第九十三話 王都への準備期間 二 ケイロンと買い物 二

散水ウォーター・スプラッシュ!!! 」

「「「め、目がぁぁぁぁ!!! 」」」


 辿たどり着いた先にいた男達の目に向けて水を放つと目に入り、男達は目を抑えながらさけぶ。

 余程よほど痛いのかくるもだえていた。


「デ、デリク?! なんでここに? 」

に合ったか。話しは後だ。ケイロンこっちだ! 」


 くるしんでいる相手をり飛ばしそのすきにケイロンをこちらに引きせ身をまもる。

 態勢たいせいととのえ、戦闘準備に入る。

 

「こ、このクソガキ! 」

「「身体強化!!! 」」


 こうして一方的な蹂躙じゅうりんが始まった。


 ★


 相手をぼこぼこにした後、俺達は大通りに出て憲兵を呼んでもらい引き渡した。

 大勢おおぜいの憲兵達がきた後、状況を伝え捕縛ほばくしてもらう。


「ありがとうございます。彼らにつかまっていたご令嬢れいじょう解放かいほうできそうです」

「こちらも身が危なかったですし」


 そう言い引き渡す。

 どうやらケイロンが始めてじゃないらしい。

 今回他にも令嬢れいじょうつかまっていたようだ。

 多分たぶんにお礼を言われながら彼らは職務しょくむに戻り、俺達も帰路きろくのであった。


 宿への道の途中とちゅう

 俺とケイロンは二人そろって歩いていた。

 俺達のあいだ沈黙ちんもくが流れて……物凄い気まずい!!!


 どうしたらいい?! この雰囲気ふんいき、どうしたらいい? トッキー様教えてくれぇ!!!


「どうして……場所が分かったの? 」


 少し暗い表情で下からのぞいて聞いてくるケイロン。

 う~ん、これは話しておくべきか。


「えっとな。ケイロンがいなくなって探してた時にトッキーが来たんだよ」

「トッキーが? トッキーに僕の場所を聞いたの? 」

「いや違う。突然とつぜんあらわれたと思ったら誘拐ゆうかいの噂が流れてるって教えてくれてな」

「……それで心配してくれたんだ。ありがとう」


 それを聞きこっちを見ているケイロンの顔が少し明るくなった。

 いえない! ケイロン一人で壊滅かいめつ出来ると思ってたなんて言えない!


「で、トッキーが探す方法に『時の大精霊の加護』の使い方を教えてくれたんだ」

「『時の大精霊の加護』の使い方? 」

「そう。ようは小精霊を体に流して『時』を『視る』んだって」

「でも僕はその場所にいなかったよ」

「思い浮かべるだけで『もしも』が視えるらしい。と言うか視えてケイロンが……つかまっている場所の風景ふうけいが分かってそこから辿たどっていったって感じかな」

「そっか。でもすごいね、その力。流石大精霊の加護って感じ」

「確かにすごいんだが……正直あんまり使いたくない」

「何で?! そんなにすごい力なのに! 」

「よく考えてみてくれ。体を――頭の中を小精霊が入り込みあばれるようなものだぞ? あの頭をぐちょぐちょされる感じ……正直二度と味わいたくない」

「うぇ……確かにそれは味わいたくないね」


 想像そうぞうしたのかケイロンがにがい顔をした。

 そんな彼女に渡す物があったのを思い出す。

 ドタバタしていて渡せなかったものだ。


「ほいっと」

「わっ、わっ! なにこれ? 」


 俺が小袋こぶくろをショートポニテの上に置くとケイロンは落としそうになりながら手に取る。

 中身なかみを開けるように催促さいそくすると少し驚いた表情で目の前に持ち上げた。


「銀の指輪! え、でもこれってティナの分じゃ?! 」

「何でそこにセレスが出てくるんだ? 」


 チェーンを通した指輪を見て驚きセレスの物では? と聞いてくる。

 確か午前は俺とセレスの二人きりで買い物に行っていたはずだ。

 さては。


「ついてきていたな」

「うぐっ! だって気になるじゃん」


 やっぱりか。道理どうりでセレスの名前が出てくるわけだ。

 が、どうしてセレスの物と思ったんだ?

 一言ひとこともそんなこと言ってないのに。


「それは……デリクはティナにプレゼントあげてたからてっきり」

「てっきり? 」

「な、何でもない!!! 大体プレゼントをあげるほうがいけないんだよ。せめてみんなぶん買ってくるとかさ」

「あ~それは悪い。だがあれもレストさんに頼まれた『ミッション』の一つだったんだ」

「『ミッション』??? 」


 あわてふためくケイロンにレストさんに頼まれたということを伝える。

 それを聞き、ケイロンはきょとんとした。


「ああ。レストさんに『買い物に連れて行くこと』と『最後にぬいぐるみを買うこと』の二つを頼まれたんだ? 」

「レストさんが? でもなんで……」

「どうもケイロンが突然とつぜん失踪しっそうして落ち込んでたらしいよ、セレスは。レストさんいわく「他の者にはかしていませんがお嬢様は大のぬいぐるみ好き。この町に来た記念きねんに一つ見繕みつくろっていただけたらと」と言われて指定のぬいぐるみ屋にいったんだ」

「で買ったと? 」

「そう」

「ふ~ん」


 事の流れを伝えると納得なっとくしたような顔をする。

 が、どこかジト目でこっちを見ている。何故なぜだ……。


「じゃぁこれは? 」


 そう言い俺が渡したチェーンを向ける。


「これは別口べつくちだよ。ほらいつもお世話になっておりますので」

「何その敬語けいご。気持ち悪っ! 」

「気持ち悪いとは何だ、気持ち悪いとは。だがまぁ感謝してるってことだ」

「……そっ。じゃぁこれ付けて」

「はぃ? 」


 ほら、とあごを上にあげ、けるようにうながす。

 ちょ、ここ大通り! それにつけるならもっといいやつの方が良いんじゃないか?

 困惑こんわくしていると「早く早く」と急かしてくる。


「……」


 仕方なく渡されたチェーンをふるえる手でケイロンの首にかけた。

 それを確認したのか胸元むなもとに光る指輪を見て満足まんぞくそうな顔をする。


「じゃ、じゃぁ帰ろうか」

「そうだね。帰ろう。それにしてもセレスだって? なんかしたしげだね」

「セレスかティナかどちらかで呼べと言われたんだ。小市民しょうしみんな俺に拒否権きょひけんがあるとでも? 」

「はは。確かに。いいよ。今回は許してあげる」


 上機嫌なケイロンを引き連れ俺達は帰路きろくのであった。

 なおその後宿『銀狼』からレストの物と思われる悲鳴ひめいが聞こえたとか。


 ★


 時間は少し進みドラグ伯爵家別荘べっそう


みなさん! 早くしなさい! 今回のお客様は失礼があってはいけません! 」

「「「イエス。マム! 」」」

「いいですか! ほこり一つでも残したら旦那様の顔にどろる物と思いなさい! 」

「「「はい!!! メイド長!!! 」」」


 白と黒のベーシックなメイド服を着た女性達が必死ひっし客人きゃくじんまねき入れる準備をしていた。

 突然とつぜんとある貴族が直接来るという手紙を出してきたのだ。普通の貴族ならばここまでのさわぎにならない。かなりの高位貴族である。

 必死ひっしになりまねき入れる準備ができたと思えば使用人が来訪らいほうを伝えた。


「先代アース公爵様のご来訪らいほうです! 」

「「「ようこそ。ドラグ伯爵家へ」」」


 メイド達が並び、挨拶あいさつと共に一斉いっせいに頭を下げた。全員のひたいに汗がにじむ。

 主家しゅけよりもはるかに上位の貴族がこの別荘べっそうに来るなどほとんどないため緊張しているのだ。


 開いたとびらの中央を一人の老齢ろうれいな男性と隣にいる小さな女の子が進む。

 その二人は執事長の誘導ゆうどうもと、先日この別荘べっそう到着とうちゃくしたばかりのドラグ伯が待ち受ける応接室へ向かった。

 そして開けられたとびらの向こうを行き、挨拶あいさつした。


「ほほほ、今回は本当に助かりましたぞ」

「我が娘がやくに立ち何よりでございます」

「流石は王立騎士魔法学園アカデミーで女王と呼ばれた方ですな」

「いやはや、娘のお転婆てんばには困っている物で……」


 アンデリックがケイロンを助けたことで間接的に助けられたのはアース公爵家令嬢れいじょうだった。

 どうも単独たんどく組織でなく複数組織が関与かんよしていたらしく捕縛ほばくと同時にアース公爵家とドラグ伯爵家の騎士団がそれぞれの拠点に突入とつにゅうしそれら犯罪組織が一掃いっそうされた。

 と、言っても投入とうにゅうできた数はそれほど多くなかった。何せ双方そうほうとも王都へ行く途中とちゅうであり持ち前の戦力はかぎられているからだ。

 そのためこの二家の騎士団の強さが良くわかる。

 きっかけは何であれとらわれの子女しじょを助けたことになるのだが、本人達は知るよしもない。


「孫が助かって本当に何よりじゃ。出来れば直接会って話したいのじゃが……」

近々ちかぢかエレク王子殿下でんか誕生たんじょうパーティーに娘——ケイロンが出席しゅっせきし、その供としてアンデリックが随行ずいこうする予定でございます。王都でゆっくりとお話されたら如何いかがかと」

「早めにお礼を言いたいところじゃが……。そうじゃの都合つごうというものがあるじゃろ。よし分かった。また王都で合おう」


 そう言い先代アース公爵とその孫娘は別荘べっそうを出ていくのであった。

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