第九十五話 エンカウント 一

 あの後め立てられた俺は体を小さくしながらとぼとぼと自室へ戻った。

 ギギギと言う音を出しながらとびらを開けベットにころがる。

 夜も遅いようだ。部屋に光が入っていない――はずだった。


「……まぶしいんだけど? 」

『仕方ないじゃない。『時の小精霊』なんてそこら中にいるんだから』

「今まで……先読みの時はこんなことなかったんだが? 」

『そりゃちっぽけな力を使った所で微々びびたるものよ。目に見える程に集まらないわ。それにその時は精霊魔法を使ってるって自覚じかくなかったんでしょう? ならなおさらよ』

「そんなもんか」

『そうよ。それにそのうち体から抜けていくわ。抜けた後は呼ばなければ出てこないようにいってるから大丈夫よ』

「それはありがたい」


 ちゅうに浮くトッキーを自分の体から出る光でらしながらゴロンと横になる。

 乱雑らんざつに置いてあったぬのを取り上げ眠る準備に。

 今日は疲れた。依頼を受けたわけでもないのにかなり疲れた。

 一先ひとまず今日は寝よう。あと何日か余裕よゆうがあるからそれまで休んで……


 ★


 朝陽あさひの強い日差ひざしで起こされた。あの後、気を失うように眠ったようだ。

 ベットの上で上半身を上に伸ばし、体をほぐす。

 体がほぐれたらまどまで行き、それを開け、空気を入れる。

 どうやら寝坊ねぼうしたらしい。まどの外からケイロンとスミナがガルムさんと戦闘訓練くんれんしている音がする。

 この宿に泊まるようになりスミナもガルムさんに訓練くんれんを付けてもらうようになった。


「おらおら、盾役たてやくが倒れてどうする! 」

「言ってくれるな! 不動ふどう! 」

移動速度上昇スピード・アップ! 刺突撃! 」


 いつもの盾と同じ大きさ重さの盾をかまえ武技を使ってガルムさんの攻撃をしのいでいる。

 不動ふどうを使っているはずなんだがスミナの体が徐々じょじょに後ろに押されてるぞ?!

 外から見るとガルムさんの一撃がどれだけ重いのかわかる。


 ガンガン!! と木の剣からするはずのない音がしているのは気のせいだと思いたい。

 

 ガルムさんが攻撃をしているあいだに自身に魔法をかけ速度を上げたケイロンが背後はいごを取り心臓をつらぬいた――


 と思ったらその方向に目もくれず強引に体をひねり回転切りの要領ようりょうでケイロンをき飛ばした。


「今日もよくき飛んだな……」


 なんでケイロンの動きが分かったんだ?

 今さっきの俺も残像ざんぞうしか見えなかったぞ?!


 その非現実的な光景こうけいを後にして空気の入れえを終えまどを閉めて背負袋せおいぶくろ長剣ロングソードを手にした。


 とびらを開け廊下ろうかにでて一階へ下りる。

 そこには町の一宿に場違ばちがいな雰囲気ふんいきを出している集団がいた。

 あそこだけ何故なぜ背景はいけいに花が飛び幻覚げんかくが見える!


「あらおはようございます。アンデリック」

「おはよう。セレス。そしてアクアディア家のみなさん」

「「「おはようございます」」」


 セレスは昨日と同じようにせっしてくれているのだが従者じゅうしゃの人達は朝から何故なぜ疲労困憊ひろうこんぱいな顔をしていた。

 何があったんだろう?

 いや、何も言わまい。多分貴族家特有とくゆうの問題でも発生したのだろう。

 セレスが予定を変更したことも問題であろうが。


 それはともかく席に着きやってきたフェルーナさんに朝食を頼み食べる。

 ちなみにセレスの机には白いテーブルクロスに白のティーカップが置いてありそこからいい匂いがただよっている。

 そのような場違ばちがい感も気にせずセレスが俺の方に金色の瞳を向けた。


「それにしてもこの宿の食事はとても美味おいしいですね」

「そうだな。村にいた時とは大違いだが……貴族から見ても美味おいしいのか? 」

「はい。可能ならが家へ来てほしいほどです」


 なんてない話をしながら食事を進める。

 ケイロンが食べた時も美味おいしいと言っていたがやはり他の貴族家の人も美味おいしく感じるようだ。

 ならフェルーナさんの腕前は確かなのだろう。

 そして俺はこの料理をこの値段ねだんで食べていいのか、と疑問ぎもんがわき上がってきた。

 まぁ下手へたを言って値段ねだんをあげられてこまるのは俺だ。

 言わないでおこう。


「あら、どこに行くのですか? 」

「ちょっと武器屋に用事ようじ

「なら私も……」

「「「お嬢様はお留守番るすばんです! 」」」

「ええ……」


 俺が武器屋に行くと言ったらセレスティナが同行どうこうしようとした。

 それを周りが必死ひっしに止めていた。

 俺がせきを立ちフェルーナさんに連絡し裏庭うらにわに出る。

 セレスがこちらに来ない事からどうやらメイドさん達の足止あしどめは成功せいこうしたらしい。


「おはよう」

「おはよう、デリク」

「おう、おはようアン! 」

「遅かったな。これから一緒にやるか?! 」


 挨拶あいさつをするとケイロンとスミナが地面に横たわった状態で挨拶あいさつを返してきた。

 ガルムさんがこちらを見て朝練あされんをするか聞いてくる。


「すみません。今日は武器の手入ていれれに行きたいんです」

「おう、そうか。なら仕方ねぇ」

「僕も行くよ」

「ワタシは……」

「あんちゃん達はまだ訓練くんれんが終わってねぇ! さぁやるぞ!!! 」

「「……ええ」」


 のそのそと立ち上がり二人はガルムさんの前に立ちかまえた。

 打撃だげき音と悲鳴ひめいともとれるような音をにして俺はその足で『ドルゴ』へ向かった。


 ★


「かなり使い込んでんな。スミナのやつおめえさんの武器を手入ていれしてないのか? 」

「あれから色々あってバタバタしてたんで頼んでないですね」


 武器防具『ドルゴ』へ行くとそこには親方おやかた『ドルゴ』さんが受付をしていた。

 用向ようむきを言い、長剣ロングソードを見てもらう。

 ドルゴさん的には俺の手入ていれれはまだまだのようだ。痛い指摘してきを受けながらも話を聞き、スミナの話になった。

 話し的にはスミナに武器の手入れをまかせた方が良さそうだな。自分で出来るにしたことはないが。


「しかし……わかってねぇな」

「どうしたのです? 」

「スミナを連れてこんか! この馬鹿者ばかものが! 」


 ふとした瞬間小槌ハンマーが飛んできた。

 うぉっと言いながらそれをかわし、ドルゴさんの方を見る。

 後ろでガシャン! と音がしていたが無視むしだ!


「ちょっ、いきなり何するんですか?! 」

「分かっちゃねぇな。親子おやこかたらいってもんがあるだろ? 」

「あるかもですがスミナはスミナで帰りにくいそうですよ」

「何でだ? 」

「……最後喧嘩けんかのような感じで出てきてしまったからのようです」


 そう言うとドルゴさんは少し顔を下に向け沈黙ちんもくした。


「……それなら仕方ねぇ」


 そう言い黙々もくもくと俺の長剣ロングソード手入ていれれに入った。


 ドルゴさんに手入ていれれ代をはらい、宿に戻ろうとする。

 いつもは少なくともケイロンがいたから一人で歩くことはなかったが今は一人だ。

 帰りも行きも不思議ふしぎ感覚かんかくに襲われながらも道を行く。

 少しいつもとは違う道を行こうと回り道をして『銀狼』へ帰る。


 違う道を通ったせいか知らない広場に出た。

 そこにはいくつも横長い椅子が置いてあり、如何いかにも貴族のような人が座っている。

 これはミスしたな。やはりいつもと違う道を行くのは間違ってたか?

 そう後悔こうかいしながらも、町人まちびとにしては綺麗きれいすぎる服装ふくそうのおしのび貴族にばれないように気配けはいを消しながら来た道を戻ろうとするといきなり声が聞こえてきた。


「……なんて不幸なんだ。そう思わないかい? 少年」


 今俺が不幸にあいそうです。

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