第六十二話 珍妙な依頼と珍しい種族

 朝昼と二つ程Fランクの依頼を受け俺達はヘレンさんのいる精肉店へ来ていた。


 今はすでに夕方ゆうがたである。

 どうしてこの時間帯に精肉店にいるのかと言うと依頼書に時間が指定されていたからだ。


 よってこの時間までひまになってしまった。

 今日はまずパーティー名とそのメンバーの登録を行い、残っているFランクの依頼を受けた。

 パーティー登録はすぐに終わり、依頼へと。

 エルベルの加入により一日にこなせる依頼量も増えたので軽くこなせるものをませて精肉店に。

 受け取る金額も三等分なのでちょうどいい。


 精肉店の裏口から来たことを伝え、解体所の方で待っているように指示が飛ぶ。

 そして解体所で待っているとそのとびらが開いた。


「おう今日も来てくれたか坊主達」

「「「よろしくお願いします! ミートフォークさん」」」

「こっちもな! ハハハ! 」


 豪快ごうかいに笑いながらこちらにってくるがとびらの向こうから夕陽ゆうひぼぞき、スキンヘッドの上に乗っかっている。


「「「—— 」」」


 俺は笑いそうなのをこらえながら少し横を見る。

 ケイロンは顔を上げないように我慢がまんしているようだ。少し肩が震えている。

 分かる、わかるぞその気持ち。今顔を上げたらどうなってしまうか想像にかたくない。


 そして反対方向を見るとエルベルは意外にもミートフォークさんの顔を直視ちょくししていた。

 笑わずに、だ。

 いつもならすぐにでも爆笑しそうなエルベルが直視ちょくししている!

 彼女の感性かんせいはどうなっているんだ?


「ミートフォークさん。依頼に会った【血抜きの補助】と言うのはどういった物でしょうか? 」


 少し顔をずらした状態で俺はミートフォークさんに聞く。


「ああ、実際にブツが来た方が説明が早い。少し待ってろ」


 開けたとびらめずにそう言った。

 このまま俺達は待たないといけないのか。

 どんどんとミートフォークさんの頭に太陽がしずんで行っている。

 笑いこけそうだ。

 だめだ! 我慢がまんだ!


 そんなことを思っているとカタカタカタとリアカーを誰かが引く音が開けたとびらの向こう側からしてきた。

 そしてこのとびら付近で止まる。


「ミートフォーク殿、持ってきましたぞ」

「おう。今行く」


 そう言いしずみかけている太陽の方向へ向かう。

 一旦いったんそこから離れると俺達は『笑い』から解放かいほうされ、少しいきをつくことが出来た。


「誰が来たんだろうね」

「依頼主だろうけど……。明日のぶん? 」

「明日はどんな依頼をするんだ! 」

「いや、いまは今日の依頼の事を話そう」


 少ししゅんとなったエルベルを放っておき、続ける。


「少し老齢ろうれいな人の声だったね」

「でもリアカーを引く音は大きかったぞ? 」

「物凄い大きな音だったな! 」

「ああ。だからかなりの量なのが分かる」

「意外と力持ちなおじいちゃん? 」

「まるでうちのじいちゃんだな」

「デリクのじいちゃんは力持ちなのか?! 」

「力持ち、というかいろんな意味で規格外きかくがいと言うか」


 そんな他愛たあいない話をしているとミートフォークさんが一人の男性を連れて解体所の中に入って来た。


「こっちに運んでくれ」

「了解しましたぞ! おや、見知らぬお方がいらっしゃいますな。新しい従業員さんですかな? 」

「いや、今日は冒険者ギルドから来てくれた冒険者だ。いつも世話せわになってるんだが今日も手伝ってくれる」

「ほほほ、そうですか、そうですか。ではご挨拶あいさつしなければなりませぬな」


 目の前の長身の燕尾服えんびふくを着た男性は背筋せすじばしくつをカツン! とならした。


「私はデイ・ウォーカーともうします。以後いごよろしくお願いいたしますぞ! 」

「ウォーカー男爵?! 」


 ケイロンが吃驚びっくりしたような顔をして、さけぶように言った。

 貴族?!

 てか、ケイロン! 失礼だぞ!!!

 俺はドバっと冷や汗を流し、ひじ小突こづく。


「おや、どこかでお会いに……あ」

「「え??? 」」

「坊主、男爵と知り合いなのか? 」

「え、えーっと」


 ミートフォークさんの追及ついきゅうにしどろもどろになっているケイロン。

 ウォーカーさんも何やら少しこまり顔だ。

 二人は知り合いなのか?


「あ、そうだ。昔、ウォーカー男爵の商会で買い物をしたことがあったんだよ。その時に偶然ぐうぜん会って」

「……そ、そ、そ、そうですとも。確かめずらしいお客さんがいると思い、声をかけてですね」

「あんりゃぁ? 確か男爵の店は『血液貯金ブラッド・バンク』じゃなかったか? どうしてそこに坊主が買い物してんだ? 」

「「……」」


 ミートフォークさんが更に言うと二人共ドキリとする。

 血液貯金ブラッド・バンク?

 何だ、そのあやしそうな店は!


「い、いや。系列けいれつ店。系列けいれつ店ですぞ! 」

「そうそう! 雑貨屋のようなとこ! 」

「なぁ仕事やらないのか? 」


 必死ひっしに何かかくそうとしている二人との会話に突然とつぜんエルベルの正論せいろんぶ。

 いつのにか太陽が落ちている。

 エルベルの言う通りだ、早くしないと!

 ド正論せいろんなんだがエルベルに言われると何かくやしい!!!


「そうだな。始めよう」

「では、よろしくお願いします」


 ミートフォークさんが開始の合図あいずをするとウォーカー男爵が外に出てリアカーを持ってきた。

 リアカーには大量で多種多様な動物が乗せられている。

 動いていないから仕留しとめてはいるんだろうが、ぱっと傷跡きずあとがない。

 どういうことだ?


「この動物達は私が昼からこの時間帯のあいだ仕留しとめたものになります。店主、彼らに説明は? 」

「いや、まだだ。男爵の口から言った方が早いと思っていってねぇ」


 ミートフォークさんの方を向いていたが「そうですか」と一言口にして再度こちらを見た。


「私先ほどミートフォーク店主の話にあった通り『血液貯金ブラッド・バンク』なるものを経営しております。そこでは『肉』ではなく『血』を取りあつかっており、こうして時折ときおり精肉店の方々かたがたに血抜きを依頼しているのです」


 一呼吸ひとこきゅう開けて、再度口を開く。


「私こう見えて吸血鬼族でございまして、主に同胞どうほう——吸血鬼族に向けて血の販売はんばいを行っております。我々にとって『血』とは『調味料ちょうみりょう』のようなものなので」


 そう言い一礼いちれいして区切くぎった。


「ま、色々いろいろと気になる事はあるだろうが後。仕事だ! 」


 ミートフォークさんの一言で俺達は仕事に取りかった。


 ★


 ふぅ、まさかですぞ?!

 なんであの御方おかたのご息女そくじょがここにいるのですか? それに冒険者をしているなど初めて聞きましたぞ?


 そう思いながらデイ・ウォーカーは血抜き作業をしているアンデリック達を見る。

 ケイロンは作業に参加していない。こういった作業は苦手なのだ。


「しかし……」

「ウォーカー男爵」

「こ、これはっ! 」


 ケイロンが近寄ちかよってきたら男爵が大きな声を上げようとしたのでそれを止めた。

 そしてとても、とても小さな声でウォーカーはケイロンにたずねた。


「これは一体……? 」

「あ~実はね」


 そう言いケイロンはこときを話す。


「成程、さぞご苦労くろうを。ならば社交界しゃこうかいのあのうわさうそだったのですね」

「多分今頃いまごろ父上がなぐり込みに行ってると思う」


 少し考え込むウォーカー男爵にケイロンが更に小さな声で「今日の事は秘密で頼むよ」と言いアンデリック達の元へ戻っていった。


「秘密、と言われましても恐らくすぐにばれると思いますぞ? 」


 ウォーカー男爵はそう独りちた。

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