第六十六話 スミナの奮闘 三 神聖魔法と刻印魔法

 翌日スミナはライカに連れられ食堂に来ていた。

 ライカが言うにはここに神聖魔法を教えてくれる人が来るらしい。

 スミナとライカは座り飲み物を頼み、待っている。


「なぁライカ。ここに来るのか? 神聖魔法を教えてくれる人ってのは」

「ああ。ていっても俺の仲間なんだがな」


 そう聞きスミナは少し心躍こころおどらせていた。

 これでも職人。通常の魔法とはまった毛色けいろことなる神聖魔法を刻印こくいんできるとなればこの上なく嬉しいのだ。

 新しい技術にわくわくしながらかわいた口をうるおし、待つ。


 少しするとさわがしい食堂しょくどうに新しい客が入り、ぞろぞろと数人の冒険者がスミナとライカの方へやってきた。


「おう、ライカ。そっちのがこの前言ってた職人か? 」

「聞いていたよりも可愛かわいらしいのね。スミナちゃん」

「……」


 剣士風の男性がいい、神官風の女性がスミナを見つめる。魔法使い風の女性はどうやら無口なようだ。何も話さない。


「俺はスミナだ! よろしくな!!! 」

「おお、元気だな。俺はモリト。ま、見ての通り剣士だ」

「私はシスよ、スミナちゃん。魔法使いよ」

「……マジョルカ」

「で、俺がスミナも知っての通りライカだ。パーティー名は『赤き宝石ルビア』。再度よろしく~」


 スミナの自己紹介を皮切かわきりに各々おのおのが自己紹介を始めた。

 茶色くれ下がった大きな耳と少しれている尻尾しっぽを持つ犬獣人のモリトに少し皮膚が浅黒あさぐろく魔族の特徴である魔力を伴ったつのを持つ神官のシス、そして無口むくちでスミナよりも少しばかし背丈せたけが高いが平均的な身長よりもかなり低い人族のマジョルカ、そしておなじみのドワーフ族のライカ。


 パーティー名は『赤き宝石ルビア』であるが、男一人に女三人。本人達のあずかり知らない所で彼らはハーレムパーティーと呼ばれていたりする。


「ん? どうしたんだ? 」

「……」


 自己紹介も終え、本題ほんだいに入ろうとしたらマジョルカがスタスタスタとスミナの方へ向かって行った。

 いきなりの事で戸惑とまどっているとその右手を上げ頭と水平すいへいにし、自分の頭とスミナの頭を行き来させる。

 そしてマジョルカの頭の方が少し高かったためかわずかにその無表情がゆるみ、そして元に位置に帰って行った。


「な、何がしたかったんだ? 」

「あ~わりぃ。こいつ自分の身長を気にしててな」

「ごめんなさいね。自分と同じくらいの身長の人を見つけると所かまわずその人の所に行ってしまうくせがあるの」

「この前なんか貴族様の娘にズカズカ近寄ちかよった時はヒヤッとしたな。わりぃ、不快ふかいにさせたか? 」

「いやそんなことないが……。まぁいいか」


 何を考えているのかまったく分からない奴だ、と思いながら無表情なマジョルカを見た。

 感情を表に出さない点ではエルベルとはまったく逆のタイプだ。

 スミナが混乱しているとシスと呼ばれた女神官が彼女の方に目を向けた。


「本当はもっとお話したいのだけど時間は有限ゆうげんだから早速さっそく本題ほんだいね」

「よろしく頼む! 」

「ええ。確か神聖魔法の術式や魔法陣を教えて欲しいということでよかったかしら? 」

「そうだ! 」


 それを聞き持っている錫杖しゃくじょうを持ち直して少しこま気味ぎみに言う。


「神聖魔法についてはどこまで知ってるの? 」

「ん~そうだな。『神々の奇跡の模倣もほう』ってことくらいだな」

「そう。ならもう少しみ込んだお話をしましょう」

「違うのか? 」

「いえ、それで合ってるわよ。いうなれば補足ほそくよ」


 一般的にクレア教の教会で教えられていることとは少しことなるようだ。

 スミナは興味深そうに耳をかたむける。


「コホン。これは別に説法せっぽうでもなんでもないのだけど、恐らく魔法陣や術式を教えただけでは発動しないわよ。神聖魔法の刻印こくいん魔法は」

「「え?! 」」


 シスの言葉に驚くドワーフ二人。

 なら連れてきたのに意味がなくなってしまう。

 彼女達の誤解ごかいに気が付いたのか更に補足ほそくする。


「神聖魔法はね。祈りの魔法と呼ばれているの」

「「祈りの魔法?」」


 祈りの魔法と言うのはスミナにもわかる。

 信仰をかてに使うのが神聖魔法というものだからだ。

 詳しく聞くとあっさりとシスが答えた。


「なんて言ったらいいのかしら。ようは信仰にしろ何にしろ強い想いを込めて発動させる魔法ということよ。信仰は日常にあふれているからその影響で信仰の魔法と呼ばれているけれど。だからね、魔法陣と術式を教えてもいいのだけどきちんと想い祈りを込めないと発動しないと思うの」


 憶測おくそくだけどね、とめくくりシスは口を閉じた。

 それを聞き考える。

 スミナもクレア教だ。

 だが神聖魔法が使えるまでに信仰があついわけではない。むしろどちらかというと精霊の方を信じている。

 使えないかもしれないのか、と少し落胆らくたんしたと共に「いやしかしやってみる価値かちはある」と思いシスを決意けついちた眼で見上みあげる。


是非ぜひ教えてくれ! やってみる!!! 」

「いいわよ。教えるわ。だけど一つ約束、というよりお願いがあるのだけどいいかしら? 」

「なんだ? 金か? 報酬ほうしゅうは十分にはらうつもりだぞ? 」

「いえ違うの。もし、もしできたとしても術式や魔法陣を公開したり、大量生産しないで欲しいのよ……」

「どういうことだ? 」

護符タリスマンって知ってる? 」


 それを聞きマジョルカ以外がシスの方を見る。


「ああ、教会で売ってるやつだろ? 」

「弱いモンスター相手する時やくに立ったな」

「店にはお守りとしておいてるな。それがどうしたんだ? 」

「ええっとね。今から教える術式や魔法陣はその護符タリスマンに使われている物なの。だから大量生産されてしまうと教会の資金源の一つがなくなってしまうのよ」


 苦笑にがわらいを浮かべながらそう言うシス。

 無論むろん教会——特に多数派であるクレア教は他にも多数の資金源を有している。

 だがそのうちの一つである護符タリスマンがなくなるのは痛い。

 が、このふだ自体そこまで高価でなく、また一個人が生産したところでその数は知れている。問題になるのはこれを用いた悪徳商法や邪教への勧誘かんゆうだ。

 護符タリスマンの販売は実利じつりと共に布教ふきょうの意味もある為情報の拡散を抑えたいというシスの思いがそこにはあった。


「了解だ! 」

「よかったわ。ライカにはいつもお世話になってるし、ことわられたらどうしようかと思ってたわ」

「このくらいお安い御用ごようだ! 」

「ふふふ、なら教えるわね。まず――」


 笑顔でシスのみ、答えるスミナ。

 少し困り顔だった彼女が元気を取り戻し、魔法陣や術式の伝授でんじゅする。

 紙やインクに書き込んだスミナは報酬をはらい、早速店に戻り早速作業に入るのであった。

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