第百二十六話 古代神殿探索 六 回想と王都騎士団

「つ、疲れた……」

「僕もだよ」

「ワタクシもですわ」

「長すぎだろ」

「……zzz」


 寝ているエルベルを置いておき宿に戻った俺達は部屋に集まり疲労満載まんさいで壁に倒れていた。

 あの後俺達は誘拐ゆうかいされた子供達を移動させようと考えた。

 だが数が多く俺達だけで安全に移動させることが出来ないのではないかとセレスから指摘してきを受ける。

 悩みに悩んだ末に考えた方法は一旦いったん誰かが外に出て王都の騎士に伝えるというものだった。


「まさか騎士がなぁ」

「まぁ部屋の中があの状態だったからな。仕方がないと言えば仕方ないんだが」

「僕も流石に予想外だよ」

なさけなさぎますわ」


 騎士を呼びに行くことになったのは足の速いケイロンと謎の権力を持つセレスである。

 権力をかさに着るのはあまり好ましくないが緊急事態。

 俺が行っても良かったのだが俺は極度きょくどの疲労で動けなかった。それに加えセレスとケイロンが上位貴族に分類される伯爵家と子爵家の子女であるというのも任せた理由の一つである。


 最初いぶしめに聞いていたようだが彼女達が誰なのか知ると一変し二人の誘導ゆうどうもと森の中へ。

 魔法でき飛ばした入り口を入り降りて俺達がいるところへやってきた。


 俺が彼らを見て「やっとか」と思った瞬間――吐きやがった。

 盛大せいだいに――吐きやがった。


 子供達ですら吐かなかったのにやりやがった。

 そのおかげで様々な臭いが入り混じる地獄じごく空間となり結局の所、あの場を出ることが出来たのは昼もぎ夕方が近づいていたころだ。

 そしてその後長い取り調べが終わり今宿にいるということである。


「うう……臭いが」

「……あんがあるのですけれど」

「「「なに??? 」」」

「我が家でひと風呂入りませんか? 服も洗いましょう。ええ、それがいいですわ」


 セレスがそう言うと起きている全員が目をかがやかせる。

 天啓てんけいのような一言だ。彼女は女神か?!

 だがこの状態で行ってもいいのだろうか?


「大丈夫ですよ。外で入る形のお風呂もございます」

「そ、外?! 」

「貴族は外で風呂に入るのか?! 」

「ち、違うよ。誤解だよ、デリク」

「しっかし風呂か。初めて入るぜ!!! 」


 俺達が前向きな話をしていると彼女が外に向け一言「準備を」と言ったのが偶々たまたま聞こえた。

 その瞬間まどの外で黒いものがるのが見えたがまさか密偵みってい?!

 と、言うことはドラグ家の密偵みっていもこの近くにいるかもしれないってことか!

 有りる。


 一人冷や汗を流しながらも俺達は荷物をまとめ宿を出て夜道王都を通り子爵家邸へ向かうのであった。


「……え? 子爵家邸はこっちじゃ? 」

「ええ。通常の子爵家邸はこちらです。が、我が家はあちらです」


 セレスが指さした方向はどういうことか公爵家のある方向だった。

 この道を歩くのにも慣れれず俺とスミナはビビりながら進んでいるのに、と思いその先を顔を引くつかせながらみる。


「マジか……。セレスのお家はあっちだったのか」

「絶対子爵家の家じゃないだろ」

「子爵家ですよ? 」

「「違うだろ……」」


 今までの事もありアクアディア家が子爵家と言うのも怪しくなってきた。

 本当は王家の王女が降嫁こうかして出来た貴族家とか実は他の国の王女様とか言われた方が納得できる。


 俺達のそんな様子を気にせずに暗闇の中を進む。

 ちなみに寝ていたエルベルを起こして連れてきている。眠いのか瞳をこすりながら進んでいた。

 真っ暗にしている屋敷やしきに一部の部屋のみあかりがついている屋敷やしき、また全体にあかりがともっている屋敷やしきなど様々な屋敷やしきを通りぎる。


「まだ仕事をしてるんだな」

誕生祭たんじょうさいに合わせて文官武官わず忙しいからでしょう」

「あっちはパーティーか」

「打ち合わせもねた挨拶あいさつでしょうね。時間も差しせまっているので」

「それケイロンとセレスは大丈夫なのか? 」

「「あ、明日から頑張ります……」」

「家族が大変そうだ……」

「着きましたわよ。ここが、我がアクアディアの別荘べっそうです!!! 」


 俺達の目の前に映ったのは所々から湯気ゆげが立ち上っている一軒いっけんの大きくきらびやかな屋敷やしきであった。


 ★


「無事だったのね! 坊や」

「母上! 」

「この馬鹿、心配させやがって!!! 」


 王都騎士団に受け渡された貴族子息子女の子供達は今一つの屋敷やしきで感動の再開をしていた。

 あちらこちらで無事を喜び熱い抱擁ほうようが交わしたり叱咤しったと共に涙する者もいた。


「このお礼をなんといったらいいか」

「いえ、我々は職務しょくむまっとうしたのみでございます」


 実の所、獣王国『ビスト』やカルボ王国の貴族子息子女が多数がさらわれたということで本国から王都騎士団や憲兵団に探索の命令が下っていた。


 彼らも探してはいたものの王都内の巡回じゅんかいに犯罪の取りまりなど多忙たぼうきわめていた。

 誕生祭たんじょうさいまでに誘拐ゆうかいされた者をすぐさま見つけ出したい国としてはもう少しで国軍を派遣はけんするところであった。

 が、王都騎士団としては国軍——つまり王国騎士団や魔法士団、兵団に仕事を奪われるのは遺憾いかんであった。


 そのような時にい降りたアンデリック達の一報いっぽう

 少し不甲斐ふがいないところを見せはしたもののおおむね任務完了であった。

 余計なことをしなければ。


「息子に聞くところによると大勢の賊相手に五人で戦ったとか。流石王都が誇る騎士団ですな」

「それほどでもございません」

「いやぁ我々も見たかった。勇猛果敢ゆうもうかかん猛攻もうこう! 歳はとっておりますが獣人の血が騒ぎますわい」

「して、どちらかな? その英雄殿は」


 その一言で王都騎士団の面々に欲の色が見えた。

 もっとも表情変化に敏感びんかんな者でなければ分からない程度ではあるが。


「私でございます」


 一人の男性が名乗り上げる。

 隊長格なのだろう。装備は同じであるが家紋がられた長剣ロングソードを腰につけキリッと正面を見る。

 名乗りを上げた者に対し少年少女達は口を開こうとするが、一人の獅子しし獣人の女の子がそれとなく止めに入る。


「おお……。さぞ高名こうめい武人ぶじんなのだろう。力を隠す余裕があるとは! 」

「え、えぇ」

「今はカルボ王国の王子殿下でんか誕生祭たんじょうさい。これが終わったら是非ぜひ私と一戦交えて欲しいですな」

「おい、ずるいぞ銀狼ぎんろう卿! 是非ぜひ是非ぜひ私と一戦! 」

「抜けけするな、鳳凰ほうおう卿。私だ、私とやるんだ! 」


 獣人貴族達にられ冷や汗を流す騎士団長。


 彼は知らなかった。獣人族、特に獣王国『ビスト』本国では力がものを言う世界だということを。しかし勘違いしても仕方ない。カルボ王国に移住している獣人族のほとんどは比較的温和おんわだからだ。

 出世や名誉、金銭欲にられなければこのような事態にならなかったのだが開いてしまった口はる彼らに「ご、後日よろしくお願いします」と言うしかなかった。


 それを冷ややかな瞳で見る少年少女達。

 彼らも幼少ようしょうころから英才えいさい教育を受けた身だ。

 冷や汗を流す人族の男の一連の行動で彼らが上にどのような報告をしたのかさっしたのだろう。

 冷たい目線を向けながら本当の英雄に想いをせると同時にこの後親にどう報告しようか考えていた。


 なお、後に彼らの所業しょぎょうがバレ『嘔吐おうと騎士団』と呼ばれるようになるのだが出向いていない騎士団からすれば迷惑この上ない話であった。

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