第百三十三話 王都のアクアディア子爵家別荘へようこそ! 七 ミッション メンバーに精霊を紹介せよ 一

『そーっとよ、そーっと。アンデリック』

『見つかったら終わりなんだからね』

「分かってるって。寝ているとはいえ精霊に対して異常な嗅覚を見せるエルベルだ。彼女に見つかりたくないしな」


 俺と精霊達はまるで不審者ふしんしゃごとく可能な限り気配を消してそーっと大きな屋敷やしき廊下ろうかを歩いていた。

 まず気配感知で周囲に誰かいないか確認。

 移動し、もし使用人達が回避できない場所にいるのならば何事なにごともなかったかのようにすまし顔で挨拶あいさつして再度隠密おんみつを開始する。


 どうしてこういうことになったのかと言うと。


『貴方の仲間を知りたいわ! 』


 そうひーちゃんが言ったのが始まりだった。


 彼女達は自己紹介したが俺がしていない事を思い出した。

 そこで俺も挨拶をして種族の輪サークルと言う冒険者パーティーを組んでいることを話す。仕方ないということで仲間達とどのような事をしているのか話すと食いついてきたのだ。


 それに他の精霊達も追従ついじゅうして「会いたい、紹介して欲しい」等と言ってきた。

 だが勝手かってについてくる宣言せんげんをして加護でマーキングされてしまった俺としては複雑な気分だ。

 加えてエルベル以外には彼女達は視えない。なのに紹介しても意味があるのだろうか、とたずねた所「そんなの気分の問題よ! 」と言われてしまった。

 得体えたいの知れないものが勝手についていると思われたくないらしい。


 ともあれ俺達に『ミッション: 仲間を紹介せよ! 』が始まった。


「いいか。物を動かすな、さわぐな、俺を引っるな。良いな! 」

『わかってるって』

『物を動かす非常識な精霊なんているの? 』

『流石の私達だってやらないわよ』


 お前達も十分に非常識だろ、とツッコみたくなるがやめておく。

 き通る色とりどりの姿を見つめながら一言。


「時の精霊ことトッキーが念力ねんりきみたいな異能いのうでやったんだよ」

『まっさか~』

「ま、信じるかはお前達次第しだいだがいいか。やったら紹介しないからな」

『『『了解!!! 』』』


 彼女達の返事を聞き、目を豪華ごうかとびらに移してノックした。

 中からスミナが返事をしたので中に入っていく。


 それを廊下ろうかすみから見ている猫耳ねこみみメイドに気が付かないまま。

 アンデリックも本職にはかなわない。


 ★


「お、アンじゃねぇか」

「昨日ぶり、スミナ」


 中に入るとそこにはゆかに腰を下ろし俺の長剣ロングソードを見ているスミナがいた。

 声をかけ周りを見渡すと俺と似たような部屋であることが分かる。

 まどは開いているのか温かい風がほほでた。


ゆか、それは何いてんだ? 」

「汚れてもいいように屋敷やしきの人に借りたぬのいてんだ」

「にしては豪華ごうかぬのな気がするが……。まぁいいか。整備せいびをしてくれているのか? 」

「いや、流石にこの部屋の中でやる勇気はねぇよ。だがいた具合ぐあいを見てたんだ。後でどうにかできねぇかってな」


 そうか。俺は道具ごと持ってきて風呂に入ったんだった。

 盗まれたらいけないって思って。

 なるほど、と思っているとふとおもう。


「いつのに渡したっけ? 」

「……屋敷やしきの人に言うと持ってきてくれたぞ? 「この部屋でのみならば」と言ってな」


 俺の荷物にもつ!!!

 そうか。倒れた後そのまま運ばれたから小屋こやに置いて来た道具類はそのまま回収されたのか。

 だが勝手に他の人に渡さないで欲しい。小屋こやに置いた俺も悪いけど。中身、探られてないよな? 探られて困るようなものは……カード類か。

 ま、メンバーとわかってての事だろう。そう思いたい。

 そして何も取られていない事をいのりたい。後でよう確認だ。


「で、どうだ? 」

「こりゃぁダメだな。多分最後の一撃で完全にダメになってる」

「最後嫌な手ごたえもあったからな……。それか」

「どちらかと言うと瞬間的に何回も同じような衝撃しょうげきを受けたのが原因のような気もするが……」

「そんなわざを使ったおぼえがないぞ? 」

「最後のあれじゃねぇか? 『龍爪斬』ってやつ」

「あれか? 」

「確か……昔の客で『かさね』と言う武技を使っている奴の剣を見たことあるが、その痛みかたに近い気がする。無意識に使ったのか、龍爪斬がかさねの派生はせい形なのか……わからないな」

「ま、もう一回あれをやれと言われても出来る気がしないがな」

「おいおい、やってもらわねぇとワタシも困るぜ? なにせリーダーだからな」

「理由になってねぇよ」

「「ハハハ」」


 笑いながらも剣を見ているスミナ。

 修復しゅうふく不可能か。買いえになるのか。短いあいだだったがそれなりに愛着あいちゃくがあるんだが、自分の命にはえられないか。

 少し顔を暗くして剣を見た。そしてスミナが提案ていあんしてくる。


「今度王都の武器屋にでも買いに行くか」

「『ドルゴ』じゃなくてか? 」

「ああ~『ドルゴ』でもいいんだが王都か、王都からバジルに戻る時に剣が壊れたらいけねぇだろ? 」

「確かに。じゃぁケイロンとセレスがパーティーに行っているあいだに行くか」

「それがいい。後は依頼も少し受けておこう。手に馴染なじませておいた方が良い」

「そうだな。いくつか受けるか」


 はぁ、と少し溜息ためいきをついているとスミナが見上げて聞いてくる。


「で、アン。なにか用事があったんじゃないか? 」

「ああ、そうだった。紹介したい奴がいるんだ」


 それを聞きスミナは「紹介? 」といぶかしそうにまゆひそめた。

 どこか少し不機嫌になった感じもするがそれは一瞬で理由をさっしたようである。


「精霊、か」

「そんなところだ。その精霊達が自分達を紹介して欲しいと言っているんだ。どうやらついてくるらしい」

『ども~私はひーちゃんこと火の精霊です~』

『私はつっちーこと土の精霊ですよ』

『ふうちゃんはふうちゃんで風の精霊なのです』

『みーちゃんこと水の精霊です。よろしく~』


「元素四精霊が挨拶あいさつしたところだ。よろしくだと」

「そうか、ワタシもよろしくな! 」


 ちゅうに浮かぶ彼女達をしめし紹介するとスミナも挨拶あいさつを返した。

 大まかな所しかしめしていないのに的確てきかくに場所を当て手を上げる。

 流石妖精族だ。視えなくても場所が分かるなんて。俺だったら反対方向を向いているかもしれない。


『ちょっと端折はしょらないでよ』

『そうよ! 全部やる事を要求ようきゅうするわよ! 』

『『そうだ、そうだ!!! 』

「断る!!! 」

『『『ええ~』』』


 俺が断るとへなへなと空中くうちゅうからゆかに落ちグスンと泣いている素振そぶりをする。

 チラチラとこっちを見る仕草しぐさがあざとくてうざい。

 そもそもキャラがブレぎなんだよ。統一とういつしてくれ!


「コホン。でこっちが種族の輪サークルの盾役で鍛冶師のスミナだ」

『『『よろしく』』』


 今さっきまでの演技えんぎはどこへやら。すぐにその場から浮上しスミナの上をクルクルと回り始めた。

 この場にいると次にいけない。


「ほら次行くぞ」

『え、まだ来たばっかじゃん』

『そうそう。もう少し彼女を観察かんさつしようよ』

「早く回らないと昼がきてしまうぞ? それともスミナだけでいいのか? 」


 そう言うと渋々しぶしぶと言った感じで俺の頭にのかった。

 俺は乗り物じゃない。と思いつつも無駄むだ抵抗ていこうだと割り切り彼女達を頭に乗せた状態でスミナの部屋を出てくのであった。

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