第三十六話 銀狼の秘密 三 武器防具店『ドルゴ』

 宿屋『銀狼』をでた俺達は一先ひとまず武器屋へ向かっている。

 大金を持っている為すぐにでも商業ギルドにあずけたいところだが、武器を買ってからということにした。

 何故なぜならいくらかかるかわからないからだ。

 最悪大きく減っても仕方ないと思っている。

 命には代えられない。


「確かこの道だったよな……」

「そうだけど、見当みあたらないね」


 銀狼のガルムさんに武器屋を教えてもらったのだがたどり着けない。

 どうもその昔ガルムさんがお世話せわになった店らしい。

 『見ればわかる』と言われ、一応の地図を辿たどりながら来たのだが道から外れてしまったようだ。

 ガルムさんが紙きれに書いてくれた地図は、お世辞にも地図とは言えないようなものだった。銀狼から一直線に書かれた先に「ココ」という文字と矢印が。

 しかし銀狼を出た所から道は分かれている。最初ガルムさんに聞くまでどっちに行ったらいいのか分からなかったほどだ。


「困ったな……」

「あそこから一直線だからこっちであってるはずなんだけど」

「おい、そこのお前! 何か困ってるのか? 」


 後ろから聞こえてくる声に反応し、振り返る。

 だが、誰も見当たらない。

 気のせい、か?


「おい、無視すんな! 」

「え? どこから??? 」

「下だ、下! こっちみろ!!! 」


 そう言われ下を向くとそこには一人の少女がいた。

 少し濃い目の褐色肌にまとめられた短い銀色の髪。

 どこか尊大そんだいな言葉使いはフェナを彷彿ほうふつとさせる。

 しかし持っている物は可愛かわいらしくなかった。

 彼女の体の半分くらいはあろうかというハンマーを持っていたからだ。


「お嬢ちゃん、どうしたんだ? 迷子か? 」

「おい、誰が迷子だ! お前達が困ってそうだから声をかけてやったのに! それに誰がお嬢ちゃんだ! これでも十八だ! 」

「え? 」

「デリク、彼女多分ドワーフ族だ」


 ケイロンが小声こごえでフォローしてくれた。

 ドワーフ。

 なるほど、それでこの身長とハンマーか。


「あ、あ~すみません。何分なにぶんドワーフと会ったことがなくて」

「それなら仕方ないな。ワタシは寛大かんだいだ! 許してやろう」

「……ありがとうございます」


 持っているハンマーを一回転させ、金色の瞳をこちらに向けた。


「で、どうしたんだ? こんな辺鄙へんぴなところまできて。あんまりウロチョロしてると危ないぞ? 」


 少し不満そうであるが、どうやら優しいドワーフのようだ。

 俺達の事を心配してくれている。


 ここは商業区を更に向こう、精肉店よりも更に山側にいった所へ来ている。

 町の外れも外れ。もう少しで町から出るところだ。


「武器屋を探してて……」

「武器屋? 」

「ええ、『ドルゴ』という武器防具店なんだが……」

「『ドルゴ』?! それは俺ん家だ! 」

「「え?!! 」」

「連れて行ってやるよ。『ドルゴ』武器防具店」


 こうして俺達はドワーフの女性に連れられドルゴへ向かうのであった。


 ★


 着いた場所は本当に町と外の境目さかいめだった。

 そして『見ればわかる』の意味も分かった。

 家のような煉瓦レンガ状の建物が二つに店のような建物が一つ。

 この店の上には大きな、そう大きなハンマーが置いてあった。

 確かに見ればわかるが、ここに辿たどり着くまでが困難ならこの目印めじるしハンマーは意味をなしていない。


「おい、父ちゃん! 客を連れてきたぞ!!! 」


 大声で叫びながら女ドワーフはずかずかと武器防具屋の中を入っていく。

 俺達もそれに続いた。

 煉瓦レンガ状の家造りは町と変わらないが、大きく変わるとしたら床やまど一切いっさい木が使われていない所だろうか。

 タタタと足音を立てながら中を歩く。


独特どくとくな臭いだね」

「鉄の臭いって言うのか? 確かにここまで濃いのは初めてだ」

「おう、お前達。武器屋とかは初めてか? 」

「ああ、少なくても俺は来たことないな」

「僕はあるけど、こんな感じじゃなかったよ」

「大体がこんな感じだ。てか、その違う店というのが気になるが……まぁいいか」

「父ちゃん! 出てこい!!! 」


 まだ出てくる気配がないので更に叫ぶ。


「こやぁ離れで鉄打ってるかもしれないな。ちょっくら見てくるから武器でも適当てきとうに見ていてくれ」


 そう言い残し、店の外に出た。


「どうするかな」

「いっぱいあるね」


 二人話しながら、周りを見渡す。

 細剣レイピア長剣ロングソード短剣ダガーに始まり、見たことのないような形状の――湾曲わんきょくした剣に俺の身長くらいはあろうかという大剣。

 他方たほうを見ると革靴かわぐつに作業様だろうか、ごつい服、スコップにくわまである。


「色々作ってるね」

無節操むせっそうともいう」


 歩き、一本の細剣レイピアを手に取る。

 軽い……。

 ケイロンの細剣レイピアも軽かったが、それ以上だ。


「おう、気に入ったか? 」


 振り返るとそこにはもう一人の男ドワーフがいた。

 隣にはさっきの女ドワーフもいる。

 彼は案内してくれた彼女よりも頭一つ身長が高い。

 並んでみると親子とわかる。

 髪の色に肌の色、雰囲気までも似ている。


「勝手に触ってすみません!!! 」

「かまわねぇ。武器を買いに来たんだろ? 触ってみねぇとわかんねぇしな」


 恐らく仕事の後なのだろう、ボロボロな前けを外し、ガハハハハハと笑いながら受付近くの椅子に座った。


「で、お前さん達武器を買いに来たのは分かるがどうしてここへ来たんだ? 」

「そうだぜ、こんな辺鄙へんぴでしょぼくれた武器屋を探しに来るなんてよっぽど物好きだな」

「しょぼくれたは余計だ、スミナ! だが本当にどうしてここに? 」

「ガルムさんにココを進められまして」

「おおー、あのガルムか。何だいきなことをしてくれるじゃねぇか! 」


 陽気ようきな声で手でひざを叩きながらそう言った。


「なぁ父ちゃん、そのガルムって人は誰なんだ? 」

「昔の客よ。いやぁそうか、そうか。元気か。今奴はどうしてる? 」

「今は商業区の方で宿屋をやってますよ」

「ほう。それは良いこと聞いた。連絡寄越よこさねぇあの悪がきをとっちめにいってやらねぇとな」


 とっちめるといいながらもどこか昔なつかしむような感じでそう言った。

 長く伸びた白いひげを手ででながら笑みを浮かべている。


「まぁ昔話は後だ。ここは『ドルゴ』武器防具店。さぁ買いてぇもんをいいな」

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