第百話 王都への道のり

 カタコトとれながら俺達は王都へ向かっていた。

 王都への道のりはそこまで遠くなく順調じゅんちょうにいけば三日ほどで行けるらしい。

 思ったよりも近くで吃驚びっくりだ。


 カタコトと更にられ外を見る。

 いいながめだ。この馬車の性能せいのうの良さも時間を短くしている理由の一つなのかもしれない。 


 カタコト……現実逃避げんじつとうひはやめようか。


 今俺が入っている馬車に何故なぜかピーター様、アドレノ様、ケルマ様そしてジュリア様がいる。

 意外いがいなことにケイロンはこっちに馬車でなくセレスの馬車へ入った。

 そちらへ俺も行こうとしたのだがピーター様を始めケイロン一家につかまり何故なぜかこの馬車に入れられた。


 ケルマ様の体が大きいせいかとてもせまく感じるが、本当はとても広い。

 馬車用のソファーのような椅子もふかふかでもたれもあり、所々ところどころ装飾そうしょくほどこされている。

 汚したり傷をつけたりするとどのくらいかかるのか考えるだけでも恐ろしい。


 ちなみにドラグ家の使用人達もアクアディア家の使用人達と同じように別の馬車で移動している。

 先行せんこうして安全を確認する馬車もいれば後からついてきて背後はいごから襲撃されないようにしている馬車もいる。


 出来れば俺も後ろか前に陣取じんどりこの形容けいようしがたい雰囲気ふんいきからだっしたかったが無理なようだ。


「それで娘とはどこまで進んでいるのかな? 」


 真剣しんけん眼差まなざしでそう言ってくる。すると他二名からも物凄ものすごあつがかかってきた。

 真面目まじめな顔をして何言ってる?この自称じしょう四十代。

 冷や汗を流しながらも顔を上げどう答えようか考える。


「貴方達。こちらにお呼びした本当の目的を忘れたのですか? 威圧いあつしてどうするのです! 」

「「「……すまん (わりぃ)」」」

「はぁ……全くこの調子だと話を始めるまでに時間がかかりそうですね。ピーターに代わって私がお話します」


 ジュリア様が男三人に一喝いっかつすると一瞬でこの異様いような空気が霧散むさんした。

 だがなんの話だろうか。

 本来当主とうしゅが話すことならばとても重要じゅうようなことだと思うのだが。


「コホン。王都に着くと早めにアース公爵家にケイロンと二人でおとずれて欲しいのです」

「こ、公爵様の家?! 」


 え、何。俺へんな所でやらかしたのか!

 公爵様に粗相そそうでもしたのか!?


「ふふ、そんなにおびえなくても大丈夫ですよ。くわしい事はここでは言えませんが悪い事ではありません。公爵様の家にいってもらいますが、おそらくお会いするのは元公爵様でしょう。まぁ行ってから確認してください」


 そう言うと一枚の手紙を出した。

 何やら家紋かもん入りの手紙だ。

 それをこちらに差し出して言う。


「これは紹介状しょうかいじょうになります。王都のアース公爵家の門番もんばんに私達に言われて来たと言いこれを渡してください。きっと中へ入れてくれます。あ、もちろん開封かいふうしないでくださいね」


 ニコリと笑いながらそう言い俺に渡した。

 これを震える手で受け取り自分の小袋こぶくろに入れる。

 だが震えが止まらない……。

 なんだろ……貴族最終兵器のような物を持たされた気分きぶんだ。


 王都へ行ってからの用事が一つ増えたが順調じゅんちょうに俺達はカルボへ行くのであった。


 ★


 一方いっぽうそのころセレスティナの馬車。


「——」

「あああ“、不安定になる! 」

「何この曲?! あああ“ 」

「これは……精神攻撃ですか?! 」

「——」


 阿鼻叫喚あびきょうかんとしていた。

 宿から出て一日目、早くもエルベルがやらかした。

 と言うのもいきなり歌い出したのだ。

 それが普通の歌なら問題なかったのだが全員の精神を不安定にさせるような選曲せんきょくで、しかも歌っている本人の顔もヤバい。

 頭を押さえるケイロンに下を向くスミナ。上を向いてどうにか逃れようとするセレスティナに……。

 本当なら楽しい旅路たびじが一日目にしてくずってしまった。


「おい、駄乳エルフ! やめろ! すぐにこの曲をやめろ! 」

「ル――」

「やめて! やめてってば!!! 」

「ルールル――」

「お、お願いしますから声を静めてください」

「——」


 全員を精神不安定にさせながらも彼女が歌い終わるまでこの曲は続いたのだった。

 そして真っ先にスミナが声を上げた。


「おい駄乳エルフ。さっきの歌は何だ?! 精神攻撃をする歌なんて聞いたことないぞ?! 」

「ワタクシも初めて聞きました」

「一体なにかな? 」

「さっきのは『エルフ鎮魂歌ちんこんか』というものだ」

「『エルフ鎮魂歌ちんこんか』??? 」


 まどに体ごと顔をあずけた状態でぐったりしながら説明し始め全員が聞く。

 歌声うたごえが悪かったのではない。むしろ綺麗きれい歌声うたごえだった。

 だが本人を含む全員を不調ふちょうおとしいれる歌である。

 興味がかないはずがない。


「この歌はタウの森に古くから伝わるものでな。精霊に見放みはなされたエルフが旅立たびだつ様子を歌っているんだ」

「何でこんな精神攻撃のようなことに」

ません。術式じゅつしきや魔法陣をかいさない魔法なんて。いや歌自体が術式じゅつしきに?! 」

「民族……いや氏族に伝わる歌か。歌の内容自体は普通なんだが……」


 ケイロンは頭を振り気分を取り直すような仕草しぐさをする。

 セレスティナはすぐさま分析に入り、スミナはげっそりとしていた。

 彼女達は旅を楽しむ雰囲気ふんいきではないままに王都へ入るのであった。


 ★


「「「おー!!! ここが王都か! 」」」


 三日後順調じゅんちょう旅程りょていを進んだ俺達は王都に着いた。

 それぞれの家に着く前に途中とちゅうで俺達を降ろしてくれたのだが物凄いにぎわいに興奮こうふんしている。


「では冒険者ギルドへ行きましょう」

「「「お嬢様は一旦家にお戻りください」」」


 着くと同時に俺達は宿を取りに行った。

 どこも満室に近かったが最後の一室をとることが出来たのは僥倖ぎょうこうだ。

 ジュリア様が私達の別荘べっそうに泊まってもいいのですよ、と言っていたがそこまでお世話せわになるわけにはいかない。

 そもそも冒険者——しかもDランクになりたての俺達が貴族の屋敷やしきから出てきたら悪い意味で目立めだってしまう。

 セレスティナも俺達について行くと言ったが流石さすがに使用人達が止めた。

 彼らはこれから主人しゅじんであるアクアディア子爵家当主に挨拶あいさつに行かないといけないらしい。

 親に会いに行くことよりも自分の興味のままに動くのはセレスティナらしいと言えばセレスティナらしいな。ここ数日でよくわかった。


 そして俺達は宿『精霊の宿木やどりぎ』に来ていた。


「精霊がいないじゃないか!!! 」

「当たり前だろ。たんなる看板かんばんだ」

「本当にいると思ったのか、エルベル」

「そうそう、なんでいると思ったのかな? それこそ視ればわかるのに」

「……何でここにいる? ケイロン」


 王子様の誕生たんじょうパーティーの為にここまで来たはずのケイロン。

 だが何故なぜか実家の別荘べっそうではなくこっちの宿に来ていた。

 その小さなくりッとした顔をこちらへ向けさも当然のようにげる。


「何でって僕も種族の輪サークルの冒険者だからだよ」

「いや確かにそうなんだけどな。向こうで準備とかあるだろ? 貴族の習慣しゅうかんは分からないが挨拶あいさつ周りとかもあるんじゃないか? 」

「大丈夫だって。パーティーまでかなり時間があるし、それにほら」


 そう言い一枚の白い高級そうな手紙を取り出してこちらに見せた。


「きちんとした理由——つまり先代アース公爵様への訪問ほうもんもあるしね」


 屈託くったくのない笑顔でそう言い俺を絶望ぜつぼうふちおとしいれた。

 せっかく忘れていたのに。

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