第百三十二話 王都のアクアディア子爵家別荘へようこそ! 六

「一人で行けばいいんじゃないか? 」

『そう言わないでよ』

『そうよ。一人は怖いのよ! 』

「ならみんなで行けばいいじゃないか。そもそも精霊に恐怖を与える存在って……」

『変なエルフが出る! この辺りは! 』

『だから連れてって』


 四人の精霊達が俺に体を近づけ懇願こんがんしてくる。

 が、これ以上の厄介事やっかいごとなんてかかえたくない。

 ことわるにかぎる。


「もし連れて行ったとしてもエルベル、つまりこの前お前達を追い回したらしいエルフもついてくるぞ? いいのか? 」

『え? あれ仲間だったの?! 』

『あいつらと同類どうるいじゃない!!! 』

『……嫌よぉ! 怖いじゃない! 』

『なんでエルフが特殊進化してんのよ。千年ほど前はもっとおだやかだったのに』

『う“う”う“……でもお外行きたい』


 少しおどしを入れながらやんわりとことわる。

 水の精霊だからだろうか。エルベルの恐ろしさのあまり水のような物を出していた。

 ちょっ、何かれてる?!

 泣いている水精霊の方を見ると少し光っていた。精霊魔法の一種か?

 てか俺の上をらすな!

 それにしてもこの周辺にエルベルの同類どうるいが出るのか。タウ子爵家だな。それは。


「ならあきらめなよ。そもそもこの家のお風呂の運用うんようかかわっていないなら自由に周りに移動できるんじゃないか? 」

『そうだけど』

『ほら、道先みちさき案内人が欲しいじゃない? 』

『それに触れる稀少レアな人もいるし、ついて行ったら面白そうだし』

『面白そうな方に行くのは精霊のつね。仕方ないとあきらめるのだ、少年』


 こいつらもしかして俺で遊びたいだけじゃないのか? 何かそんな気がしてきた。

 俺にとっての一番は彼女達がこの家に引きこもっていてくれることだ。

 そもそも外に面白い事があるとはかぎらない。精霊にとっての危険が何かは分からないが危険があるかもしれない。

 よって家に引きこもる事を推奨すいしょうする!


『なにゆめのない事言ってるのよ』

『そうよ! 新居しんきょ心機一転しんきいってんしたいじゃない! 』

『もうそろそろつまらなくなったなーなんて思ってないんだからねっ! 』

都合つごうがいいなんて思っていないから。だから連れてってよ! 』


 無理でなくてもと提案ていあんすると口々くちぐち反論はんろんされてしまった。

 新居しんきょと言われても俺は家を持つ予定はない! 宿泊はするけど。

 それに出たらでたで何かこの家に不自由が出るかもしれない。

 ならばここにいてもらうのが一番だろう。


『不自由? 大勢の精霊がいるこの場所でたった四人の精霊がいなくなったくらいで何も起こらないわよ』

『それにこの家は周りよりも心地いいせいか新しい子がどんどん入ってきているのよ? 大丈夫でしょう』

『私達ももはや年増としまと呼ばれることになるなんて……』

『精霊からすればまだまだ若いのにね~』


 はぁ、と溜息ためいきをつきどうしようかと考える。

 一番はお引き取りねがうことだろう。だがそれも無理なようだ。

 家に関しては心配はいらなさそうだ。


 彼女達は、ようは新しい刺激にえているのだろう。言葉の端々はしばしにそれを感じる。

 厄介事やっかいごととはいえ彼女達が俺に触れる以上髪の毛にくっついてもついてきそうだ。

 ならば一層いっそうの事連れて行けばいいのだが、問題がある。

 

 エルベルだ。


 正直この前どのような奇行きこうに走ったのか見ていないので分からない。

 が、トッキーを前にした時の行動を見れば少なくとも異常行動に走ったのは容易よういに想像ができる。

 連れていった場合、路上ろじょうでトリップするエルベルの様子が容易よういに浮かぶ。 

 せめて屋敷やしきのようなところを見つけて隠れてもらうのが一番なのだが。


『なら加護を与えるわ! 』

『それは良いね』

「待て、待ってくれ! どうしてそう言う話になる」

『加護を与えて私達が貴方の位置を分かるようにするのよ』

所謂いわゆるマーキング』

『それで後をつけて顔を出すと』

「マーキング? まて、だとすれば俺に加護を与えた奴に俺の場所は……」

『『『丸見まるみえね』』』

「うぉぉぉぉぉぉ!!! 」

「お着替えをご用意……」


 ルータリアさんが突然とつぜん入って来た。

 ギギギと顔をとびらの方を向く。


「……れたパンツにもだえるアンデリック様。なるほど。おさかんなことで。これは失礼しました」

「ちがう!!! 」


 ルータリアさんはかわいた俺の戦闘服のみを置いて退出してしまった。

 またもや誤解が増えたようだ。

 なに見計みはからったように入ってきているんだよぉ!!!


 その後結局の所協議きょうぎすえに元素四精霊の加護を受けもれなくマーキングされたのであった。


 ★


「どうしたものか」

「どうしましたか、お父様」


 カルボ王国王都カルボにある王城の隣。

 ここには各国の大使館や迎賓館げいひんかんが立ち並んでいる。白に少々の赤いアクセントを入れた外装がいそうは全て均一きんいつであるが内装ないそうことなる。各国が自国の特徴に合わせて作り変えているからだ。


 そして獣王国の迎賓館げいひんかんの一室で一人の獣人とその娘がめんと向かっていた。

 獣王カイゼル五世とその娘、リン・カイゼルである。


 木製の机には紅茶が入ったコップとリンの為に置かれただろうクッキーがあった。

 それを小さな口で可愛かわいらしく一齧ひとかじりして悩める父の顔をのぞく。


「ふむ。くだんの英雄殿に与える報酬を考えていたのだ」

「報酬、ですか? 」

「そうだ。我が国の貴族も多く助けられた。責任をカルボ王国に押し付けるのは簡単だ。だがそのようなことをすれば子供を助けられた貴族から反発はんぱつを食らうのが目に見えている。故に報酬が必要だ」


 当たり前ですね、と小さくつぶやうなずく。


「それに聞くところによるとかなりのごうの者と聞いている。可能ならば我が国でかこいたいくらいだ」

「ですがあの御方おかたはこの国の貴族」

「ああ、この国との関係性は出来る限り壊したくない。これほどまでに他種族を平等びょうどうあつかっている人族国家はないからな。さてどうすればいいか……」


 手元てもとにある紅茶を一口飲み、考える。

 リンもクッキーを食べてのどかわいたのだろう。つめためな紅茶を一口飲み息をつく。


「まずは勲章くんしょうと報奨金だな。この程度ならば問題は無いだろう」

「ええ。リンも同意見です」

「次に獣位をどうするか……カルボ王国は特殊だ。他人族国家とは違い爵位の重複ちょうふくが法律で認められている」

「ほとんどは我が国や他の国の貴族がこの国でらし始め、功績こうせきを上げ、貴族ていましたが」

「ああ。今回は逆だ。議会を通るか……」


 悩む父王にリンがあることを思いつき伝える。

 それを聞き目を見開いて少しさみしそうな顔をした後、温和おんわに微笑んだ。


「確かにそれならば……まずはかこい込みか。銀狼ぎんろう卿と鳳凰ほうおう卿はこっちに付きそうか? 」

「あの感激かんげきようだといけるとリンは思いますよ」

「そうか、そうか。ならば議会は通ったも同然どうぜんだな。後はカルボ王国側に調節ちょうせつをしてもらい……」


 二人の王族の密談ロイヤル・ミーティングは続く。

 後に伝令でんれいが王城を走りカルボ三世の頭を悩ませたのは言うまでもない。

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