第五十七話 休日 二 買い物

 朝食を食べ終わった俺達は冒険者ギルドへ向かっていた。

 メンバーはもちろん俺とケイロンそしてエルベルである。

 しかしエルベルはきわどい服をしているため、通りすがりの男性陣には刺激が強いようだ。

 はたから見ると完全に露出狂ろしゅつきょう

 村や集落の中なら問題ないのかもしれないが、ここは町で憲兵がいる。

 き出される前に服を買わねば、俺達もパーティーメンバーとして責任を追及ついきゅうされかねない。


「どうしてみんな、オレをみるんだ? 」

「……自覚じかくないのかよ」

「エルベルだもの」

「オレが悪いのか?! 」


 流石に視線しせんに気が付いたのだろうが俺達はうなずくだけだ。

 ショックを受けたような顔でこちらを見るが、見なかったことにして前に進む。

 完全に、エルベルが原因だよな。

 に、しても……。


「タウの森のエルフはみんなそんな恰好かっこうをしているのか? 」

「大体こんな感じだな」

「……他のエルフはどうなんだろう」

「町にいたエルフは……普通の冒険者って感じだったな」

「町人もいたね」

「この町には俺以外のエルフ族がいるのか?! 」

「見たことがあるってだけで話したことないけどな」

恰好かっこうだけみるなら、完全にエルベルは犯罪者か浮浪者ふろうしゃか」

「そこまでひどくない! 離れようとするな! 泣くぞ、大通りで泣くぞ! 」


 エルベルを酷評こくひょうしていると、どんどんと近づいてきてそう言った。

 「泣く」か。何を今さら。大通りで一人トリップしていた人が何を言うか。

 俺達はもうその手にはれたんだ。


 さわいでいると冒険者ギルドに着いた。

 いつもよりも遅い出勤しゅっきんだが今日はお休みだ。

 そう思いながらとびらを開けた。


 ★


「こちら昨日の報酬ほうしゅうとなります」


 受付嬢が青い瞳をこちらに向け、小袋こぶくろを渡してくる。

 中身がぎっしりとまっている。

 中身を確認するまでもなく、大金だ。

 ここまで大金続きが連続すると感覚かんかく麻痺まひしそうだ。これは後で商業ギルドだな。


「「「ありがとうございました」」」


 一言お礼をいい、朝の冒険者ギルドにしては閑散かんさんとした中を歩く。

 そして一角いっかくにある木の椅子にすわり今日の日程にっていを決めることに。

 金額がわからなかったから計画をるの、後にしてたんだよな。


「で、どうする? 」

「服! 服を買いに行く! 」

「まるで女の子みたいなことを言うね」

「むむ、ケイロン。オレはどう見ても女だぞ? 」

「確かに、一部は、ね」

「何よぉぉ! 」


 ケイロンとエルベルのみ合いが始まってしまった。

 机をまたいでおたがいに両手をみ合わせている。

 力くらべのつもりだろうか。

 いや、しかし早く計画をらないと。


「はいはい、今日はそこまでだ計画をらないと」

「そうだったね」

「仕方ない」


 二人とも中腰ちゅうごし状態をやめ腰を下ろす。

 にらみ合ってはいるが。


「まずはエルベルの服だね」

「買いに行ってくれるんじゃないか。ケイロンのツンデレ! 」

「ツ、ツンデレ……」

思考放棄しこうほうきしたケイロンは放っておいて、次はエルベルの商業ギルドへ行くぞ」

「何でだ? 」

「この金をずっと持ち歩くつもりか」


 目を机の上に置いてある小袋こぶくろに向ける。


「持ち歩かないのか? 」

「……そんな今にも「襲ってください」みたいなことができるか。そうでなくてもエルベルは目立めだつんだ。銀行にあずけに行くんだよ」

「銀行ってなんだ? 」

「お金をあずける場所だよ」


 復活したケイロンが説明した。

 見るかぎり完全復活のようだ。

 さっきのショックは一時的なものなのだろう。

 などと思っているとケイロンの説明が終わる。


「そんな便利なとこがあるんだな」

「だから服を買いに行ったらそこに行くべきだよ」

「なら行こう! その後はどうする? 」

「……あ、『ドルゴ』へ行かないか? そろそろ剣を見てもらわないといけないと思うんだが」

「いいよ、行こう」

「『ドルゴ』ってどこだ? 」

「武器防具店だ」

「ふ~ん」


 エルベルが今度は興味なさそうに曖昧あいまいな返事をする。

 確かにエルベルのゆみ——精霊きゅう特殊とくしゅだ。

 もいらず、威力は抜群ばつぐん

 多分手入ていれも自分でしているのだろう。


「勝負の行方ゆくえも気になるしね」

「あの感じだとむずかしそうだけどな」


 俺とケイロンはスミナとドルゴさんのやり取りを見て思い出す。

 店に置いてあった剣。

 相当そうとう代物しろものであることが素人しろうとの俺でもわかる。

 スミナは未知数みちすうだけど、あのレベルの代物しろものを作れるようになるまでの期間とスミナの大体の年齢、そしてドルゴさんのあの余裕よゆうそうな表情。

 総合して勝てる見込みこみはうすそうだ。


「ま、行ってみればわかるだろ」


 その一言を皮切かわきりに俺達は冒険者ギルドを出た。


 ★


 服屋。


 冒険者ギルドからふたたび『銀狼』の方へ歩いて行き、商業区へ。

 そしてその一角いっかくにある服屋へと着いた。


「いらっしゃいま……せ」


 中に入ると煉瓦レンガでできた壁に木の床、そして清潔感せいけつかんあふれる空間に出た。

 声がする方をみるとそこには一人の長い耳を持つ種族——エルフ族の女性が。

 何か声が途切とぎれたぞ? 大丈夫か?

 心配していると店員エルフの目線めせんがエルベルに集中してる。

 彼女の恰好かっこうかな?


「あ、あなた……まさか『タウの森』のエルフ族?! 」

「そのまさかだ! 我はエルベル! 『タウの森』の『エルベル』だ! ハハハ!!! 」

「ならこの前大通りでさわいでいたのって……」

「あ~すみません。この人です」

「ぬぉぉぉぉぉ!!! 」


 女性が上げてはいけないような声を上げながらがくりとひざをついた。

 ど、どうしたというんだ?!


「大丈夫ですか? 」

「お、お兄さん達。誤解ごかいよ……。エルフ族は全員あんな変人じゃないから! 」

「……まだ大丈夫です。さいわいデリクはともかく僕は他のエルフの方と会ったことがありますから」

「なんと心優しい方なのでしょうか……。あぁ……クレア―テ様、どうしてタウの森のエルフをあのような奇行きこう種にしたのですか……」


 ケイロンと店員のやり取りを見て、思った。

 ……苦労してんだな、と。

 恐らくタウの森のエルフが他の地で何かやらかしたのだろ。

 そしてそれがエルフ族全体のイメージに広がった、と。

 とうの本人を見るとあっちこっち行って目をかがやかせながら服を見ている。

 小さな子供がやるなら可愛かわいらしいのだが、俺よりも身長の高いエルベルがやると……変人だな。

 こういう所なのだろう。


「店員さんも苦労されたんですね」

「ぐずん、ええそうなのです。村を出た時のあの奇異きいな目はどうも忘れがたく……」

「村を出た時にそれはショックですね」


 一人立ち上がり、なみだぐみながら苦労くろうばなしをする。

 本当に何をやらかしたんだ……。


「タウの森のエルフってそんなにヤバいの……あぁヤバいな」

「そうだね」

「そうです」


 俺達は今あれやこれや見るために店内を走り回るエルベルを見て全員がそう思った。


「さて、店員さん。エルベルに似合にあった服を見繕みつくろってもらいたいんだが……いいか? 」

「おまかせください。せめて、せめて外見がいけんだけでもエルフ族に相応ふさわしい格好かっこうにさせてみせます」

「お願いします」


 切実せつじつに、そう切実せつじつにお願いしながら見繕みつくろってもらうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る