第六十五話 スミナの奮闘 二 スミナとライカ

「ったく父ちゃんめ。店番みせばん押し付けてどこか行きやがって……」


 武器防具店『ドルゴ』の受付でスミナが一人つぶやいた。

 受付台には工房こうぼうに置いてあったペンダントが一つある。

 これを見ながら何を作ろうか考えているのだ。


「何作ろうか。ん~」


 ペンダントをちゅうにかざし、考える。

 指輪、ペンダント、腕輪……色々と頭をよぎるが、しっくりくるものがない。


「指輪は……勘違いされそうだし、ペンダントは……」


 アンデリックがペンダントをしている姿を思い出し顔をゆるめた。


「似合わねぇな。なら腕輪か」


 どんどんと方向性を決めていく。


「腕輪……。何なら実用的な物がいいよな。冒険者、か。なら刻印こくいんで魔法を付与して……」


 スミナは刻印こくいんで魔法をきざむことが出来る。


 刻印こくいん魔法は術式や魔法陣等を対象物にきざむことにより効力を発揮はっきするのだが使い手は多くない。

 何故なぜならば小さくきざまないといけない為相当そうとう技量ぎりょうと集中力、そしてきざさいの魔力が必要となるからだ。

 加えて大量の時間をろうして作ったとしても必ずしも売れるわけではない。


 それならば剣のような武器や防具を作った方がいいと考えるのは必然ひつぜん

 刻印こくいん魔法を使う者達もそれを主軸しゅじくとして商売をおこなっている者は少なく、精々せいぜい趣味しゅみ程度である。

 ようするに今のスミナ状態。


 ペンダントをかざしながら考えているとカランカランと入店にゅうてんの音がした。


「お、いらっしゃい」

「スミナじゃねぇか? 」


 入店にゅうてん合図あいずと共に大盾——もとい大盾を背負せおい体が隠れているライカだ。

 いつもならドルゴがいる場所にスミナがいることに驚きながらもてくてくと受付の方へ歩いて行く。


「ライカか、どうした今日は点検てんけんの日じゃなかったと思うんだが……」

「それがよぉ。この前の依頼で偶然ぐうぜんタイガーウルフに出くわしてよ。それで傷がいっちまったんだ」


 よいしょ、と盾を受付に置きそれにスミナが周り込んで様子を見る。


「こりゃこっぴどくやられたな」

「ああ、ヒヤッとしたぜ。そこらへんの普通の大盾だったら体ごとバッサリだ」

「こいつも主人しゅじんを守れて本望ほんもうだろうよ」

「俺もこいつに感謝だな」


 傷を見ながらそのひどさを知る。

 かなり大きな爪痕つめあとだ。

 良く破損はそんしなかったと思えるほどに。


「そういや、ここらへんにいなかったよな。タイガーウルフ」

「あ~護衛依頼で遠くに行ってた時にやられた」

「へぇ。災難さいなんだったな……。確かタイガーウルフはBランクか? 」

「あぁ。ま、個々の強さは名前ほどじゃねぇ。精々Cランクなんだがれを作って連携してくるからな。それでBだ」


 ライカの説明に「そうか」と頷きながらも傷のひどさに納得なっとくのいかないスミナ。

 だから何があったのか聞いてみることに。


「しっかしよ。この傷はCランクがつけれるほどのもんじゃねぇぞ? 」

何事なにごとにも例外ってのはあるってことよ」

「どういうことだ? 」

「そのれのボスが一回りどころか二回りほどデカくてよ。そいつの一撃でやられたんだ」

「ほんと悪運あくうんがつえぇな」

め言葉として受け取ってとくよ。素材もたっぷりだ」

「はは、商売根性こんじょうたくましいねぇ」


 スミナは軽口かるぐちたたきながらも傷をさわり、修繕しゅうぜんか買いえか考えながら様子を見る。


「盾として致命傷ちめいしょうは負ってないようだな……」

「ならまだ使えるか? なんだかんだでこいつに愛着あいちゃくがあるんだよ」

「父ちゃんなら治せるだろうよ。だけど治すのに時間がかかる。ちょっと待ってな、ライカの大盾は予備よびがあったはずだ」


 すまねぇ、と言う声をに奥へ盾を取りに行った。


 ライカの盾を持ってきて彼女に渡そうとしていたらライカが興味深そうに受付台の上をジャンプしながらのぞいている。

 それを発見したスミナが「何してんだ? 」と聞くと振り返った。


「スミナは恋人でもできたのか? 」

「……なんでそうなる」


 ひたいに手をやりながら聞く。

 何をどうやったらそう言う解釈かいしゃくになるんだ、と思いながらライカに大盾を渡し、向き直す。


「いやだってペンダントがあるからよ。恋人にもらったか、渡すかのどっちかじゃないのか? 」

「ちげぇーよ。それは昔母ちゃんと作ったやつだ」

「なんだつまんねぇ。恋人ができたなら茶化ちゃかしてやろうと思ったのによ」


 茶化ちゃかすつもりだったのかよ、と少しあきれて受付の椅子にジャンプしすわった。


「で、それ見て感傷かんしょうにでもひたってたのか? 」

「ちげぇよ。息抜きにもう一回作ってみようと思っただけだ」


 それを聞きライカは目を見開いた。

 昔アクセサリーやマジックアイテムを作っていたのは知っていたが、例え息抜きとしてもやるのかと。


「どういう風のき回しだ? スミナがまた始めるってのはよ」

「別にいいだろ。ただ……」

「ただ? 」

「この前入れてくれそうな冒険者達に「息抜きに作ってみたら」と言われたんだ。ま、確かに息抜きは必要だ。将来のメンバーにいわれちゃぁ仕方ねぇってもんだよ」


 冒険者、という言葉に引っかかったライカは更に聞く。


「へぇどんな冒険者パーティーなんだ? 名前は? 」

「そういや……パーティー名は言ってなかったな。名前はアンデリックにケイロン、エルベルとかいう駄乳エルフだったな」


 思い出すかのようにあごに手をやり、答えた。


「アンデリックとケイロン? その名前は確か、か? 」

「ん? そうだがなんか問題のある奴らなのか? 」

「エルベルってのは知らねぇがその二人は今期待の新人だぜ? 」

「ほう! やっぱ俺のかんは外れてなかったんだな!!! 」


 そう言い身を乗り出し喜ぶスミナ。

 ライカはいきおあまるその様子に若干じゃっかん押されながらも金色の瞳をのぞき込む。

 アンデリック達の情報が少しでも欲しいのだろう、「で、で」と更に情報を催促さいそくした。


「で、あいつらなんで期待きたいの新人なんだ? 」

「あぁこの前ゴブリン討伐の話をしただろ? 」

「ああ、それが? 」

「実はそん時に出たデビルグリズリーを倒したんだ。Fランクだというのに」

「すげー!!! 」

「ま、依頼達成数とかの問題があるからランクを最速でけ上がってもまだDランクには行けねぇだろうがよ」


 ライカの話を聞いていないのか目をかがやかせながらもぞもぞと動くスミナ。


「こうしちゃいられねぇ! 早速工房こうぼうに! 」

「そいつらに「息抜きをしたら」と言われたんだろ? 少し落ち着け」

「おおっとそうだった。そうだった。だがよ、早く合流ごうりゅうしてぇぇぇ」


 くやし涙をながしながらもうなるスミナ。

 こりゃどうしたものかと考え込むライカ。

 自分が言ったこととはいえ、彼女に火をつけてしまったことに少しばかし後悔こうかいしている。

 せっかく働きぎなスミナを休ませることが出来たかもしれないのに、と。


「そういや何作るか思いついたのか? 」

「今の所腕輪だな。刻印こくいんきざんだ」

「そういやスミナは使えたな。刻印こくいん魔法」

「まぁ趣味しゅみ程度だがな。何を刻印こくいんしようか考えてたところだ……」


 話をアクセサリーに戻すことが出来ほっとするライカだがここで一つ思いついた。


「なら神聖魔法を刻印こくいんしないか? 」

「え? 神聖魔法??? 」

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