第百二十五話 古代神殿探索 五

「ここに来れないように配置はいちしていたはずだが……」

「これは大問題ですぞ?! 」

「分かってるって。だがよ。お前さんの手駒てごまも使えてねぇじゃねぇか」


 最前列の顔に傷を持つ大男がめんどくさそうに言うと脂ぎった男はくやしそうにくちびるんだ。

 その後ろには大勢おおぜいの盗賊風の男性達が。

 多すぎる……。


「ま、ここで全員首をねれば問題ねぇ」

「おかしら、後ろの奴ら残しておいて下せぇよ」

「美人ぞろいだ。味見あじみさせてくれよ。な、いいだろ、おかしら

馬鹿ばか言え! 全滅ぜんめつだ。一人残らず首をねろ。下手へた手加減てかげんしてやられちまったら意味ねぇだろうが」

「だがよ……」

「それともお前が死ぬか? 」


 食い下がる部下に一喝いっかつするリーダー格の男性。

 くそっ! 手心てごころなしかよ。

 やるしかない。


「全員隊列たいれつめ! いつも通りだ。ゴブリンにでもかこまれたとでも思え! 」

「んだとぉ! この! 」

「——」


 号令ごうれいもと全員がいつも通りの隊列たいれつみ終わった瞬間にいきどおった男が声を上げ攻撃しようと前に出るとエルベルの精霊魔法で頭が爆散ばくさんした。

 風の矢は勢いを失わずそのまま数人の頭をき飛ばす。

 血の雨が降りそそぐ中リーダー格の男性が一言。


「だから言ったろ。全滅ぜんめつさせろって」


 部下のふがいなさをなげいていた。


 ★


「斬鉄! 連撃! 」


 大盾を持った賊が前を固める。

 さっきのエルベルの攻撃が余程よほど身にみたのだろう。

 血の付いた盾を前に出し前衛を固めた。


 それを紙のように切りいて長剣ロングソードで一人、また一人と切っていく。


水の拘束ウォーター・バインド流電エレク! 」


 前で切りきざんでいる俺とケイロンの隣をコントロールされた水が流れ、盾役をつぶした俺達をかこもうとしていた賊にからみつく。

 その水を通して電気が流れ相手を行動不能に。

 一瞬のすきを狙い俺とケイロンは連撃でかこもうとしていた賊達を切りつける。


「——」


 切った後その前からやってこようとする賊を最奥さいおくからエルベルが狙撃し的確てきかくに頭部を破壊していった。

 数的不利を猛攻もうこうしのぎ残るは一人となった。


 ★


「全くなさけねぇ」

「ひぃぃ! 」

「お前もだ」

「わ、私は荒事あらごとは専門ではないのです! 」

「お前の親分が荒事あらごと専門だろう。ま、しゃぁねぇ。今回配置はいちされたのは雑魚ざこだ」

雑魚ざこ?! そんな戦力でこの作戦に挑んだのですか! 」

「俺達にとってはそのレベルの仕事ってわけだよ」

「なんですとぉ……。この責任如何いかがいたすのですか! 」

「どうするも何も、お前さんの上司も失敗はり込みみだろうよ。それだけ俺達とお前達の条件が合わなかっただけだ」

「くっ! 仕方ありません。私はこれで――」


 その脂ぎった男も風のやいばに切りきざまれた。


「はぁはぁはぁ……。はぁ、大丈夫か」

「うん。そっちは? 」

「まだいける」

「残りお前だけだ!!! 覚悟かくごしろ! 賊め! 」

「さぁこのから消えりなさい」

「はぁ……わかってねぇ。わかってねぇ」

「何がだ! 」


 俺とケイロンが余力よりょくを確認しエルベルが挑発ちょうはつする。

 だがあきれたようにリーダー格の男性は肩を回しながら準備運動のようなことをしていた。

 何をするきだ?!

 俺は警戒を最大限にあげる。


「ま、雑魚ざことはいえこれだけの人数を倒したんだ。それなりの実力だろうよ。だが……」


 そう言いながら構えた。

 そして――


 スミナがき飛ぶ。


「スミナ?! 」

「おせぇ! 」


 一瞬で距離を詰めスミナを盾ごとき飛ばした男にケイロンが叫びながら細剣レイピアき立てる。

 が、そこから回しりで剣を受け止めた。


「鉄?! 」

「任せろ! 」


 鉄製の足具そくぐを切るために接近し、剣を振りかざすも器用きようにケイロンを引き離して俺にぶつけてきた。


「ぐふっ! 」


 ケイロンを受け止めながら後ろに飛ぶ。

 まずい! 後ろが!


 予想通り後衛をつぶすために奴はセレスとエルベルに急接近し殴りかかる。

 やられる!

 そう思った瞬間セレスが腕で相手の拳を受け止めていた。


「あらあら、痛いですわ。もう少し女性に気を使ったら如何いかがですか? 」

「あいにくそんな道徳観どうとくかん持ち合わせていないんだよっ! 」


 スパン! パン! パン!


 高速で行われる拳のやり取りが空洞くうどうに鳴りひびく。


うわさに聞く龍人族の身体能力か」

「貴方何者ですか? 骨一本すら折れないなんて」

悲観ひかんするもんじゃねぇ。上には上がいるってもんだ」

「そうですね。悲観ひかんするものじゃありませんね」


 そう言うとすぐさまそこからセレスが離脱りだつした。

 今までにない行動に驚き、動きが鈍る。


「——風ノ精霊砲エアー・ブラスト!!! 」


 巨大な風の塊がその男を直撃し切りきざみながらき飛ばした。


「流石エルベルさんですね」

「それほどでも」

「まだだ!!! 」「魔拳まけん弾!!! 」


 ドドド!!!

 

 魔力のかたまりき飛ばした方から飛んで行く。

 先読みで視た俺は注意するも遅かった。

 二人共まともにくらい地面にひざをつく。


「ああ……効いたぜ。久々ひさびさに体に傷がついた。いてぇな、この野郎やろう


 き飛んだ衝撃しょうげきき起こったほこりから立ち上がった男の姿が現れる。

 あれを喰らって平然へいぜんとしているのか?!


「わりに合わねぇ仕事だ。全く」


 ゴキリと拳を鳴らしながら近寄ちかよってくる。

 周りを見るも最初の一撃でノックアウトのなったスミナとケイロン、さっきの遠距離攻撃でひざをつくセレスとエルベル。


 怒り。


 き上がるのは恐怖でなく怒りであった。


「よくも俺の仲間を!!! 」

「よぇのがわりぃ。所詮しょせんこのは弱肉強食。勝った者がうばう権利がある」

「やらせるものか! 」

「なら護ってみな。できたらの話だがな」


 悪い笑みを浮かべ、拳を振りかざした。


 ★


「僕達どうなってしまうのでしょうか」

「何弱音よわねを吐いているのですか」

「しかし……」

「あれをごらんなさい」


 そこには必死になって拳を避ける男がいた。

 長剣ロングソード間合まあいいを取り、められながらも先が視えているかのように避けている。

 時々切りつけるも傷をつけることすらできていない。


「あの方も必死に戦っているのです。私達が弱気よわきでいいのですか? 」

「ですが……」

見届みとどけるのです。この結果が周辺各国の運命を変えるかもしれません」


 正面から来る拳を避け距離をとる。

 長剣ロングソードでは戦いにくい間合まあいだ。

 が、それを許してくれる相手ではない。


 俺が避けると同時に拳を引っ込めすぐに距離をめた。

 次にしたから上にき上げるような拳をいくつかのフェイントを入れながらり出すも、俺は避ける。

 先読みを全開にしてギリギリとか反則はんそくだろ!

 だが……。


「……小僧こぞう、中々やるな。攻撃はまだまだだが反応速度が異常だ」

「誉めらえれても嬉しくない」


 そう言いながら剛撃をり出す。

 腕を切ったと思ったが、傷が少し残るくらいだ。

 だが血は出ている。急所きゅうしょに当てれば行けるか!


「こんなちまちました戦い方なんてしても俺は倒せねぇぞ? 」

「それはどういう」

粗方あらかたさっきの一撃を急所きゅうしょに当てればいけるとでも思ってんじゃねぇか? 」


 バレている?!


「なら簡単だ。急所きゅうしょを見せないように動けばいいし、何よりそんな場所を無防備にしてると思うか? 」


 正論だ。

 靴に鉄をめていたんだ。何か体内に仕込んでいてもおかしくない。

 くそっ! どうしたら!


多重氷槍アイシクル・ランス

「斬撃! 」

「うぉぉ、戦士の咆哮ウォー・クライ

「——」

「うざってぇ!!! 」

「「「うわっ! 」」」

「きゃぁっ! 」

みんな?! 」

「よそ見は――厳禁げんきんだぜ? 」


 一瞬のすきを狙ってケイロン達が攻撃をたたみ込む。

 が、それを体捌からださばきと魔硬まこう弾で彼女達をき飛ばした。

 き飛ばされる彼女達を見てしまったその一瞬、目の前に賊の拳が現れる。


 まず!!!


 ゆっくりとせまりくるが――


『時ノ加護ヲ、使エ』


 自身が加速した。


 ★


「なっ! いきなり速く?! 」


 全員が項垂うなだれる中アンデリックが賊に猛攻もうこう仕掛しかけていた。

 一回一回の攻撃は浅いものの異常なスピードからり出される攻撃は相手にダメージを蓄積ちくせきさせていっている。

 それとは反比例はんぴれいしどんどんとアンデリックはスピードを上げていく。


「一体何が起こっているのですか? 」


 セレス達は最も離れた場所に集まりその様子を見ていた。

 だがエルベルの様子がおかしい。

 気でも失っているのだろうか。目を開けていない。


「エルベルさん。大丈夫ですか」

「だ、大丈夫だ」

「目がどうしたの? 」

「光が! 」

「「「光??? 」」」

「いきなり小精霊が現れてデリクにどんどんと入って行っている! まぶしすぎて目が開けない! 」

「大精霊の加護?! 」

「まさかここまでとは……」


 一同驚きの顔を浮かべ戦闘を見ると攻防こうぼうが激しさを増していた。

 剣を腕で防ぎきれず片腕を落とし血を大量に流す賊。


「くそっ! 鋭さが増してやがる! 」

「硬いがケリーさんほどじゃない! 龍爪斬!!! 」


 先ほどまでの戦いがうそかのように、賊はアンデリックの一撃であっけなく首をねられ、戦いは終わりをげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る