗賊の討伐や商人の護衛依頼の達成数が少ないのが原因じゃねぇか、と俺は推察すいさつするがね」

「じゃ、明日から他の依頼……」


 他の依頼を受けるために依頼ボードの方へ行こうとすると、がっしりと屈強くっきょうな腕でホールドされてしまった。


「まぁそんなこと言うなや。誕生祭たんじょうさいあいだだけでいいんだからよ。南の森を回ってくれねぇか? 」

「嫌ですよ! 俺達だって誕生祭たんじょうさいを楽しみたい! 」

「もちろんタダでとは言わねぇ」

「Dランク冒険者に指名依頼は出来ないはずです! 嫌です! やりたくない!!! 」


 必死になって振りほどこうとするが振りほどけない。

 エルベル。何面白いものを見るような目でこっちを見ているんだ!

 お前も被害にあうんだぞ! 助けてくれ!


「『重ね』と『乱れ』、この武技を叩きこんでやる。それが交換条件だ」

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