第三十五話 銀狼の秘密 二 お金と武器

 宿屋『銀狼』二階、アンデリックの部屋。


「そっちはどのくらい入ってた? 」

小袋こぶくろは金貨二枚……そっちは」

「……手伝って欲しいな」


 今俺達はもらった報酬を数えている。


 宿屋『銀狼』に戻った俺達はガルムさんとフェルーナさんに戻ってきたことを伝え、すぐに二階へ上がった。

 フェナが見えなかったがどうやら今はおつかいらしい。

 だがこれは好都合こうつごうであった。

 口が軽いとは思わないが、知られる人物は少ない方が良い。

 もし俺達がお金を数えている時にフェナが入ってきたら山積やまずみになったお金に驚くだろう。そしてちょっとのうっかりでれてしまったらと思うと気が気でない。


「一、十……あああああ」

「その気持ち、わかるよ」


 大袋からお金を取り、数えていく。

 一枚、二枚と重ねていったら少し手が隣の山に触れてくずれた。

 俺の努力がぁぁ!


「それにしても多いな」

「そうだね……」


 遠い目をして俺は言い、ケイロンが肯定こうていする。

 山が一つ、山が二つ……ああああああ。


「この大金……どうしよう」

「どこかあずけるところがあれば一番いいんだけど」

「そんな都合のいいところあるのか? 」

「手数料がかかっていいなら、商業ギルドかな」

「商業ギルド、か」


 そうじて金貨二枚と銀貨二百六枚、銅貨百枚に銭貨せんか三百枚。銭貨せんか一枚で一Gゴルなので四百七万飛んで三百Gゴルとなる。

 一気いっきに大金持ちだ……。

 数字をかぞえ机の上を見てその金額の大きさに、引く。

 眩暈めまいがしそうだ。


一先ひとまず山けだな」

 

 そう言い、半分を山ごとケイロンの方へ移動させる。


「ちょ、多いって! 」

「そりゃぁ半分だから」

「金貨二枚、二百万Gゴルはデリクのものだよ」

「いやいやケイロン君、そう言わないでくれ。あの時細剣レイピアを渡してくれなかったら勝てなかったじゃないか」

「そうかもしれないけど仕送りするんでしょ? 実家に。だったら持っていた方がいいんじゃないかな? 」

「うぐっ」


 そう言われると痛い。

 確かにそうだ。仕送りをしないといけない。

 だが考えてみてくれ。村を出て約一週間。そこで金貨を送ったらどう思うかを。

 何か犯罪でもしているんじゃないかと疑われてしまう。


「それに武器を買わないといけないんじゃないかな? かな? 」


 椅子から立ち上がり、見上げるようにぐぐっとせまる。

 それにどぎまぎしながらも、壊れた短剣ダガ—の事を思い返す。

 特に愛着あいちゃくがあったわけではないがやはりじいちゃんからもらった物と思うとさびしい気もする。

 あと一本あるが予備よびとしておいておきたい。


「あー、わかった、わかった。金貨はとっておくよ、俺のけだ」

「わかればよろしい」


 満足まんぞくそうな顔をして元の椅子に戻り、金貨一枚をこちらに渡す。


「で、どうしたものか。大金を持ち歩くわけにはいかないし」

「僕のアイテムバックに入れてても盗まれたらそれで終わりだからね……」

「それだよなぁ。一応、いくつかに分散ぶんさんはさせるが限度げんどがあるしな」

「ならやっぱり商業ギルドにあずけようか」

「そうだな、それがいい」


 結局の所、商業ギルドにあずけるということになった。

 それぞれ山を片付けていく。

 俺は背負袋せいおいぶくろ小袋こぶくろに。ケイロンはいつもの小袋アイテムバックにしまい込む。


 しまい終わったところでコンコンコンと音がした。

 どうやらお昼の用意ができたようだ。


 ★


 昼食を終え満足まんぞくしたところで武器の話になった。


「……どうしようか」

「前は短剣ダガーを使ってたからやっぱり今度も短剣ダガー? 」

「ん~細剣レイピアてがたい。結局の所体の大きなモンスターが現れたら少なくても魔核コアまで剣を刺さないといけないからな」

「魔法はどうなの? この前物凄い身体強化を見たけど。魔法を中心にして戦えば? 」

「毎回倒れるわけにはいかない」


 俺の言葉にどこか納得なっとくするケイロン。

 だが魔法もありだ。それなら短杖ロッドを使えばいい。

 武器を新しく買わなくてもいい。

 だがな……。魔力量がな。


「お、武器の話か。なら大剣でズバってのはどうだ? 」


 奥から銀色の尻尾しっぽらしながらガルムさんがやってきた。

 大剣か。自分の体を見て考える。

 うん、無理だな。身長が足りない。

 決して低いわけではない。平均的だ。

 しかし大剣を背負せおう程の体の大きさではない。


「貴方、自分のこのみを押し付けてどうするのですか」


 更に奥から金色の尻尾しっぽらしながらとがめるのはフェルーナさんだ。

 二人とも今日もかがやいている!

 主に尻尾しっぽと耳が。


「魔法を使えるということは、やはり短杖ロッドでしょう。見た所、魔力量が多くなっているようですし」

「え? 多く? 」

「はい。最初は気付かなかったのですが、倒れる前に比べてその後では大分魔力量が多くなってますね」

「魔力感知、ですか? 」

「ええ、以前とは別人のようですよ? 」


 フェルーナさんの金色の瞳が更に光る。

 今も感知しているのだろう。

 そんなにも違うのか。なら武器を買わず、魔法に専念せんねんするのもありだな。


「ただ……」

「ただ? 」

「それで魔法が劇的げきてき向上するかは分かりませんが」

「どういうことですか? 」

「力を制御せいぎょするためにそれなりの訓練が必要となるということです。先程のおっとではありませんが——大剣は論外ですが何かやりれた方法で戦いながら別口べつくちで訓練をした方がいいかと思います」


 なるほど。

 ならやっぱり短剣ダガーになるのか。

 しかし、この前のデビルグリズリーのような敵が現れたらな……。そうそう現れたら困るけど。

 そう思うとやはり長めの剣を使った方が良い気もする。


「一度武器屋に行ってから考えるのもありだね。ほら、実際に触ってみないとわからないかもしれないし」

「そうだな……。一度武器屋へ行ってみるか! 」


 今日の方針が決定したことろで俺達は支度をして銀狼を出るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る