第百二十七話 王都のアクアディア子爵家別荘へようこそ! 一

「なあセレスさんや。なんでこの屋敷やしきはこんなに大きいのかな? 」

「あらやだアンデリックさん。それは貴族だからですよ」


「なあセレスさんや。なんでこの屋敷やしきはこんなにきらびやかなのかな? 」

「あらやだアンデリックさん。それは貴族だからですよ」


「なあセレスさんや。なんでこの屋敷やしきからは湯気ゆげが立ち上っているのかな? 」

「あらやだアンデリックさん。それは貴族だからですよ」


「「そんなわけあるかぁぁぁぁぁ!!! 」」


 俺とスミナが盛大せいだいっ込んだ。


「なんでも貴族だからではまされないぞ?! 」

「子爵家なんだよな?! なんでドラグ伯爵家よりも上の階層かいそうにあってしかも湯気ゆげ?! ないだろ……」

「そのようなことはありません。何事なにごとにも例外というものはあるので。しかし、そうですね。お答えできる範囲でお話するのであれば湯気ゆげに関しては今屋敷やしきの外側に設置した水を温めているからでしょう」

「い、今やっているのか?! 」

「どれだけ金持ちなんだ……。確かに温熱ヒート刻印こくいんした魔道具なら有りるが高いぞ、おい」

「ち、ちなみにどのくらいになるんだ? スミナ」

「複数箇所かしょから立ち上る湯気ゆげの数や範囲を考えると……白が動く」

「白? 」

「白金貨だ」

「はっ!!! 」


 その値段を聞いて驚き再度屋敷やしきの方を見る。

 その様子を見て可笑おかしそうに笑い「さぁ行きましょう」と俺達を先導せんどうした。


 ★


「「「お帰りなさいませ、お嬢様。いらっしゃいませお客様がた」」」

「ただいま、みなさん」

「おひさしぶり~」

「「は、初めまして」」

「おう! 初めまして、だ! 」


 門をくぐ屋敷やしきの前に行くとメイドや執事を筆頭ひっとうとした家臣かしん達がそこにいた。

 セレスは帰宅きたく挨拶あいさつをし、ケイロンは慣れたように声をかける。

 俺とスミナは緊張しながらも声をかけ、エルベルはいつのにか眠気をき飛ばして元気に手を上げ振っていた。


早速さっそくで悪いのですが」

「はい。準備はととのっております。みな! 」

「「「はい! レストさん!!! 」」」


 さっしたのかレストさんが前に出てきて号令ごうれいをかける。

 そしてメイドと執事が俺達を先導せんどうした。


 屋敷やしきをぐるりと大回りして裏手うらてにある庭のような場所にそれはあった。

 別荘べっそう自体がとても広く目的地へ行くのにもかなり疲れた。

 一人でこの屋敷やしきに入ったら迷う自信がある。

 ともあれ湯気ゆげの発生源に辿たどり着いた俺達。


「これが風呂か。初めて見るな」

「俺も初めてだ。水にかるなんて川で水浴みずあびするくらいだったからな」

「ホホホ、ならば少し最初は気を付けないといけませんぞ。熱く感じ体が吃驚びっくりするかもしれません」

「そうですか。ちなみにレストさんはいつもお風呂に? 」

「いつもではないですね。仕事がら身だしなみに気を付けてはいるのですが何分なにぶん忙しい身で」

「……おさっしします」

「あら、ワタクシの事ですか? 」


 後ろからセレスの声が聞こえ体を少しビクッとさせる。

 俺とレストさんは恐る恐る後ろを見ると笑っていない目でこちらを見るセレスがいた。

 俺達の様子を見て少しあきれ顔をしながらも彼女は口を開き指示を出す。


「レスト、そちらは任せました。ワタクシ達はこちらになりますので」


 そう言いいくつか仕切しきりで分けられたお風呂を指さした。

 その方向を女性陣が向くとスミナが少し困惑こんわくした様子でセレスに聞く。


「い、一緒に入るんじゃないのか? 」

「男女別々になります」

「なんて豪華ごうかな……」


 川での水浴みずあびもそうだが男女混合が普通である。

 別々と言う概念がいねんがスミナにもなかったのだろう。そのお金の使い方に彼女は後退あとずさった。

 分かる。分かるぞ、その気持ち。

 だが助かると言えば助かる。これだけの美女ぞろいだ。性格は置いておいて一緒に入ると色々と問題が出てくる。


「さ、行きましょう」


 そう言いセレスはメイド達を先頭せんという種族の輪サークルの女性陣を俺とは違う風呂へと誘導ゆうどうした。


「我々も行きましょうぞ」


 レストさんの一言により彼女達を見送っていた目を戻し俺もまた初お風呂を体験しに行くのであった。


 ★


 カルボ王国王城の一角いっかく

 そこにはこの国の国王と王妃おうひそして今回の主役しゅやくである王子がいた。

 だが様子がおかしい。

 まずは服装だ。ほとんどが寝間着に取ってつけたような格好かっこうで集まっている。

 そして表情がどこか緊張しており切羽詰せっぱつまっていることが分かる。


 ドンドンドン!


 入室の許可を求めるノックがする。

 それにおうじると一人の騎士がとびらを音もなく開けた。


夜分やぶん遅くに申し訳ありません! 」

「構わぬ。で、報告は? 」

「ありがたきしあわせ! 現在王都騎士団より各貴族子息子女の救出したとの報告がなされました! 」


 それを聞き全員の表情が喜びにちた。

 そして最も年老いた人族が一番聞きたかったことを聞く。


「で、姫は……確認されたか? 」

「報告にはカルボ王国と獣王国ビストの貴族子息子女とだけされております」

「わからぬ、か」

「直接確認した方がよろしいのでは? 」


 年若い青年の言葉を受け「ふむ」とだけつぶやき、ゆっくりと瞳を閉じ、考え、開ける。

 そして騎士に瞳を向けたずねた。


「まずは報告書を」

承知しょうちいたしました! 」


 騎士は返事をしてとびらを閉め、カシャン、カシャンと音を立てながら持ち場に戻り仕事に向かった。


「父上、いささ慎重しんちょうになりぎではないでしょうか? 」

「現状我が国の貴族が関与している可能性を考えると慎重しんちょうになりぎなほうが良い」

「それにエレク。今年は貴方の誕生祭たんじょうさい。これにじょうじて問題を起こそうと画策かくさくしている者が数多くいるのは最初からわかっているでしょう? 」

「分かってはおりますが……」

「だが、わからぬでもない。早く見つかり未然みぜんに防げたは良いものの一歩間違えればビストと戦争だった」

「後処理は如何いかがいたしますか? 」

「報告書待ちだな」


 そう言い軽く溜息ためいきをつく国王。

 余程よほど心労しんろうえないのだろう。顔も老けて見える。

 だがここでらなければ戦争突入とつにゅうだ。それだけは避けなければならない。


 もし報告書内にビストの姫がいなければ国軍総出そうでで探さなければならないほどの事態になる。


 カルボ王国は決して強国ではない。隣国と友好関係をむすび、軍事的に経済的に連携れんけいが取れていることも存続そんぞくが出来ている要因よういんの一つだ。

 そのせいか他の人族が運営する国よりも様々な種族が行きかう国となり『多種族共生国家』として地位を盤石ばんしゃくなものとしている。

 もし友好関係が崩れれば……。


「一番怪しいのは……いつもの『奴』か」

「ええ。軍事機密きみつれているのを確認しました」

「だが決定打にかける。まるで蜥蜴とかげ尻尾切しっぽきりだ。今回の一件で『奴』を叩ければいいのだが……」

「知らぬぞんぜぬをするでしょう」


 溜息ためいきをつきけわしい顔をしながら進む王族の会議ロイヤル・ミーティング

 彼らの密談みつだん如何いかにしてこの場をしのぐことに重点が置かれていたが王都騎士団が更に問題を起こしていることを彼らはまだ知らない。


 国王がキレるまであと……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る