第百三十八話 武器屋探し 一

 翌日朝、俺とスミナは王都の武器屋へ来ていた。

 アクアディア家の屋敷やしきで言っていた武器の件だ。

 俺の長剣ロングソードは奇跡的にも形をたもっているがいつ壊れるかわからないらしい。

 よってこうして足を運んでいるんだが……


「たけぇ」

「王都ならこんなもんだろ」


 ここは商業区の一角いっかくにある一般的な武器屋。

 高級武器店ではないはずなんだが、と思い周りを見まわす。

 長剣ロングソードハンマー細剣レイピアに盾等『ドルゴ』にあった物とあまり変わりない。

 冒険者と思われる人もちらほら見かける。

 ならばやはり王都では一般的な店なのだろう。


 長剣ロングソードのある方へ足を向け、品物しなものを手に取る。


「品質は……どうなんだろうか? 」

「おいおい、大丈夫か? 」

「最初はドルゴさんの所で買ったし、品質と言われても……」


 今まである物を使っていたので品質の鑑定などやったことがない。

 それに村を出るまでは長剣ロングソードほとんど手に取ったことがないのだ。

 少々言いわけがましいが今までの状況を説明するとスミナが「はぁ」と溜息ためいきをつきながら鑑定してくれた。


「……悪くはない」

「やっぱりバジルに戻ってドルゴさんの所に買いに行った方がいいのだろうか? 」

「買うか買わないかは任せるぜ」


 そう言い残しスミナは他の武器を見に行った。

 手に持つ剣を軽く振ってみるが何か違うような気がする。

 馴染なじまない……。

 他の店に行った方がいいのか?

 ここで決めなければならないというわけでもないし、そうするか。


「スミナ。出よう」

「了解だ」


 盾を見ているスミナに近寄ちかより肩を叩いて合図あいずし俺達は店を出た。


 いくつか店を回ったもののこれと言った武器が見当たらない。

 高いが短剣ダガーを一本買ったくらいだ。

 流石に貴族章の短剣で戦うようなことをしたくないしな。


「そう言えば戦闘用の服はどうするんだ? 」

「……村を出たままだったな」

「俺んちは武器防具店だが防具に関してはあまり自信がないぞ? 」

「そうなのか? 」

「ああ。だから一応このあたりで買っておいた方が良いんじゃないか? 」


 そう言われると買いに行くしかあるまい。

 村に戻る時の為にたくわえをしているがよくよく考えると賠償金や礼金れいきんなんかでたまったお金。

 ここらへんで使ってもばちは当たらないだろう。


 セレスパパに聞くところによると、爵位を得たことで少ないが年金が払われるようになったようだ。

 毎年月別に払われるので毎月末が楽しみである。

 そう話しながら歩いていると一軒いっけんの防具店に辿たどり着いた。


「いらっしゃいませ」


 独特どくとくのにおいがただよう中店員の声が聞こえてきた。

 中を見ると何人かお客さんがおり、声の主とは違う店員が対応している。

 こちらに向かってくる男性店員に防具を見せて欲しいというといくつか質問が。


「戦闘スタイルはどのような感じでしょうか? 」

「剣士……のような感じです。こう、動きやすいものがいいんですが」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 そう言い店の中の商品を選んでいる。

 こちらをチラチラ見ているが恐らく大体の大きさでも観察しているのだろう。

 少ししたら選び終わったのか商品をこちらに持ってきて店のはしにある机の上にそれらを並べた。


「まずは靴を。こちらは風の靴ウィンディ・ブーツと呼ばれるものでその名の通り風のように早く移動できる一品になります。加えて様々な保護魔法が刻印こくいんされており防腐ぼうふ消臭しょうしゅう性能も発揮はっきします」

「付与されている魔法は? 」

移動速度上昇スピード・アップ軽量化ウェイト・ダウンになります」


 いくつか魔法陣のようなものが見えるが正直微妙びみょうだ。

 何せ両方とも使えるからな。

 悩んでいると次の商品を取り出す。


「次に基本的な防具です。軽いものを御所望ごしょもうとの事でしたのでかわ製のレーザーアーマーとグローブ、保護魔法付きの外套がいというになります。失礼ながら遠目とおめで大体の大きさを見繕みつくろわせていただきました。採寸さいすん微調整びちょうせい後程のちほどさせていただくとして……如何いかがでしょうか? 」


 それぞれ見て考える。

 かわ製ともあって茶色く頑丈がんじょうそうだ。

 深めの茶色をしたレーザーアーマーと比較的明るい色のグローブ。外套がいとうはその中間の色といった所だろうか。

 これらは値段からしても手が出るのだが問題は靴だ。

 正直微妙びみょうだな。


「なぁスミナ」

「なんだ? いや、大体想像つくが」

「多分想像通りだ。やってくれるか? 」

「構わねぇぜ。ならかわの靴だな」


 小さな声でやり取りして決めた。


「靴は普通の、かわ製の靴はありませんか? 」

「ありますが……少々重いと考えますが」

「構いません」


 そう言うと靴を持ってきて採寸さいすんし、合わせて計四点を買って外に出た。


「流石に自分で使える魔法を刻印こくいんした靴をく気にはなれないな。確かに魔力の温存にはなるが」

「ハハハ。ま、こっちは任せておけ。むしろワタシはこっちの方が本職だ」

「いつも戦闘ばっかだったからな」

「ああ、店員が言ってた魔法は刻印こくいんしたことがあるから大丈夫だろう。やり終えるまで今までの靴で我慢してくれや」

「おう。頼んだ」


 そう言いながら商業区を行く。

 今は再度長剣ロングソードを探している所だ。

 高い物をと考えると高級武器店に行くのがいいのだろう。

 だが懐事情ふところじじょうを考えるとそうはいかない。


「しっかしエカが言っていたのもうなずけるな」

「この前言ってた男前おとこまえか? 」

「ああ。王都はこれと言った特産がないって話だ」

「なんかそんなこと言ってたな」

「今は他の国から来ている行商人でにぎわっているけどこの王都に腰を下ろしている武器防具店を見るとパッとしない。たんに高いだけだ」

「……それ、父ちゃんの店にも刺さるんだが」

「いやいや、王都を基準きじゅんに考えるとかなり高い品質なんじゃないか? 」


 歩きまわりを見て武器屋を探しながらスミナに聞いてみる。

 正直品物の良し悪しはわからない。

 だが、スミナの長剣ロングソードを見た時の微妙びみょうな表情を見るとそう思わざるをない。


「ま、確かに父ちゃんの腕は最高だ」

「やっぱりか」

「あれでも親方だからな」

「親方だとなにか違うのか? 」

「ま、工房とか弟子をとれる肩書かたがきみたいなもんだ。多分だが王都の武器屋は他から運んできているのか自分達で作っているのか分からねぇが、一般的の上を行ってねぇ」

辛辣しんらつだなぁ」

「親方ともあろうものがオンリーワン、店の看板かんばん商品を作れねぇのは問題だぜ? 」


 正直武器屋事情じじょうを知らない俺からすれば横で熱弁ねつべんしているスミナの話の半分もわからない。

 だが看板かんばん商品と言うのが作れないのは店としての目玉めだまがない事になる。

 なるほど、確かに問題だ。


「ん? あれは……」

「げっ! 」


 俺の声にスミナも話を止め目線の方を向いた。

 すると向こう側にタンクトップを着た見覚みおぼえのある男性が。

 俺達の声に気付いたのかこちらに近付き声をかけてくる。


「げ、とはなんだ。げ、とは! 」

「「ケリーさん」」


 こちらに向かってきたのは恐怖の代名詞だいめいしこと冒険者ギルド職員のケリーさんだった。

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