第九十四話 王都への準備期間 三 ケイロンとセレスティナ

「ティナ、ちょっといいかな」

「……はい」


 俺達が夕食を食べ終わり一階で話し合っていたらケイロンが突然とつぜんそう言った。

 そのただならぬ様子に全員口を閉じ、セレスは覚悟かくごを決めたような顔で二階へ上がる。


「なぁ……デリク。おめぇさんが仲介ちゅうかいした方が良いんじゃないか? 」

「行った方がいいのか」

「やめとけ、やめとけ」


 スミナのアドバイスのもとついて行こうとすると一階で食事をとっていた護衛ごえい騎士が声を上げた。

 声の方を見ると一人の獣人族の男性が手を振り、俺が行くのを止めた。

 彼は獅子しし獣人のガイさんだ。いつもは騎士団の隊長をしているらしい。

 今回は護衛ということで護衛騎士団に入っているとの事。レストさんから依頼を受けた時におたがいに自己紹介した。


「何でですか? やはりリーダーが仲介ちゅうかいに入った方が良いと思うのですが」

「まぁ普通ならそうだな。だが今回はやめておいた方が良い」

「女同士の話だ。俺達のような男はだまって結果を待つだけでいい。そう、だまってな」


 ガイさんがそう言うと食事をとっていた男性護衛ごえい騎士が全員うんうんとうなずいた。何かいやな思い出もあるのか半分くらいはにがい顔をしていた。

 そ、そうなのか。

 が、どうにかしてなかを取り持つのがリーダーではないだろうか。

 いや、余計よけいなお世話せわになるのか。


「お嬢とケイロン嬢が帰ってきたときにあたたかくむかえてやればいいんだ」

「ま、もとをただせばレストの兄貴あにきが原因だがな」

「それは言わねぇ約束だろ? 」

「しかしよ。これは不憫ふびんすぎだろ」

「私達も他人事たにんごとじゃないしね……。これで二人のなかが本格的に悪くなったら旦那様に大目玉おおめだまよ」

「全部レストさんが悪い」

「「「うん、うん」」」


 いろんなことが起こっているようでわからないことも多いが、どうやらレストさんがぼこぼこに言われているのは確かだ。


 ちなみにここにレストさんはいない。

 どういうわけか帰ったらケイロンにられ彼の声ともとれる悲鳴ひめいが聞こえ、それ以降いこう見ていない。

 ケイロンが何をしたのかはわからないが動けない状況であるのは確かだ。

 せめて命があることをいのるばかりである。


「ま、大人おとなしく一階で待ってやれや」

「はい」


 こうして俺達は一同いちどう彼女達が降りてくるまで待つことにしたのであった。


 ★


「あらケイロン。その首飾くびかざり……」

「うん。デリクにもらったんだ。でもティナも机の上にあるぬいぐるみは」

「ええ。アンデリックにもらいました」


 ケイロンとセレスかティナは今セレスティナの部屋でおたがいに顔を合わしていた。

 ケイロンがセレスティナの部屋で話そうと言い出した時彼女はひど抵抗ていこうしたがそれもむなしく強行突破きょうこうとっぱ

 どうも強引にせまる時ケイロンの方が強いのは昔かららしい。


「今回の事は直接レストから聞きました。ワタクシもどうやらい上がってしまったようで」

「仕方ないよ。ティナからすれば初めての同年代の男友達だもの。い上がらない方がおかしいよ。でも……」


 種族のせいで同年代の友達が少ない事を知っているケイロン。

 別にそれで彼女をとがめるつもりはなかった。

 だがケイロンは一つ確認しておかなければならない事があった。


「ティナはデリクの事を――好きだよね」

「……」

無言むごん肯定こうていと取るよ? 」

「ええ。そうですね。こういった気持ちは初めてですが……恐らく好きなのでしょう。ドラゴニカ王国の王子でさえこのような気持ちをいだいたことはありません。しかしケイロン。貴方もアンデリックの事が好きなのでは? 」

「——!!! 」

「どうやらワタクシのかん中々なかなかようですね」


 ケイロンがせまるような口調くちょううつむいたセレスティナにめた。

 セレスティナも自身の気持ちを言葉として表され少々困惑こんわくしたものの顔を上げ肯定こうていしたが、今度はケイロンに反撃はんげきする。

 セレスティナとは反対に一瞬何を言われたのか分からず顔を赤くしてうつむ項垂うなだれた。

 恋愛に関してはケイロンの方が初心うぶだったようだ。


「はぁどうしたものでしょうか。ワタクシとしては彼が原因で貴方と言う親友をなくしたくはありません」

「……僕だってそうだよ」

「「はぁ……」」


 二人共どうしたらいいのかわからないような顔で溜息ためいきをついた。

 一先ひとま解決策かいけつさくるために話し合う。しかし結論けつろんは出ない。だんだんと話は違う方向へ行きその矛先ほこさきはアンデリックへと向かっていた。


大体だいたいさ! どう見ても僕は立派りっぱな女性だよ! 何をどう勘違かんちがいしたら男と間違まちがえるのかな?! 」

「それは流石に……。でもそのぶん同じ目線めせんで考えてくれたんでしょう? 」

「それはそうだけど……。ていうかさ! ティナはどうなの、そこらへん。会った翌日よくじつに好きになるなんて普通しないよ! 」

「最初はたんなる興味きょうみだったのですが……。その、龍鱗りゅうりんを『綺麗きれい』、と」

「うう“。確かにあれは卑怯ひきょうだよ」


 アンデリックの事を話していくとどんどんとヒートアップしていき滅多切めったぎりにされていた。

 が、セレスティナにかんしては何も言えまい。

 確かにあって翌日に「恋しました」は早すぎる。周りはドン引きである。

 だがそれは『普通の種族なら』の話であった。


 彼女達龍人族は感情かんじょうたかぶりと共に龍鱗りゅうりんおもてに出ることは多分たぶんにある。

 これは火龍人でも土龍人でもセレスティナのような水龍人でも誰でも、である。

 コントロールできるものなのだがふとした瞬間に出ることもある。

 そしてそこで問題になるのが『うろこ』であった。

 創造神クレア―テのもとに『かれが創造した者』はみな平等びょうどうと言えど種族かん価値観かちかんが事ある事はよくある。

 とりわけ『うろこ』を気味悪きみわるがる者も多い中、アンデリックは意図いとせずそれをめたのであった。


「うん! みんなにやさしいデリクが悪い! 」

「まぁそこにかれたのですが……。どうしましょう」

「まぁ……。正直僕達二人共もらってくれたらいいんだけどね」

「ええそうですね。これからも増えていくような気もしますし……」

「デリクは少し自重じちょうという物をおぼえたほうがい良いと思うな。な!!! 」

「それは言えてますね」


 気味ぎみにケイロンがアンデリックをめ立てセレスティナが現実的なことを言う。

 これがしばらく続いたのだが結局けっきょくの所おたがいにアンデリックをにくめないようで笑い合いながら今後こんごどうするか考えていくのであった。

 そしてケイロンが終わりをげる。


「よし! もうこの話は終わり! 仲直なかなおりの握手あくしゅ!!! 」


 そう言いケイロンは右手を出す。

 すると同じくセレスティナも右手を出し握手あくしゅした。


「ふふふ、昔もこうして仲直なかなおりしてたのを思い出しますね」

「うん。じゃぁ戻ろうか! 」

「ええ、戻りましょう」


 こうして二人共仲直なかなおりしてみんなもとへ戻るのであった。

 その後アンデリックが何かとめ立てられたのは言うまでもない。

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