第四十四話 Eランク昇格への道 三 パン屋さんのお手伝い 二

 パン屋『フラン』の開店時間は他の店よりも早い。

 それは他の店との差別化をはかるのと同時に早めに切り上げ明日への準備をする為だ。

 夕方からはムギを配達はいたつしてくる業者ぎょうしゃが来るのでその対応も必要となる。よって早めに店を開け焼き上がったパンの数だけお客さんに渡し、明日の準備をする。これが日常となっている。


 焼き終わった俺達は受付の手伝いをすることとなった。


「どんなお客さんがくるのですか? 」

「色々よ、色々。なんて言ったらいいのかしら。まぁお客さんが来たらわかるわ」


 ケイロンが興味深くお客さんについて聞くと、答えずらそうにフラベールさんが言う。

 多分ケイロンはパンがどのようなそうに売れているのか気になったのだろう。もし高貴こうきな人が来たら、いや来てしまったら下手へた言動げんどうが出来ない。

 しかし来たらわかるとのことなので、まぁじっくり待とう。

 恐らく特に注意なくそう言うのだから特段とくだんレベルの高い客が来るわけじゃないだろう。


 開店準備やこれからの役割の説明が終わったら俺達は定位置ていいちへ。

 店の前に行き『開店中』の看板かんばんを立てる。

 そして開店。


 カランカラン。


 開店間もなく扉に付けたすずの音がなる。

 それと同時に最初のお客さんが入って来た。


 開店と同時にまずやってきたのは……メイド服を着た女性だった。

 お、おう……。

 ハイレベルだぜ。


「「「いらっしゃいませ」」」

「おはようございます。フラベ……」


 いきなりの出来事だが俺達はつつがなく対応。

 しかしメイドさんはなにやら固まってしまった。


「あら、アイナちゃんじゃない。いらっしゃい」

「……こほん。いつもお世話になっております」

「今日は何にするの? 」

「そうですね……」


 そう言いパンをそれぞれ腕にかかえるかごに入れる。

 それを受付まで持ってきてお会計かいけい

 緊張しながらも会計かいけいませ、メイドさんにおつりを渡す。


 どうしたのだろう?

 メイドさんの目線めせんがケイロンに向かっている。

 ケイロンはケイロンで顔を硬直こうちょくさせていた。


「フ、フラベールさん。かの……彼は一体? 」

「ああ~アンデリック君とケイロン君ね。今日冒険者ギルドから助っ人で来てくれたのよ」

「そ、そうですか……。ハハハ……では私はこれで」


 そう言いメイドさんは足早あしばやっていった。


吃驚びっくりしたでしょ。メイドさんよ、メイドさん」

「驚きましたよ。一番最初がメイドさんなんて」

つかえている主人が来ることはあまりないけど、こうして貴族街の屋敷で働いている人が来ることもあるのよ」

「心臓に悪いですよ、先に言ってください」

「ほほほ、少し驚かそうと思ってね」

「いや、何か失礼があったら冗談じょうだんになりませんよ。見てください、ケイロンなんか吃驚びっくりしすぎて固まったままですよ」

「あら本当。でもこれからが勝負よ。いっぱい来るんだから、さぁ起きてケイロン君」


 フラベールさんのその一言でケイロンの硬直が解けた。

 少し動きがぎこちないが、少しずつ元に戻っていった。

 そしてここから本当に忙しくなったのである。


 ★


 昼時ひるどき

 午前の部は本当にいそがしかった。ぎこちない動きをしていたケイロンだったが、余裕よゆうがなくなりすぐにいつもの調子ちょうしを取り戻した。


 メイドさんを皮切かわきりに様々さまざまな人がやってきた。

 宿を経営している人を始め、市場いちばのマダム達に商業ギルド職員さらには女冒険者もいた。色々とはこの事だったのだろう。確かに説明しずらい。


 今俺達は休憩時間としょうしてお昼を食べていた。


「このサンドイッチ美味おいしいですね」

「そう言ってもらえると作った甲斐かいがあったわ」


 フラベールさんは少しの間受付を離れた。

 その時に何か作業をしていたと思ったが俺達の為にサンドイッチを作ってくれていたようだ。

 ありがたい。


「それにしてもケイロン君はすごい人気だったわね。市場いちばの人達とはもうすでに知り合いなの? 」

「え、えぇ……。まぁ」


 マダム達の話になり歯切はぎれが悪くなるケイロン。

 前の戦場を思い出したのだろう。

 少し目がうつろだ。


「前の依頼の時に人気者になりまして」

「デ、デリク?! また僕を売るつもりなの?! 」

「売るなんて人聞きの悪い。窮地きゅうちを脱するために、売り子をしたもらっただけさ」


 もう、とポコポコ叩いてくるが気持ちいいくらいの攻撃力だ。

 ちょっとしたりがほぐれる~。


「二人な仲良しね。仲良しはいい事よ」

「え、悪くないですね」

「そこは「めっちゃいい」とか言ってよぉ」

「フラベールさん相手に、は、恥ずかしいじゃないかっ! 」

「僕が大変な目にあったんだ。堂々どうどうと恥ずかしい想いをしてもいいんじゃないかな? かな? 」


 フラベールさんの目があたたかい。

 だが今はそのあたたかい目が俺を羞恥しゅうちまみれにする。

 助けてくれ……。


「さぁお昼はこれでおしまい。お昼の仕事にしましょう! 」

「「はい!!! 」」


 ★


「あ、お兄さん達だ! 」

「フ、フェナちゃん?! 」

『私もいるわよ!!! 』

「ト、トッキー?! 」

「「「え??? 」」」


 午後の部、お客さんをさばいていたらいつも元気なフェナと時の精霊トッキーがやってきた。

 フェナはいい。フェナはいいんだ。問題はトッキーだ。

 二人に「後から説明する」と言い、トッキーを店のすみに誘って話す。


「どういうことだトッキー」

『どういうことも何も私は精霊なんだからどこにいても可笑おかしくないでしょう? 』

「確かにそうだが、なんでフェナについてきてんだ? 」

『それは……』

「それは??? 」

『面白そうだから!!! 』


 ダメなやつだ、これ。

 この精霊の行動に頭をなやませる。

 それに面白そうってどういうことだ? 精霊ならではの面白さという物があったりするのか?


「まぁ、アンデリックの吃驚びっくりする顔が見たかったのが九割、後は私が視える人がどのくらいいるのか確認しに来たのが一割って所」


 九割面白がってんじゃないか……。

 なぐって吹き飛ばしたいが我慢だ。

 今は他のお客さんがいるのに加えてフェナとケイロン、そしてフラベールさんがいる。

 変な行動をとれば依頼失敗につながるし、何より変な人あつかいは嫌だ。


「視える人を確認ってどういうことだ?」

『昔はそれなりにいたのよ? 視える人』

「へぇ、それは面白い事を聞いた。なら昔の方が精霊信仰があつかったということか? 」

『いや? 全然。見る限りだと、今の方が多いんじゃない? 』

「どういうことだ、わかりやすく説明してくれ」

「説明も何も精霊は気まぐれだし、私のような役職をもたな……孤高ここうの精霊は気まぐれで加護をあげてたからその影響よ! 」


 ……それは君達のせいということですな。

 しかし話を聞くかぎりだと、少なくてもトッキーのような気まぐれ精霊は周りにはいないようだ。

 視える人が少ないのなら、外でトッキーと話すのはやめておこう。

 変な目で見られる。


『あっちは用事がんだみたいだから私は行くわ! 』

「お、おう……」


 じゃぁ! と手をあげてフェナと一緒に出ていくトッキー。

 姿が太陽の光をけていたから、視える人にとってはとても恐ろしい光景こうけいだった。

 自由だな、あいつ。

 

 フェナ達が出ていった後、聞きたそうな顔をしていたがそれよりもお客さんだ。

 仕事が終わったら説明するということで納得してもらいその場をしのぐのであった。

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