種族の輪 《サークル》 ～精霊術師は今日も巻き込まれる～

第五十九話 休日 四 邂逅するエルフとドワーフ 一

「む、見慣（みな）れないエルフだな? 客か? 」

「オレはアンデリックとケイロンのパーティーの一人! エルベルだ! 」

「な!!! ワタシよりもこのエルフをとったのか?! 」

「『この』とはなんだ『この』とは! オレは普通に入っただけだ! このちびっこドワーフ! 」

「なんだとこの駄乳（だにゅう）エルフ!!! 」

　スミナが見えるなりエルベルが喧嘩（けんか）を始めてしまった。

　あれ……エルフとドワーフって仲（なか）が悪かったけ?

「なぁケイロン。エルフとドワーフって仲（なか）悪かったけ? 」

「いや、そんなことないけど……。むしろ長命種同士仲（なか）は良かったと思うんだけど」

「あの感じだと仲（なか）が悪そうに見えるが」

「多分僕達のパーティーにスミナよりも先にエルベルが入ったからじゃないかな? 」

　ケイロンの指摘（してき）に納得（なっとく）した。

　自分の方が先だったのにってやつか。

　仕方ない状況だったとはいえ申（もう）し訳（わけ）ない気持ちがわき上がる。

「なぁお前さん達、あのエルフ……エルベルってのはどうしたんだ? 今まであったエルフ族となんか違うんだが……」

「『タウの森のエルフ』と言えばわかりますか? 」

「あぁあのヤバい奴らか。そいつらがどうしたんだ? 」

「エルベルはそのタウの森の出身なんです」

「あぁ……なるほど。そう言うことか。確かにあの連中は能力は高いんだが……お前さん達も物好（ものず）きだな」

「「いえ、俺 (僕)達は押（お）し付けられただけなんです……」」

　スミナとエルベルが口論（こうろん）をしている中、俺はドルゴさんに経緯（けいい）を話した。

　それを聞き同情（どうじょう）の視線（しせん）を向けてくる。

　やめてくれ。その顔はやめてくれ。悲しい気持ちになる。

「お前さん達。苦労（くろう）したんだな。これからも苦労（くろう）するだろうが、諦（あきら）めろ。これも運が悪かったと思って前に進みな」

　そう言いぽんぽんと俺の腰を叩くドルゴさん。

「パーティーに入るのに順番は関係ないだろ! 」

「あるね! ワタシが最初に声をかけたんだ。ワタシの方が最初に入るのが筋（すじ）ってもんだろ! 」

「おかしいだろその理論（りろん）。先に入った方が先だ! それに声をかけた時に何で入らなかったんだ!!! 」

「入れなかったんだよ! 父ちゃんの反対でな! 」

　スミナとエルベルがその一言で一気（いっき）にドルゴさんの方を向いた。

「……丁度（ちょうど）審査員（しんさいん）もいることだし試験をやるぞ」

「おうよ!!! 」

　スミナとエルベルの威圧（いあつ）を真（ま）に受け少したじろぎながらも「外に出ろ」と言い俺達を先導（せんどう）した。

「それでいいんだな? 」

「ああ、これが今までで最高の剣だ! 」

　ドルゴさんがそう言うとスミナが俺に一本の長剣（ロングソード）を渡してきた。

　俺達は前回試し切りをした場所に来ている。

　そして目の先には数本の試し切り用の木が刺（さ）されていた。

「まずスミナの分で切ってみてくれ」

「では失礼して。セイッ! 」

　俺が剣を斜（なな）めに振るうとザッ! という音を立て目の前の木が長剣（ロングソード）で切り倒された。

　だが少し……切れ味が悪い。

　切った、と言うよりかは殴ったという感じだ。

　いや、元々殴るという意味合いが強いからこれで正解なのか?

　しかしドルゴさんが作った長剣（ロングソード）は『切る』と言う感じが強かった。

　ならば答えはもうすでに……。

「ケイロン、こっちは終わった。後わからない部分は頼む」

「了解」

「ほら」

「ありがと」

　ケイロンが手に持つ長剣（ロングソード）の重心（じゅうしん）などを確認している。

　時には前に振り、少し上下させたり。

　俺も確認したが、二人で確認することで客観性（きゃっかんせい）が増（ま）すだろう。

「こっちも終わったよ」

「どうだった! 」

「スミナ、待ってくれ。まだドルゴさんの長剣（ロングソード）がまだだ」

「そ、そうだった。すまねぇ」

　答えを急（いそ）ぐスミナに一言いい、少し待ってもらった。

　答え自体は出ているんだが……。形式上（けいしきじょう）とはいえドルゴさんのものを見ない限（かぎ）りは判断したらいけないだろう。

「これで頼む」

「ドルゴさんも長剣（ロングソード）ですね」

「ああ、同じ土俵（どひょう）じゃないと不公平（ふこうへい）だろ? 」

「確かに」

　てくてくこっちに剣を持ってきて渡し、そう言うドルゴさん。

　自身満々（じしんまんまん）にニカっと笑った。

「公平（こうへい）に頼むぜ、公平（こうへい）に」

「もちろんですよ。勝負事は公平（こうへい）に、じゃないと」

「頼んだぜ」

　俺の腰をバンバン叩き、離れていく。

　ドルゴさんが安全圏（あんぜんけん）にいった所を確認して前にある木を見る。

「さて。セイッ! 」

　同じように斜（なな）め切りをするとサッ! という僅（わず）かな音を立て、ずれた。

　そして木の方へ行き持ち上げ、断面（だんめん）を見る。

　綺麗（きれい）な切断面（せつだんめん）だ。見事（みごと）なまでに『切れてる』な。

「ケイロン、後は頼む」

　そう言い俺は彼にドルゴさんの長剣（ロングソード）を渡す。

　また同じように確認するケイロン。

　様子を見ていると、顔色が変わった。

　どうやらケイロンの中でも勝敗が決定したようだ。

「じゃ、じゃぁ結果を! 」

　焦（あせ）るスミナ。

　この期待（きたい）に満（み）ちた瞳。

　うう……罪悪感がすごい。

「結果を発表します」

　ゴクリ、と誰かが息を飲む音がした。

　一瞬（いっしゅん）静寂（せいじゃく）が訪（おとず）れる。

「勝負は……」

「「ドルゴさんの勝利です」」

　俺とケイロンが言葉を揃（そろ）えて結果を告（つ）げた。

　それと同時にスミナが膝（ひざ）をつく。

「なんでだよぉ! 頑張ったじゃねぇか! 」

「ハハハ。残念だったな! ちびっこドワーフ! 」

「この駄乳（だにゅう）エルフがっ! 傷に塩を塗（ぬ）りやがって! 」

「店の長剣（ロングソード）を見れば一目（ひとめ）で勝てないのがわかるじゃないか」

「分かってらぁ! そんなこと! 」

「馬鹿（ばか）め。なんでそれで長剣（ロングソード）を選（えら）んだんだ? 」

「一番需要（じゅよう）があるからだよ! 」

「だから馬鹿（ばか）だというのだ。これは勝負だぞ? 売れるも売れないも関係ないだろ、ハハハ! 」

「最高の一本を作るのに技術を磨（みが）く必要があるだろ!!! このお馬鹿（ばか）駄乳（だにゅう）エルフ!!! 」

「何だと、ちびっこドワーフが!!! 」

　取っ組（く）み合いの喧嘩（けんか）になってしまった。

　お互（たが）いに武器を持っていないのが不幸中（ふこうちゅう）の幸（さいわ）いか。

　だが、エルベルがいうことにも一理（いちり）ある。

　これは冒険者になるための試験なんだ。

　長剣（ロングソード）にこだわる必要はないな。

　確かに売るならば長剣（ロングソード）が一番売れるだろう。冒険者ギルドでもほとんどの前衛冒険者が持ってるし。

　だが、今回に限（かぎ）ってはそれを捨（す）て置いて勝負に挑（いど）み後々技術を磨（みが）けばいいんじゃないだろうか。

　本人のプライドもあるだろうからなんとも言い難（がた）いが。

　一応言ってみるか? だがどうやって言おうか。

「お前さん、武器の手入（てい）れをしてやろうか? 」

「……お願いします」

　どういうか悩（なや）みつつも喧嘩（けんか）をしているエルベルとスミナを放置（ほうち）し店の中へ入っていくのであった。

　★

「こりゃぁかなり使い込（こ）んだな」

「ええ、まぁ」

「よく生き残れたよね」

「……お前さん達まだ冒険者になったばかりなんだ。あまり無茶（むちゃ）をするなよ」

「「ごもっともで」」

　ドルゴさんが長剣（ロングソード）に凹（へこ）みがないか確認しながら付着（ふちゃく）している油をとっている。

「……多少手入（てい）れをしているようだがまだまだだな。幸（さいわ）い凹（へこ）みはないが、脂（あぶら）が残っている。もう少し上手（じょうず）に手入（てい）れしな」

「すみません……」

「ま、これが初めてなんだから仕方ねぇ。次から頑張（がんば）ればいいさ」

　地味（じみ）に凹（へこ）んだ。より念入（ねんい）りに脂（あぶら）をとろう。

　そう心に決めているとバタン! という音がしてスミナとエルベルがお互（たが）いに引っ張（ぱ）りながら入って来た。

「ワタシを早くパーティーに入れてくれ! 」