第百三十四話 王都アクアディア子爵家にようこそ! 七 ミッション メンバーに精霊を紹介せよ 二

「精霊ワン。応答おうとうせよ」

『こちら精霊ワン。現在エルフの部屋に接近中』

「了解。精霊ワンはこのまま作戦を実行じっこうせよ」

『了解』


 俺達は現在セレスの部屋に向かっていた。

 通りすがりの執事に聞くとどうやら二階にあるらしい。

 が、そこで問題が起こった。

 

 エルベルの部屋である。


 セレスの部屋へ行くにはどのルートを通ってもエルベルの部屋を通らなければならない。

 通常ならば素通すどおりしていくだろう。

 だが今回は事情じじょうことなる。

 何故なぜならば彼女の好物こうぶつ——精霊達を引き連れているからだ。


 屋敷やしき構造こうぞうはいつもひまな精霊達が俺に教えてくれた。執事に聞いたというのはそう言う事実を残すためだ。

 本来ならこのような機密きみつ行為こういずべきなのだろうが今は緊急事態である。


「まさか敵に回すとここまで厄介やっかいだとはっ! 」

『ねぇそんなにヤバいの? 』

『この前のあれを見たでしょ? ヤバいに決まってるわよ』

「……思えばエルベルと出会って二か月目に入っているが彼女の精霊に対する、もはや狂信きょうしんにも似た行動になやまされて来た」

『アンデリックも苦労したのね』

『ママがめてあげるわ』

「誰がママだ! コホン。慣れたと思った。慣れれたと思った……。そしてこれかよっ! 」

『あの子頑張がんばってるかな』

『大丈夫よ。流石に消滅しょうめつしたりしないわ』

「……お前らなぁ」


 俺はこの危機的状況の元凶げんきょうである頭の上の精霊達にあきれながらも前を向く。

 現在、通りすがりのひまで若い――エルベルにあったことのない――風の精霊に頼み込みエルベルの感知限界範囲を調べに行ってもらっている。


 さいわいにも彼女は俺達の頼みをあっさりと受けてくれ突撃とつげきした。

 その勇気ある行動に尊敬そんけいし、敬服けいふくし、敬礼けいれいし見送った。

 なお風の精霊とは風の精霊魔法に言葉を乗せて連絡を取り合っている。

 使ってみたがかなり便利だ。

 面倒事めんどうごとばかりかと思ったが風の精霊の加護も捨てたものじゃない。


『司令部。こちら精霊ワン。現在七十メル。本丸ほんまると七十メルになります。どうぞ』

「精霊ワン。ご苦労。そこから徐々じょじょに三メルずつ進み報告を」

『了解。しれ……え? 』

「どうした! 精霊ワン! 」

『な、何この変態へんたい?! え、ちょっ! 』

「精霊ワン! 精霊ワン! 応答おうとうせよ! 精霊ワン!!! 」

『なんでこの範囲で?! な……い、……いやぁぁぁぁぁぁぁ!!! 』

「精霊ワー―――ン!!! 」


 途切とぎれた連絡に絶望し、俺はひざをつき……泣いた。

 若い風の精霊こと精霊ワンは、創造神クレア―テ様のもとへ旅立ったようだ。

 

『七十メルね』

『それならいける? 』

「お前らには心がないのか! なに冷静に分析してるんだ!!! 」

『う~ん。すり抜けながらなんとか? 』

『最初からすり抜ければいいんじゃない? 外からいくとか』

『『『あっ……』』』


 ふーちゃんが最もなことを言った。

 それに気付き精霊達は外へ。

 精霊ワン。君の活躍かつやくは忘れない。


 ★


「あら、アンデリックではないですか。貴方から来るなんて珍しいですね」

「あ、ああ」

うれしい事なのですが、どうしてそんなに疲れたかをしているのですか? 」

「色々あったんだ。色々……」


 分からないと言った表情でこちらを金色の瞳をこちらに向けるセレス。

 だがふか追求ついきゅうしないようだ。

 事情を知らないけれども追及ついきゅうしないのか、さっして追及ついきゅうしないのか分からないが、ありがたい。


 中に入り彼女の部屋を見ると様々な物が置いてある。

 魔杖まじょうや剣、防具などもあるがほとんどが書物 しょもつだ。それに隠れえてぬいぐるみの手や耳のようなものが見え隠れしているが隠しきれていない。

 姿見すがたみの隣に置かれた巨大な本棚ほんだながベットまで続きみっちりとまっていた。


「凄い本の量だな」

「これはまだ王都のぶんです。本家の屋敷やしきに行くとこれの数倍はありますわよ」


 机に着き本を開けて手に持つ状態でそう言う。 

 すごい、の一言にきるが彼女の異常なまでの知識欲の一端いったん垣間かいま見たきがした。


「いつ読むんだ? この量の本」

「これは学園、正式には王立騎士魔法学園アカデミーに通っていた時ちまちまと呼んでました。学校の本は最初の三年で読み終えてしまったので屋敷やしきにある本を、と思い」


 ニコリと笑みを浮かべてそう言うが学園アカデミーの本を三年で読み終えるってどんなスピードだよ。

 速読にもほどがある。


「で、アンデリックは何かようがあったのでは? 」

「そうそう。紹介したい奴がいるんだ」


 そう言うと少しいぶかしめにまゆひそめ聞き返す。

 しめし合わせたかのようなスミナと似たような反応だ。


「相手は精霊だ」

「まぁ、精霊ですか! そう言えばこの家に精霊がいるのでしたね!!! 」


 俺が正体を言うとすぐさま本を閉じ立ち上がり興味を示す。

 エルベルとは方向性が違うがやはり似ている。

 急激に上げたテンションのまま聞いて来た。


「で、どこにいるのですか、精霊さんは! 」

「ま、まぁ落ち着け」

太古たいこより存在する彼女達はまさに知の結晶! 聞きたいことが山ほどあります。さぁ教えてください! どこに!!! 」

「落ち着けって! 沈静化の手刀クールチョップ! 」

「いてっ! 」


 グイグイと近づいてきて顔を近づけるセレスにチョップをお見舞みまいした。

 沈静化の手刀クールチョップと言ってもただのチョップだ。エルベルを落ち着かせるために少し強めに放つものだが。

 エルベルなら一発で倒れ込むのだが頭を抑えるだけのセレスを見ると痛みはあれどあまり効果はないようだ。

 流石\堅牢けんろうな龍人族と言ったところか。


「ううう、ひどいです」

「少しは落ち着いたか? 」

「ええ。おかげさまで」


 そう言うと涙目なみだめになりながらも立ち上がり再度こちらを向く。

 そして声を出そうとするとノックの音がした。


「ん? 誰でしょう? 」

「お嬢様。ケイロン・ドラグ嬢がお見えになっております」

「分かりました。今どちらに? 」

「すでにここにおりますが如何いかがいたしましょうか? 」

「入っていただきなさい」

「かしこまりました」


 セレスが入室を許可するととびらが開き一人の女性が入って来た。

 ゆっくりと歩く短めな黒髪をもち漆黒の瞳をもつ女性。身長は俺よりも一つ低いくらいだろうか。だが烈火れっかごとく赤いパーティードレスを身にまとった美しい彼女はどこかあどけない少年のような雰囲気をかもし出している。

 しかし薄化粧うすげしょうをしているのか顔は少し首下と色が違う。ほのかに赤いリップをくちびるり、こちらを見てほほを赤らめている様子を見るとやはり女性だということを再認さいにんさせられる。

 もし彼女がドレスをずこれらの化粧けしょうをしていないと少年と間違っていただろう。


「誰だ? 」

ひどいよ、デリク! 」

「……ケイロンか?! 」


 その変貌へんぼうっぷりに驚き三度してしまった。

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