第百三十九話 武器屋探し 二

「お前さん達ここで何してるんだ? 」

「俺達は武器を買いに。ケリーさんは……どうしてここに? 」

「俺か? 俺も武器だ」

「「ケリーさんが武器を??? 」」


 職員であるケリーさんが武器を買いに来るとはどういうことだろうか。

 壊れた武器の補給ほきゅうか? いや壊武器の補給ほきゅうの線もあるな。


「お前さん達失礼なことを考えてないか? 」

「「いえ、そんなことは御座ございません!!! 」」


 さっしのいい人だ。

 てっきり脳筋のうきんかと思えばかんするどさもあなどれない。

 いやこの人一応職員だったな。脳筋のうきんなだけなはずがないか。


「で、なんで武器を買いに行っているのですか? 」

「武器が壊れたからに決まってるだろ? 」

「いやいや、ケリーさん。職員じゃなかったのですか? 」

「職員だが今冒険者の人手が足りてないんだ。だから課長に行ってこいって言われて周りのモンスターを狩ってたんだ」

「……ケリーさん。部長でしょう? 」

「課長が「お前ほど頑丈がんじょうな奴はいない。まんが一を考えてお前がいけ」ってな。ハハハ、他の冒険者はモンスターよりも店の護衛や手伝いに行ってるのによ。なんで引退した俺が……」

「「ご愁傷しゅうしょうさまです」」


 から笑いしながら途中から一人の世界に入ったケリーさんは少し怖かった。

 そうか、人手が足りていないのか。


 ギルドにられた依頼は基本的にランクに応じれば自由に受けれる。

 恐らく王都が一時的に活気かっきづいたおかげで護衛や手伝いと言った依頼を商人達が割高わりだか沢山たくさんりだし、そして冒険者達は危険性の高いモンスター討伐よりも低い依頼を選んだのだろう。

 自由、とはいえ中々にきびしい現状だ。


「でもギルド職員が出る程に足りてないんですか? 俺達はバジルの町から来ましたけど多少抜けたくらいで影響が出るような少なさには見えませんでしたが」

「確かにアンの言う通りだな。依頼の数もそうだが冒険者の数もかなりいたはずだ」

「一時的な依頼の急増だ。予想よりもはるかに多い。外から来た商人はそのまま継続けいぞくして、ギルドを一回通して、再度指名依頼している。だが他はどうだ? 」

「と言うと? 」

もとからこの王都にいる商人や他の職業の奴らがどんどんと依頼を出してくる。それを今まで薬草採取やゴブリン退治をしていたやつが受けてそっちが回ってねぇんだ」


 薬草採取やゴブリン退治のような危険性を伴う依頼よりもより割高わりだかで安全性の高い他の低ランク依頼を受けたってことか。

 そう考えながら王都を歩く。

 

「それで俺達がり出されたってわけだ。で、この前南の森に行った時運悪くジャイアント・ポイズン・スパイダーに出くわしてな。倒すのはよかったんだが運悪くグローブが溶かされちまった」


 なんで体の方が頑丈がんじょうなんですか……。

 防具、いりますか?


阿保あほう、いるに決まってるだろ? 刻印こくいん魔法付きのお気に入りだったのによぉ。しかも自腹じばらとは。せめて経費けいひで落ちて欲しかった……」

「それで買い替え、ですか」

「そんなところだ。そう言えばお前さん達最近見てないがちゃんと仕事してるか? 」

「やってますよ……。武器を壊すほどには。ケリーさんは行くところ決まっているんですか? 」

「ああ。人気はあまりねぇが行きつけに行くところだ。ついてくるか? 」

「いいんですか? 」

「いいって、いいって。こっちだ」


 手招てまねきするケリーさんの後ろをこれさいわいとついて行った。


 ★


「おいクソオヤジ。生きてっか! 」

「クソオヤジとは何だ、クソオヤジとは!!! 」


 後をついて行くと一軒いっけんの武器屋に辿たどり着いた。

 だがこれは武器屋と言うよりかは工房こうぼうそのものを無理やり店にしている感じだ。

 そして中に入るやいなやケリーさんが暴言ぼうげんいた。

 かなりの大声で叫んだおかげか空っぽの店の奥にあるとびらの向こう側から一人の魔族の男が怒声どせいを上げながらやってくる。

 彼が店主なのだろうか。他に人が見当たらない。


「ケリーこそ生きてたのか。冒険者やってんならグローブの整備くらいきやがれ! 」

「今冒険者してねぇんだよ。さっしろこの野郎! 」

「あ“。冒険者やってねぇ? ならお前今何やってんだ? 盗賊か? 盗賊に売る武器なんてねぇぞ! 」

「ギルドの職員だ! 冒険者ギルドの職員!!! あれから一体何十年ってんだと思ってんだよ! 耄碌もうろくしたか? 」

「馬鹿言え、お前と違ってまだまだ現役だ!!! 」


 確かにケリーさんを見て冒険者から転職と言われれば盗賊か山賊を思い浮かべる。なるほど、納得だ。

しかしおさまる気配がない。

 仕方がないということで喧嘩腰けんかごしで話し合う二人を俺とスミナはおさまるまで見ていた。

 空気になった気分だ。


「で、そっちの餓鬼ガキは何だ? お前の子供か? 」

「どう見ても魔族の面影おもかげがないだろ! 冒険者だ! 客を連れてきたんだよ!!! 」


 おおっと、いきなりこっちに話が飛んできたと思ったらケリーさんの子供になってしまった。

 ケリーさんは否定してくれたがあのムキムキと同じように見えたのならその眼は節穴ふしあなだろう。


「冒険者のアンデリックと申します」

「同じくスミナだ! 」

「見た所け出しっぽいが……」

「冒険者初めて二か月ほどになります」

「やはりか。まだまだ青さを感じるな」


 品定しなさだめをするように店主が黒い瞳で見つめる。

 そして俺の腰の長剣ロングソードに目がまった。


「ちょっと見せな」


 そう言われ腰からさやごと剣をとり店主のもとへ行って渡す。

 一本角の店主は剣を抜きまじまじと見ていた。


「これを作った奴は……相当だな。だが、どんな奴を相手にすりゃぁ壊れる一歩手前まで行くんだ? ケリーでもぶった切ろうとしたか? やめとけ、やめとけ。不意打ちでもこいつはきれねぇ」

「え? 俺か?! 俺が原因なのか!!! 」


 あわてるケリーさんの横目よこめにスミナの方を見るとドルゴさんの事をめられ少しうれしそうだ。平常心へいじょうしんたもっているのだろうが顔が少しにやけている。隠しきれてない。


 あの事件の事はあまり口に出さないように王都騎士団から言われていた。 

 無実むじつの罪ではあるが、ケリーさんを切ろうとしたのも事実。

 ここは何もかたらず黙秘もくひしよう。

 時には何も言わないことが身を護る事もあるのだ。


「……この剣に代わる長剣ロングソードとなると少々きびしいが、まぁ見てみてくれ」


 首でくいっと武器の方を指して選ぶようにうながされた。

 どうやらまた喧嘩けんかのようなやり取りを始めたようだ。怒声どせいが聞こえてくる。

 俺とスミナが長剣ロングソードがある方へ行きそれぞれあさる。

 他の店とくらべてられているラベルの数字がおとくだった。

 ありがたい。


「これなんかどうだ? 」


 渡された剣を手に取り違う方向を向いて軽く振ってみる。

 だがどこか違う気がする。

 そして他の剣も見て周るがどこかしっくりとこない。

 どうしたものかと考えているとすみほうさやに収まった一本の剣を発見した。


「これは……」

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