第五十四話 依頼を受ける日々 六 ゴブリン討伐隊 一

「これだけのゴブリンの耳……それにモンスターの移動ですか」

「あくまで憶測おくそくにすぎませんが」


 スタミナ草を出し終わった俺達は倒したゴブリンの耳と魔石を提出ていしゅつしエルベルが言ったことをそのまま伝えた。

 少なくとも大量のゴブリンの耳と言う物的証拠しょうこがあるため、受付嬢は頭をなやませている。

 これが数体しか倒していない新人冒険者なら聞く耳を持たなかっただろう。

 だが今回はエルフ族が言った、ということもあり受付嬢の胃を刺激している。


「どうしたのです? 」


 冷たいような、りんとした声が聞こえた。

 そちらの方をみると銀髪ショートの青い瞳をした女性がいた。


「サブマス! 」

「何か不都合ふつごうなことでもおこりましたか? 」


 対応していた受付嬢が彼女の元へ向かい、事の次第しだいを伝えた。

 それを聞き、少し頭を押さえ口を開く。


「こちらへ来てください」


 そう言われ、俺達はサブマスター『ミッシェル』の部屋へと案内された。


 ★


 俺達は高級そうなソファーに座り、長机ながづくえはさんでミッシェルさんと目を合わせていた。

 めっちゃ緊張する!

 何この雰囲気! 悪いことしてないのに怒られそうな感じ!

 どこかで味わったことがあるような……あぁ、司祭様のお説教部屋だ。


「先ほどの受付嬢から話は聞きましたが、確認の為再度報告してください」

「わかりました。今日スタミナ草の依頼を受けたのですが……」


 と、ケイロンが説明しだす。

 俺は特に口をはさむこともないので目だけを動かし周りを見た。

 ミッシェルさんの後ろには仕事机があり、大量の書類が置かれている。

 質素倹約しっそけんやく、という言葉が一番合っているような部屋だ。

 かざり物がない。


 そして何より……本当に年上? と感じるような背丈せたけだ。

 が、それ以上に冷たい雰囲気を出しているので初めて会ったタイプの人だ。

 こえぇ……。


「……以上になります」

「報告ありがとうございます、ケイロン」

 

 どうやら話しが終わったようだ。ケイロンを見て、一区切ひとくぎりしたことを確認。

 それにしてもケイロンはサブマスの事を知っていたのだろうか?

 わりと報告がスムーズだ。


「そちらのエルベルさんの指摘してきの通り、このギルドの裏にある南の山でも周期的なモンスターの移動はあります」

「その時はどのように対処たいしょしているのですか? 」

あふれるモンスターを殲滅せんめつし、入れわりを待ちます」


 被害は出ないものなのだろうか。

 少しまゆを上げ、続きを聞く。


「しかし今回はこの周期から外れたモンスターの移動。まだ報告は上がっていないので調査しないとわかりませんが周辺のモンスター達であらそいがあったのか、周期が早まったのか……」

「他の町から何か情報はないのですか? 」

「現在カルボ王国内の冒険者ギルドも人員が入れわり情報のやり取りがむずかしく、情報が手に入らない状態です」


 無表情に近い彼女の顔が更に『無』へと近づいたような気がした。

 そのせいか、若干じゃっかんこの部屋の温度が下がった気もする。


 あのエカテーとかいう受付嬢の影響か。

 後から聞くと全員一斉いっせいに処罰して人員をそうえしたらしいが配置転換はいちてんかんとかで勝手かってが違い、困っているのだろう。

 しかし……よくそんなに『潔白けっぱくな』人員をかかんでたな?


「さて、原因はまだわかりませんが対応が必要ですね」

「信じてもらえるので? 」

「ええ。しかし物的証拠しょうことエルフ族の方の進言しんげんだけではありません。南の山を中心に活動している冒険者の方からも『多い』と聞いております。総合しての判断になりますが……三日ほどした後討伐隊を組みます。参加していただけると助かります」

「それは……」

「いいんじゃ「やろうぉぉ!!! 」……」


 俺が言う前にエルベルが急に立ち上がり、えた。

 その突然とつぜんの行動のせいか、サブマスの無表情が少しくずれている。


「ここはオレ達の出番だろ! 」

「やることには賛成さんせいだが、後で話があるぞ。エルベル」

「エルベルさん、ちょっとあとで……」

「な、なんだ?! オレ何か悪い事いったか? 」

「「いえいえ、ちょー――っと話があるだけです」」


 俺達のあつさらされ後退あとずさるエルベル。

 その光景こうけいを見て小さく溜息ためいきをつくミッシェルさん。

 俺達はこの後話をめて、退出するのであった。


 その日エルベルがコテンパンに説教されたのは言うまでもない。


 三日間FランクとEランクの依頼を受けながら修業しゅぎょうし、ごすのである。


 ★


みなさん、準備はととのいましたか? 」

「「「ミッシェルさん?! 」」」


 早朝冒険者ギルド前、俺達は集合しゅうごうしていた。

 討伐隊ということもあって俺達に加えて他のパーティーも見える。

 その中にはディルバートさんもいた。

 おたがいに挨拶あいさつをして隊長が来るまで待っていたのだが、予想外の人——ミッシェルさんが現れたのだ。


「ミ、ミッシェルちゃん? どうしてここに? 」

「それにその服どうしたんだ? 」

「ギルマスに何かされたのか! 」

「ギルマスありがとうござ……ギルマス許さねぇ! 」


 俺達は珍しいものを見ているような気がする。

 その氷のような表情とはまった想像そうぞううがつかないその姿。

 一体……どうしたというのだ。


猫耳ねこみみ魔法使いローブにキラキラした短杖ロッド

「それに見て。ローブ凄いよ。白をベースに北方ほくほうの国で見られるという青色の雪の六角形結晶の刺繍ししゅう。絶対に高いよ、あれ」

「ギャップがすごい……」


 背が低いわりにその威厳いげんたもってきたサブマス。

 周りの冒険者達もその可愛かわいさとは裏腹うらはらにどこかあなどれない気配を感じ、恐れていたのだろう。

 しかし今ここですべてが――くずれた。


「あら、いけませんね。調節」


 その一言でローブのすそが上がった。

 地面すれすれだったのがひざくらいまで短くなる。

 マジックアイテム?!


「……このローブと短杖ロッドには触れないでください。見た目はともかく性能はいいので」

「っく!!! 俺達のふがいなさのせいで! 」

「ミッシェルちゃんがこんなはずかしめを受けるなんて! 」

「神は……ここにいたのか……」


 一人おかしな人が――いや全員か―いるがサブマスは気にせず山の方を向いた。


「さぁ行きましょう。山狩やまがりです」


 この時俺達は思わなかった。

 彼女の、サブマスの強さというものを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る