第百三十五話 王都アクアディア子爵家にようこそ! 七 ミッション メンバーに精霊を紹介せよ 三

見違みちがえたぞ?! 別人だ」

「ひどっ! そこまで変わってないよ! 」

「いえ、ケイロン。今回ばかりは同意できませんね。どうしたのですか? そのドレス」


 正直な感想を言うと俺の方を向き抗議するもセレスも同意見のようだ。

 多数決で負けてしまったケイロンは項垂うなだれ、少しすると顔を上げ口を開いた。


「母上が社交界デビューだからって気合きあいを入れてこの服を選んだんだ」

「へぇ。でも似合にあってるじゃないか」

「似合ってかな? 僕にしては少しずかしいんだけど」

「いつもとイメージが違って新鮮しんせんだが黒い髪と赤いドレス。うん、似合にあってる」

「そっか。へへへ」


 率直そっちょくな意見を言うとれるような仕草しぐさをしている。

 セレスの部屋をまるで自分の勝手知ったる部屋のように移動して姿見すがたみの前まで行きクルリと周りながら再度自分の姿をチェックしていた。

 決して露出ろしゅつの多いドレスではない。前にセレスが来ていた物と同じ程度だ。だがふかめの色が白い肌を際立きわだたせている。眼福がんぷく眼福がんぷく


「そう言えばどうしてここにデリクがいるのかな? 」


 ドレスのチェックが終わりこちらを見ると何やら不穏ふおん雰囲気ふんいきただよわせながら聞いて来た。


「そうです! 精霊です!!! 」

「精霊? 」

「ええ。何でも紹介したいとか」


 そうだった。本格的ほんかくてきな話をする前にケイロンが来たんだった。

 どうせだ。同時に紹介しよう。

 そう決意けついするとまどの方を向き今か今かとこちらをのぞいている精霊達を呼ぶ。


『貴方のハートにドキュンと一発! 火の精霊ことひーちゃんよ! 』

『いつかいつかとまくららし、貴方を待つこと約百年! 水の精霊ことみーちゃんです! 』

『穴があったら入りたい。そんな貴方に朗報ろうほうよ。このつぼを買えばずかしさなんていらないわ! 土の精霊、つっちー! 』

『誰が呼んだかこの私。風のうわさでやってきたヒロイン! ふーちゃん十八歳です! 』

『『『おいおい! 』』』

「だからキャラを統一とういつしろ!!! 」


 ブレブレなキャラに毎回ことなる自己紹介。

 多分あれだ。そののノリで生きている感じの精霊だ。

 四精霊にツッコミを入れると何か怪しいものを見るような目でこちらを見ているセレスとケイロン。


「ねぇ奥さん。あそこに不審者ふしんしゃがいますわよ」

「そうだね。すくえないね」

「違うわい! 誰が不審者ふしんしゃだ! 」


 彼女達の方を向き猛烈もうれつ抗議こうぎした。

 すでに部屋のすみの方でひそひそ話をしている。

 あらぬ誤解だ。やはり精霊達を受け入れるのはまずかったか?


「はぁぁぁ。さっき元素四精霊が自己紹介したところだ。よろしくってらしい」

「え? そうなの? てっきりデリクの頭が残念なことになったのかなって」

「ええ。これは介抱かいほうするしかないと思ったのですが」


 その誤認ごにんに頭が痛くなり手をやる。

 加護を受けたメリットもあったが自身に降りかかるデメリットも多かったようだ。

 そう考えていると二人がどこかを見るように顔を動かし口を開いた。


「私はこの家の娘でセレスティナと言います。よろしくお願いしますね」

「僕はケイロン。よろしく」

『『『よろしく!!! ま、知ってたけどね! 』』』


 どうやら彼女達は昔からこの家でケイロンとセレスを盗み見していたようだ。


 ★


 一旦いったん落ち着き全員で白い机をかこんでいた。

 あまりにも高価そうな机と椅子に居心地いごこちが悪い。

 俺のそんな心情しんじょうも知らず精霊達は目の前を浮遊ふゆうしていた。


「で、どうして紹介ということになったのですか? 」

「ああ。何でもついてきたいということらしい」

「「え?!! 」」


 そういうと驚きと恐怖が混じった表情でこちらを見た。


「分かっている。エルベルの事だろ? 」

「え、ええ。それを聞くと彼女がどのような反応をするか目に見えておりますので」

「……少なくとも外に出したくない」

「俺も同感どうかんだ。だが行くと言って聞かないんだ。彼女達は俺の髪の毛に潜んでもついてくるぞ? それをエルベルが感知したら……大通りでトリップ状態だ」

「「ああ……」」


 最悪の状態を伝える。

 いや、もしかしたらこれ以上の最悪の状態もありるから最悪ではないのか。

 だが悪いには違いない。主に外聞がいぶんが。


「そこで、だ。協議きょうぎすえ、後からついてきてもらうことにした」

「それなら道中どうちゅうは大丈夫ですね」

「問題はその後だね」


 一人で行くのは怖いと言っていた精霊達。

 しかし俺についてくるならば最低限迷惑が来ないようにしてくれと頼み込んだ。

 それにより譲歩案じょうほあんとして道中どうちゅうはついて行かない事が約束された。

 本来なら途中とちゅういて逃げたかった。だがマーキングされているため場所が特定され逃げれない。


「出来る限りエルベルに感知できないように努力してもらうことにした」

「……出来るの? 」

「ああ。例えばトッキーだ。彼女は意図的いとてきにエルベルの感知外に身を隠すことが出来ていた。ならばここの精霊達が出来ない事は無いだろう」

「そうですか。ならば一先ひとまずは安心と言ったところでしょうか」


 ああ、とゆっくりとうなずいて安心させた。

 そしてセレスが何かに気付いたように俺に瞳を向ける。


「そういえば……不思議だったのですがこの家に精霊がいたのですね」

「どうやらこの屋敷やしきてられた時に連れてこられたらしい」

「誰にだろう? 」

「彼女達が加護を与えた人にらしい。どうやらこの屋敷やしきの風呂を作った人のようだが……」

「そうなのですか?! では、その彼女達がここから出ていくのはあまりよろしくないのでは? 」

「俺もそう思ったんだが話によるとあまり関係ないらしい。てた時に少し手伝って今は何もしていないとのことだ。それにこの場は精霊がたくさんいるから四人程出ていっても大丈夫だと」


 セレスの疑問に俺が真剣しんけんに答える。

 が、正直俺も半信半疑はんしんはんぎである。

 彼女達の言葉を伝えるとセレスは少し上を向き考えている。

 そして顔を俺達の方へ向け口を開いた。


「もしかしたらこの地が龍脈りゅうみゃくになっているのかもしれませんね」

「「龍脈りゅうみゃく??? 」」


 聞きなれない単語に俺とケイロンが同時に口を開いた。


「ええ。確か大和皇国の文献ぶんけんに『精霊が集まりやすい場所』や『魔力が集まりやすい場所』の事を『龍脈りゅうみゃく』と表記ひょうきしていました。もちろん遠方えんぽうの国なのでどこまで本当で、本当としてもどこまで当てはまるのかは分かりませんが」

「確かに心地ここちがいいって言ってたな」


 なるほど。だからここにたくさんの精霊が視えるのか。

 所々ところどころ小精霊のような物も視えてキラキラしていたのは見間違えじゃなかったようだ


「そう言えばさ」

「どうしたケイロン? 」

「ティナは準備をしなくてもいいの? 」

「……今からします」


 その一言を受け俺は一旦いったんセレスの部屋を出るのであった。

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