ミッション『お嬢様を援護しろ! 』 一

 時はさかのぼりセレスティナとアンデリックが買い物に行く前夜ぜんや

 とある一室に異様いよう雰囲気ふんいきただよわせた人物達がいた。


みなさん。これからが重大じゅうだいですぞ」

「分かっちゃいるんだが。気乗きのりしねぇな」

「ええ、まったくです。しかもこれ、失敗したらかなりまずくないですか? 」


 その者達——レストとルータリアそしてガイの三人は顔を合わせて会議かいぎをしていた。

 が、レストの提案ていあんに対して慎重しんちょうな二人。

 それもそのはずもし失敗し、いや成功してもセレスティナ達にバレると自分達の立場たちばあやうい。それほどに今回の任務にんむ危険きけんなものになる。


「せっかくの機会きかいなのです。これを逃したらいつ次が現れるか……」

「長命なんだから次の機会をまったらどうです? 」

「そうですぜ、兄貴。龍人族は俺達よりも長命だ。長く待てばいいじゃないか。その内またいい人が出るかもしれねぇですぜ? 」

「……ドラゴニカ王国第一王子殿下でんか以上に魅力みりょくを感じる方が今後現れると? 」


 レストが手袋てぶくろをした白い手で頭をささ溜息ためいきをつく。

 セレスティナが王子と結婚すれば一番良かったのだが王子は玉砕ぎょくさい

 もう少し王子に頑張がんばってってほしかったと心の中でなげきながらも頭から手を離す。

 するとガイの方から声が聞こえ、そちらを向いた。


「そりゃ……きついかもだがよ。ドラグ伯爵家とやり合うのはまずいぜ? 」

「そうです。りょう産業さんぎょうにも一役ひとやく買ってくれているのですからここは大人しくケイロン様を応援おうえんしましょうよ」

我々われわれ龍人族は長命がゆえに結婚に対して積極的ではございません。より正確に言うと『恋』というものをしにくい……。長期的に見てこので何かしらの進展しんてんがないと後が厳しいのです」


 ガイの言葉に便乗びんじょうおもいとどまるようルータリアがレストに言うが聞く耳を持たない。

 そしてとんでもない事を言い出した。


「これは決定事項けっていじこうです。では作戦をお話しますので――」


 こうしてコードネーム『お嬢様を援護しろ! 』が発動するのであった。

 部下達の「本気か?! 」と言う意見を他所よそにどんどんと説明していくレスト。

 夜行性やこうせいの鳥が鳴くころに彼らは寝静ねしずまるのであった。


 ★


 早朝そうちょうガルム達が起きる前。

 レストは早くに起きた。

 すべてはお嬢様の今後の為一族の為と今日も今日とて頑張がんばるレスト。

 大袋アイテムバックから大きな姿見すがたみを出し服装ふくそうをチェックする。


「少しみだれていますね」


 独りちながらすその部分を少し調節ちょうせつする。


「これでいいですね」


 そう言い更にバックからパン等を取り出し自分の腹をたす。

 昨日の事もあってか起きるのが遅い部下達を起こしつつセレスティナが起きる前に身支度みじたくませた。

 

「お三方さんかたにこちらのしなを頼みたいのですが……」

「レストさん? 別にいいけど……どうして? 」

「恥ずかしながらバジルの町へ来るのはひさしぶりでして道に迷いそうなのです。本来ならお嬢様をお連れして次の町へ行く予定でしたがそれはかなわなくなりました。なのでこの町にくわしいケイロン様に頼もうかと」

「……僕もそこまでくわしいってほどじゃないけど」

「お、何だこれ?! いっぱいだな! 」

「おい、駄乳エルフ! 何してる! 勝手に受け取るんじゃねぇ! 」

「おおーこれならこの前見たぞ! 」

「おお、そうですか。ならばおまかせしても? 」

まかせとけ! 」


 ありがとうございます、と言いながらふくろから金貨と銀貨が入ったふくろを取り出しエルベルの方へ向き差し出した。


「こちらが必要経費けいひになります」

「おお、こんなにか?! 」

「ええ。項目こうもくも多くありますのでお金も多めに入れました」

「よし、行くぞ!!! 」

「ちょっ! エルベル! 」

「待て!!! 」


 エルベルにつられて出ていく彼女達を見て少し微笑ほほえみ、そして顔を引きひきしめた。


総員そういん。これより作戦に移行します。よろしく頼みましたぞぉ! 」

「「「はっ!!! 」」」


 腕を口元くちもとて各指九本に同じ刻印こくいんがされた指輪に話掛けると彼の部下から返事が聞こえてきた。

 各部隊でもとりわけ龍人族を隊長とする部隊の返事が良かったのは気のせいではないだろう。


 ★


「はぁ、言い出したこととはいえ、これは気乗きのりしませんな……」


 馬車に乗りからレストの声がしていた。

 どうしてこうなった、と思いながらも馬車にられている。

 彼が憂鬱ゆううつなのは本当なら部下にせるつもりだったことを自分がしなくてはいけなくなったからだ。

 部下の失敗をカバーに向かったり大損おおぞんした事業じぎょうを立て直す時の気分きぶんよりも憂鬱ゆううつになっていた。

 その状態で馬車を出て目的の場所に向かう。


「おかーさん。あれ何??? 」

「……ごめんね坊や。お母さんにもわからないわ」

「ありゃぁ国をいくつかまたいだ所にあるっていう国の魚じゃねぇか? 」

「お、本当だ。だがあんな魚いたか? 」

「聞いたことねぇな……」


 それもそうだろう。今のレストは『魚』である。内陸部にあるカルボ王国で加工前の魚の姿を見るのはめずらしい。

 と言ってもレストのそれは着ぐるみだが。

 だが魚の着ぐるみを着たレストではあるが海に出たことがある者でもあまり見ない魚であった。

 てんそびえ立つ、とがった長い巨大な鼻。には大きなヒレがありこれが未発見の新種の魚か想像そうぞうで作られたものと言われても納得なっとくするであろう。

 そしてその魚には着ぐるみの例にれず両手両足がついていた。

 

 その足でトテトテトテと歩いたレスト魚は一段いちだんたかもうけられたステージに立ち――


「私の歌を聞いてくださぁい!!! 」


 レスト魚から女性の声がして歌い出した。


 ★


 一人ノリノリで歌う執事レスト魚を遠くから見る者が複数いた。


「……あれだけ嫌がってたのにやくにハマってんじゃねぇか、兄貴」

「すごいですね。これお金取れるんじゃ? 」

詐欺さぎだろ……」

「魚に歌で負けるなんて」

「『変色魔球カラー・ボール』に『変声チェンジ・ボイス』と『拡声ボイス・スピーカー』、それに『魔法範囲拡大マジック・スプレッド』と『総員注目スポット・ライト』の併用へいよう……それに加えて武技もつかってますね。魔法の四重詠唱クアドラプル・マジックに加え範囲拡大と武技……いくらお嬢様のためとはいえここまでやりますか……」

「お嬢の為にここまでやるとは……あんた龍人族の鏡だぜ。執事長! 」

「「「執事長!!! 」」」


 何事なにごとかと集まった観客かんきゃくにフリフリダンスを披露ひろうしてり上げるレスト魚。

 歌に合わせておどり、手を大きく振り、ある時は大ジャンプして曲芸きょくげいのようなことをしながら歌う。

 それを見た部下達——龍人族はその身をていしたおこないになみだぐみ他の者は五百を軽く超えた執事のキレッキレのダンスとボイスにちひしがれた。

 だがすぐに物見見物ものみけんぶつは終わりをげる。


「! 監視かんしより入電にゅうでん。作戦成功しました! 」

「了解。本作戦は次のステージへ移行いこうり返す。本作戦は次に移行いこう


 こうして彼らの作戦はまだまだ続くのであった。


*ファーストステージ: 観客に押し出されたセレスティナがアンデリックによりかかる所。

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