第百三十七話 アンデリック達の帰路とアース公爵家のパーティー

「「「お世話になりました!!! 」」」

「またいらしてください」

「次はアクアディアで会おう、アンデリック少年」


 翌日俺とスミナそしてエルベルの三人はアクアディア家の人達に見送られながら別荘べっそうを後にした。

 公爵家の屋敷やしきを通りぎながら俺達は貴族街から中央通りを抜けるルートで宿へ向かっていた。


「にしても凄い屋敷やしきだったな」

「ああ、まさかあそこまでとは思わなかったぜ」

「最初はたんに風呂に入りに行っただけなんだがな」


 少し遠い目をしながら俺とスミナは帰り道を行く。

 いい思い出になりはしたもののそれ以上に問題も起こった。

 それを考えると全てが全てよかったとは言えない。


「結局あのお風呂はどうなってたんだろう? 」

「多分刻印こくいん魔法だろうな」

刻印こくいん魔法? 」

「ああ。アンの話、と言うよりも精霊達の話を信じるならその精霊術師エレメンターは鍛冶系の人族だったんだろうよ。精霊達がお風呂の維持いじ関与かんよしていないのが証拠しょうこだ」

維持いじ関与かんよしているなら常時じょうじアクアディア家に精霊術師エレメンターが必要になるってことか」

「そう言うことだ。で、精霊魔法エレメントで形を作り刻印こくいん魔法で大規模水生成マス・ウォーター排水ディスチャージ温度調節コントロール・テンプとか諸々もろもろ浴槽よくそう自体に書き込んだんだ、と思うんだが」

「だが劣化れっかしないか? 」

「そこは保護魔法だろう。保護魔法だけ定期的にかけ直していると思うぜ」


 なるほど、とうなずきながら目をスミナから前に移して先に進む。

 歩いて行くとどんどんと人の数が増えていく。

 貴族街から抜けた影響だろう。


「そろそろ機嫌を戻したらどうだ? 」

「だってうるわしき精霊様が……」

「アクアディア家に世話になる前に戻るだけじゃないか。何を落ち込んでんだよ」

「ああ……オレの桃源郷とうげんきょうが……」


 エルベルがそう言い振り向いてアクアディア家の屋敷やしきほうを見た。

 あの後、つまり精霊ワンがてんされたと思った後精霊ワンは他の精霊に緊急伝令でんれいをしたようだ。


 屋敷やしきの中に変態エルフがおり危険だ、と。


 もとよりこのアクアディア家の屋敷やしき周辺変態エルフが出没しゅつぼつすることは報告されていたらしい。

 時折ときおり外に出た精霊が餌食えじきにあったり、逆に龍脈りゅうみゃくにつられてやってきた精霊の一部がその被害をくぐり抜けアクアディア家の屋敷やしきへ来たこともあるようだ。

 それもありのほほーんとしていた精霊達の警戒心が一気いっきに急上昇。

 全員出来るだけ気配を消してエルベルがいなくなるのを待ったようだ。


「好きな相手に危険人物あつかいされるのは確かに心に来るものがあると思うが」

「今回は完全に自業自得じごうじとくだな」

「うう……」


 屋敷やしきから目を戻し帰り道の方へ向いた。

 そして再度歩き出し、宿『精霊の宿木やどりぎ』へ戻るのであった。


 ★


 その日のばん

 アース公爵家の屋敷やしき


「アース公爵閣下。今宵こよいはお呼びいただきありがとうございます」

「ドラグ伯も元気そうで」

「はは、前線にいる訳ではないので数日程度で倒れはしませんよ」

「文官も武官も体が一番。健康ならばなによりだ。大事にされよ」

「もちろんですとも」


 ここでははなやかなパーティーが行われていた。


 アンデリック達が入った部屋とはまた別の部屋。

 パーティー等のもよおし事をするさいに使用されるとびらを開放し、使っている。

 ここにはアース公爵を筆頭ひっとうに彼を中心とした派閥はばつのパーティーが開かれている。

 そこには中でも最もアース公爵に近いドラグ伯爵やアクアディア子爵、そしてその子息子女がいた。


「アース公爵閣下には先日娘がお世話になったようで」

「セレスティナ嬢は随分ずいぶんと成長されましたな」

「ええ、かわいいさかりではございますがしばしお転婆てんばなところがたまにきずで。もう少し落ち着いてくれるとありがたいのですが」

「まだ嫌われるよりかはましでしょう」

「確かに」

「「はは」」


 ピーターが挨拶あいさつし終わると次に立派りっぱな青くき通った角をかがやかせる水龍人、コウが話かけている。

 やんわりと連絡を取り合っている、と周りに風潮ふうちょうするコウ。

 別に威圧いあつを込めているわけではないが、もし派閥はばつ内に敵勢力せいりょくがいた場合多少の牽制けんせいにはなるだろう。


 そして主催者しゅさいしゃであるジルコニフがそれぞれの参加者をさばき、情報交換し、パーティーを終えるのであった。


 アース公爵家応接室の一つ。

 ここは応接室と言うよりかはどちらかと言うと会議室のような雰囲気ふんいきを出している。

 それもそのはず、ここにいるのはジルコニフ、ピーター、コウ等重鎮じゅうちん達がそろっているからだ。


「今年は王子殿下でんかの十五の誕生祭たんじょうさい。まさかこの規模きぼの事件が起ころうとは」

「なにやらおしのびで外出していたところを使用人共々ともどもさらわれたとか」

「慣れ具合ぐあい尋常じんじょうじゃねぇな。どこぞの大物賞金首か? 」


 誰かがつぶやいたことに反応し各々が考えを出す。

 今この国を左右する重大事件について話し合っていた。

 そう。リン・カイゼル王女誘拐ゆうかい事件だ。

 王女のインパクトが大きすぎて他多数の貴族がさらわれたことが話に上がっていない。


「早めに解決かいけつできたのは僥倖ぎょうこうだ。つかまっていた時間もそう長くない」

「加えて緘口令かんこうれいかれている。大きな外交的案件あんけんだが獣王国も表立おもてだって非難ひなんする様子は見られない」

「ああ。いざと言う時は――俺が動くしかない。こういった時にいるんだ」


 ジルコニフに続きピーターそしてコウが口を開く。

 その言葉に全員が「「「おお」」」と感動したような、頼りになると言った感嘆かんたん声を上げた。


「コウ殿がそう言ってくれるのはありがたい」

「我々も負けてられませんな」

「ああ。そうだな。そう言えばどなたが事件を解決されたので? やはりドラグ伯の次男殿の第三騎士団かな? 」


 その言葉にピーターは首を横に振り、口を開いた。


「解決したのはセグ騎士爵がひきいる種族の輪サークルと言う冒険者パーティーだ」

「セグ? はて、聞いたことのない家名ですな」

「ああ、この前爵位を持ったばかりだからな。ちなみに俺とピーターが後ろ盾だ」

「コウ殿。私も、ですよ」


 いぶかしめな表情から一転いってん納得なっとく好奇こうきの表情を浮かべる面々めんめん

 

「なんとお三方さんかたのお墨付すみつきとな! 」

「ならば解決したのもうなずける」


 首を縦に振りながらも少しの嫉妬しっとめたたえる。


「解決したのがこちらの陣営じんえいの者でよかったと見るべきか、はたまた起きて欲しくないことが起きてしまったことをなげくべきか」

「結果的に治まったものの、さてこの先が不安だな」

「起きてしまったものは仕方ない。これから先を考えよう」


 こうして今後の立ち回りを再確認する、通称『穏健派』と呼ばれるアース公爵家派閥はばつの者達であった。

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