第五十八話 休日 三 見違えるエルベル

見違みちがえたな」

「どうだ!!! ふふん! 」

「最後に店員さんにたのまれたのが印象いんしょう的だったけどね」


 商業区の大通りを三人で通りながら、俺とケイロンは服屋での出来事を思い返した。


 ★


 露出ろしゅつ度の高い服から一転いってん、店員さんの手によりエルベルは変身した。

 そう、変身である。

 もとがいいせいなのか、さらにその美貌びぼう際立きわだった。


「すげーな。流石熟練じゅくれんだ」

「ありがとうございます」

「でも良かったのですか? グローブとロングブーツ」

かまいません。もう使いませんし……。これ以上エルフ族のイメージを壊されても困るのでせめて……せめて見栄みばえだけでもっ! 」


 俺達は店員エルフにお礼を言いながら、見違みちがえた自分の恰好かっこうに鏡の前で胸をるエルベルを見た。


「コホン。一応の説明を」

「「よろしくお願いします」」

「と、言っても一般いっぱん流通りゅうつうしているものになります。黒のパンストにホットパンツ、黒のインナーに緑のジャケット。そして茶色い厚手あつでのグローブにかわのロングブーツ。まぁこのような感じになります」

「何から何まですみません」

「鏡を見てないでエルベルもお礼を言わないと」

「ありがとう!!! 」

「いえ、これが仕事ですから」


 エリベルが鏡から振り向き感謝の言葉をげる。

 店員さんは平常心をたもったまま言うが少し嬉しそうである。

 誰しもめられるのはうれしいのだろう。


 初めて聞くような単語もあるが、これが今の流行はやりなのだろう。

 が、それにしても困った。


「しかし……申し訳ありません。ここにある服ではこれが限界で」

「仕方ないですよ。それにこれだけの種類・サイズをそろえているこのお店でダメなら他の店でもダメだと思います」

「オーダーメイドなら何とかなるかもしれないのですが」


 店員さんの言葉はうれしいがこれ以上の出費しゅっぴ、と言うよりもエルベルの財布さいふがまずいことになる。

 すでに俺はしていたお金は返してもらった。それでもあまりあるお金だったのだがこの服でかなり消費したはずだ。

 当面とうめんはこれで行ってもらおう。本人には悪いが。いや本人は気にした様子はないな。


「大きいね……」

「あぁ……。まさかこうなるとは思ってなかった」

見栄みばえだけを考えてこうなることを想像しなかった自分がうらめしいです」

「黒のインナーが体のラインを強調きょうちょうしてるね。特に巨大なあれを」

「ほっそりとした足もその原因の一つです」

「伸びきった物を、返すわけにはいきませんしね……」


 こちらへの興味をなくし鏡の前で再度ポーズをとっているエルベル。

 合うサイズのものよりも少し大きめの服を選んでこれだ。これ以上になるとぶかぶかすぎて着れない。

 ある意味眼福がんぷく、ある意味地獄。

 なやましい。


「エルベルを、よろしくお願いします」

「ええ、頑張がんばって抑えます」

「ダメだったら……許してください」

「可能なかぎり……可能なかぎり抑えてください。お願いします!」


 そう頭を下げられながら俺達は服屋を出ていった。


 ★


「あの必死ひっしさ。何かあったのは間違いないが……。なにがあったんだろう」

「わからな、あっ!!! 」

「ケイロン……なにか知ってるのか? 知ってるなら教えてくれ! 」

「む、ケイロンは同胞どうほうの事を知ってるのか?! 」

「い、いやぁ。うわさだよ、うわさ。それに確証かくしょうないし……」


 せまる俺達の目から視線しせんをずらし、言いずらそうに話をずらそうとする。

 が、それをゆるす俺ではない。


「なぁケイロン。教えてくれよ。今度さ。お金に余裕よゆうが出来たらどこか遊びに連れてってやるからよ」

「遊びに行くのか?! 俺も連れてけ! 」

「エルベルは少し黙ってて」

「む……」

「頼むよ」

「わかった、わかったから近づきすぎ! 」

「おおっと悪い」


 頼み込むのにせまぎたようだ。

 顔を赤くし慌てるケイロンから離れる。

 正直実家に送るお金をめたら少し他の町に行ってみたいという俺の下心したごころ内緒ないしょだ。

 ここ最近変なことばかりに巻き込まれているような気もするからな。休んでもばちたらないだろう。

 それを置いておき話を聞くことに。


「コホン。うわさだよ? この国は色々な種族でっているじゃない? 」

「らしいな」

「そうなのか?!」

「そ、そうなんだ。で、勿論エルフ族もその中にいるみたいなんだ。『タウ』子爵家っていう魔法使いの家系なんだけど……」


 それだろう……。

 絶対にそれだろう。


「なんでも優秀ゆうしゅうな魔法使いを輩出はいしゅつする一方いっぽうで少し……おかしな人がいるらしく……」

「確定だな」

「貴族になった同胞どうほうがいるのか! すげー!!! 」


 引きった顔のケイロンをともない俺達は商業ギルドに着いたのであった。


 エルベルのこともあるがケイロンもかなり注目ちゅうもくびる存在である。

 彼といつも一緒におり、はしゃいでいるとなればアンデリックにも目が行くのは必然ひつぜんであろう。

 そして自分達が注目ちゅうもくされているのに気付きづかず大通りで話す集団をはなれた所から見るメイド服を着た影が一つあったことに誰も気づかなかった。


 ★


 商業ギルドはあっさりと終わった。

 いや、いちいち興奮こうふんしっぱなしで周りの注目ちゅうもく一遍いっぺんびながらではあるがわりとスムーズに口座こうざを作り、銀行カードを受け取ることが出来た。


 そして今俺達は武器を持ってドルゴの方へ向かっている。


「やっぱりお昼ぎたね」

「あらかじめ「お昼は大丈夫です」と言ってて良かった」

「この方向であってるのか? 」


 昼間にもかかわらず薄暗くなっていく道に疑問をおぼえたのかエルベルが聞いてくる。


「あってるよ」

「僕達も最初は迷ったけどね」

「ちょっ! 変なこと言うなよ」

「いいじゃない。別に隠すほどのものでもないし」

「そうだが……」

「ほらほら、もうすぐだよ」


 話しているあいだ見知みしった開けた場所に出た。

 わずもがな、大きなハンマーを店の上に置いてある煉瓦レンガ状の建物——武器防具店『ドルゴ』であった。


「おう来たか!」

「お世話せわになります」

「おひさしぶりです」

「今日は武器の手入ていれか? ん? そっちのエルフは初めてだな。俺はこの店の店主でドルゴだ。よろしくなっ! 」

「オレはエルベル! よろしく!!! 」


 建物に入った先にドルゴさんがいたので挨拶あいさつをする。

 エルベルは初めてだったのでドルゴさんと自己紹介。


「ちょっと待ってな」


 ドルゴさんは手に持っている武器をそれぞれ整理していた。

 長剣ロングソードに大盾……。

 本当になんでも作れそうな人だな。


「大きな大盾ですね」

「あぁこれか。常連客じょうれんきゃく予備よびだ」


 ドルゴさんの身長よりも頭二つくら大きい。

 魔法でも使っているのだろう。それを軽々かるがると持ち上げ裏の方へもっていく。

 なるほど、あまり触れない方が良さそうだ。


「お、来たな、アンデリック!!! 俺をパーティーに入れる準備は出来たか?! 」


 後ろからするその声に反応し振り返るとそこにはケイロンよりも背の低いドワーフ族の女性——スミナがいた。

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