第百四十一話 討伐依頼と精霊剣の検証 一

「「身体強化」」


 俺は今エルベルと共に南の森の前にいる。

 先日脅迫きょうはくめいた、命令のような討伐依頼を受けてゴブリンやウルフ等の数を減らしに来ているのだ。

 スミナにも声をかけたが今は作業中との事。

 俺の靴に刻印こくいんをしてくれているようである。ありがたい。


 なので今の俺の装備そうびは茶色いかわ製レーザーアーマーとグローブに今までの靴と呪われた長剣ロングソードである。


「エルベル、準備は出来たか? 」

「もちろんだ! 」


 今日も元気いっぱいエルベルは凶器きょうきにもなりるそのメロンをたゆませながらいつもの服——黒のパンストにホットパンツ黒のインナーに緑のジャケット、そして茶色い厚手あつでのグローブにかわのロングブーツを身にまとっている。


 お互いに準備ができているか確認して森の中へ。

 いつもと同じく木々のあいだから光がしこみ俺達を照らしている。


「! 来るぞ! 」

「先手必勝! 」


 エルベルが気合いのこもった一言で精霊弓をうならせた。


 ドゴン!!!


 と、前から音がするも俺は前衛らしく剣をたずさえながら強化された体を走らせる。

 足元にはもはや息の無いゴブリンが散らばっていた。

 それを無視して更に前に行く。


主導者リーダーか! だがっ! 」


 ゴブリン・リーダーと思われる、指示を飛ばすような身振みぶりりをする、一際ひときわ大きな個体を見つけた。

 命令を受けたゴブリン達は持っている棍棒こんぼうをこちらに向け正面から降りかかる。

 だがそれも先読みを使うまでもなく斬撃で切りつけ絶命させた。

 

 が、両側面から剣を持つゴブリン――ゴブリン・ソルジャーが切りつけてくる。


「甘い! 回転切り!!! 」

「「「Gaaa!!! 」」」


 両側面から襲ってきたゴブリン達は一同上半身と下半身が分かれらかした。

 予想外だったのかそれを見てゴブリン・リーダーは驚きと共に後退り逃げようとするが――


「ハハハ! 最後はもらったぁ! 」


 エルベルの風の矢を受けて絶命した。


「なるほど。グレーゾーンをついてまで俺達に討伐に行けと言う理由が分かった気がした」


 一先ひとまず各ゴブリンの討伐証明部位と魔石を取り出しそうつぶやく。

 意外にもエルベルが手伝ってくれた。

 いつも手伝ってくれるとうれしいのに、と思いながらも燃やしつくくし鎮火ちんかさせる。


「どういうことだ? 」

「俺達はこの森に入って深いところまで来ていないのにこの数だ。まだまだ奥にいるだろう。たかがゴブリンと思っていると痛い目を見そうだ」

「王都の冒険者は何やってんだ」

「騎士団も間引まびようだから騎士団分の負担といつも討伐しに行っている面々めんめんが他の依頼に行っている事、これらがかさなって今の状況だろうな」


 そう説明しエルベルの方を少し見上げる。

 すると少し不思議そうに俺の腰あたりを見ていた。

 目線の先には俺の剣があるが、どうしたのだろうか。

 彼女を少し見上げる形でたずねた。


「……どうした? 」

「その剣」

「この呪われた剣か? 」

「もしかしてオレの武器と同じじゃないのか? 」

「ん~どうだろうか」


 使っている時に少しばかし光るような感じを受ける瞬間があった。

 光球ライトとはまた違う光だ。

 だがそれもずっと続くわけでもなく瞬間的に途切とぎ途切とぎれだったから気にしなかったが、精霊弓を使っているエルベルに言われると確かにと思うところはある。


「オレの精霊弓は風の小精霊を受けるように作られている、と長老から聞いたんだが」

「何も感じないよな……」


 やっぱり呪いの剣じゃないだろうか、と思えてきた。

 予想よりも『切る』ことが出来たので満足まんぞくではあるが。

 店主がいう程切れない事もなく武技を使えば十分にカバーできるレベルだ。


「その剣に小精霊をまとわせてみたらどうだ? 」

まとわせる? 」

「ほら、オレがいつもやってるだろ? いらずの弓って感じで」


 そう言うと実演じつえんするように精霊弓を構えていつものように精霊魔法を使う。

 弓に光——小精霊が集まったと思うとそれを放ちドゴン! バキバキ!!! と言う音と共に森林破壊をした。


「……やりぎ」

「すまん。だがそれもまとわせれるんじゃないか? ほら」


 そう言い精霊弓の一部を指す。

 そこには一つの文字がられていた。


「これ、その剣にもられてるじゃないか」


 指摘してきされ剣の根本ねもとの部分を見るとエルベルの弓と同じ刻印こくいんがされていた。

 それに気付き「あ……」と声がれる。


「確かに似ている」

「だろ? 」

たんなる刻印こくいん魔法の一種かと思った」

「聞かなかったのか? 」

「……全然」

「デリクはダメダメだな!!! アハハ」

「エルベルにだけは言われたくなかった……」


 胸をり、そして大笑いするエルベル。

 これだけは彼女に言われたくなかったが、言われても仕方ない事でもある。

 不本意だが、認めよう。


「だが……なんで七つもりがあるんだ? 」


 俺が剣を横回転させながら呟くとエルベルから予想外の言葉が飛んできた。


「基礎七属性の精霊様を宿やどすためじゃないのか? 」

「……そんなにいるのか? 」

「なんだ知らないのか? いいだろう、教えてしんぜよう! 」


 そう言いながらエルベルは説明しだした。

 つまるところ神々の代行者で世界の調節者ちょうせつしゃである七人の精霊王になぞらえて基礎七属性と言っているようだ。


「属性は火・水・土・風・光・闇・時だな。デリクの先読みとかは時になる! 」

「なるほど」

「確か元素四精霊様から加護を受けたんだよな」

「そうだが」

「なら試しに集めてみようぜ! 」

「この刻印こくいんにか? 」

「そうだ! 物は試し! やってみよう! 」


 そう言い目をギランギランにかがやかせながら顔を近づけ接近するエルベル。

 精霊の事になると目をかがやかせるのはいつもの事だが今日はまたいつもに増してかがやいている。

 ま、やってみないとわからないのは確かだ。

 剣を手に取り一先ひとまず小精霊を――ちょっと待て。


「元素四精霊の小精霊を集めるってどうすればいいんだ? 俺は時の精霊しか集めたことないぞ? 」

「なら風からやると一番いいのかもな」

「何でだ? 」

「周りにいるからだ。一番難しいのは確か火とか書いてたな」


 何にだよ、とツッコミを入れながらも剣に目を落とす。

 そして再度エルベルに目を向けた。


「……で、どうしたら? 」

「こうだ、こう! こう~きゅぅぅっとやって、ばっと感じで! 」

「分かるか!!! 」


 やり方を体で表現したのだろう。一回体を丸めてぎゅってしたらばっと大の字に体を開けた。

 感覚的過ぎてわからない。

 この説明でわかる奴がいたら教えてくれ。


 そう思いながら感覚をつかもうとするといつのにか広がっている気配感知範囲に何か引っかかった。

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